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5章 魔法少女と魔物襲来

155話 覚醒(後編)

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 魔法少女服が光り、形が変化していく。

 指空き手袋には指が付き、服は「逃げちゃダメだ」で有名なアニメのスーツのように、体を薄く覆った。

 脚や胸あたりには硬そうな板みたいなのが付き、手には変化を終えた細いステッキを、刀のように握る。

 覚醒後のフォーム。可愛らしい色は抑えめになってるけど、流石に無くなってはない。

 でも、体は軽くて力がドッと溢れ出してくる感じがする。
 魔力の流れもスムーズだ。

「…………ヒール。」
貫かれた体が、綺麗さっぱり消え失せる。その場には、血に染まった地面と血溜まりがあった。

 女の子に傷をつけたこと、後悔させてあげるよ。

「ほう、面白い能力だな。解剖でもしてやろうか?」
余裕そうな声色だけど、不気味なことに表情は凍りついたように変わっていない。

 本気の本気。一瞬の、儚い力だけど……その間に倒しちゃえばいい。

「できるなら、してみれば?」
さっきの痛みは消えたはずなのに、体にジクジクと痛む。忘れたくとも、嫌に思い出してしまう。

 あのままだと、確実に死んでた。そういう意味では、記憶に刻みつけておかないといけない。

「弱いと見下した人間に、殺されろ。」
足を一歩踏み出すと、そこにはもう私の姿はない。魔力の動きも増大するため、ステータス以上の力も発揮できる。

 ちょっと私は怒ってる。あそこまでして、ここまで見くびる。
 殺しても殺したりない。死にたいって懇願するほど痛めつけて、それから殺したい。

「速い。地力が変わったか?」
地龍も同じように、足を踏み出す。次の瞬間には、ガキィィッ、と火花が散る。

 見えない速度同士が、見えない斬撃を繰り出す。すごい光景だ。

「うむ、いきなり動きが変わったな。」
「だからどうしたの?結局、あなたの運命は、変わらないっ!」
カチ、カチ、カチ。時計が動く音がする。きっかり12回音が鳴り、鐘が鳴る。

 運命は、動き出す。廻り、廻りながら。

「…………ッ!!」
口はうまく動かない。でも、体は自然と動く。まるで、絡繰人形みたいに。

 今は、それでいい。まずは倒すことを最優先に。

 体が滑るように動く。その度に腕を振い、刀のようなステッキが光る。

「っ?動きが速い、速すぎる。」
黒い鱗がどんどん削れていく。追撃のように魔法を生み出し、幾重にも重なり合った雷や炎、剣や弓が空に浮かぶ。

「早く、……倒れてっ!」
喉を引き絞り、声を発する。

 前、覚醒を使った時はこんなことにはならなかった。多分、運命の作用なんだと思う。

「ちっ!小賢しい。」
ステッキを叩くたび、魔力を流していたので脈は阻害されている。そのため、地龍は魔法を使えない。

「どう?これが、一方的な虐殺。弱者は何もできない!」
跳躍。地龍は隙を見つけたと言わんばかりに腕を伸ばすが、空中歩行を忘れてはいけない。

 そんな見え見えな罠、引っかかるバカがどこにいるの。避けられるなら、誰で避けるよ。

 空中歩行の足場を蹴り、レールガンレベルの速度で腕を振り下ろす。

「カッ……はぁ、貴様……」
言葉を無視し、大きく亀裂が入った腕に混合弾を撃ち放った。当たると同時に爆発し、砕け散る。

 剣戟を交わす必要すらない。その前に、殺し尽くす。

「止まってるよ。」
空いた腹に一撃、ステッキを当てる。それとほぼ同時に万属剣を射出し、体を縫い止めるように刺さる。

「はい、終わりだね。」
手を数度払って、私は張り付けられた地龍を睨む。

「貴様、許さん。絶対に、殺して、やる。絶、‥‥‥‥………………………………に。」
背中に浮かんだ赤い模様は消え失せ、ガクッと前のめりになる。死んだのかと万能感知で見てみると、まだ息はしている。

 どういうこと?気絶?

 そんなふうに不思議に思っていると、地龍が起き上がる。咄嗟にステッキを構え、今すぐトドメを刺せる体制をとった。

「落ち着け、我輩は奴とは違う。」
それは、さっきより穏やかで優しい声だ。

「一方的だが勘弁してくれ。我輩の命は、どのみちもうない。この姿になったからには、死なねばならない。」
つらつらと、言葉を挟むことを許さないように話していく。

「我輩は洗脳されていたようだ。軽くしか話せぬが、許してくれ。」
苦しそうに呻き、悪いな、と一言言ってまた話し出す。

 洗脳……あの、赤い模様のこと?

 不思議に思う間も無く、次に話が進む。

「我輩を殺してくれ。野垂れ死ぬより、最後に餞でも送り、殺してくれ。この暴走した体を抑えてくれた主に託せるのは、我輩の心臓と核石だけだ。」
悲しそうに、申し訳なさそうに、悔しそうに。そんな声色だった。

「我輩の力を継承してくれ。」
「え?」
最後の一言は、本当に意味が分からなくて声が出る。

 継承?なんで私が?地龍の力を……?

「どのみち消えゆく力だ。主のような者に使われるなら、我輩も本望だ。」
手を差し伸べてくる。突然の展開に、驚きが隠せない。

 地龍のステータスが全部私のになったら、とんでもないことになる。
 それこそ、災害レベルだよ。

「ほんの気まぐれだ。龍の気まぐれぐらい、受け取ってくれても構わぬだろう?」

「分かった。突然すぎるけど、そこまで言うなら。」
差し伸べられた手を握る。尖ってはない、優しい手だ。静かに、トールを流す。相当脆くなっていたのか、簡単に灰になった。

「これで、よかったのかな?」
そんな心持ちの中、覚醒状態を解除すると、頭痛や痛みに襲われる。

「忘れてた………」
身体中が悲鳴をあげ、地面にのたうち回る。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 そのとき、森には奇怪な叫び声が聞こえたという。世の中不思議なこともあるものだ。

———————————————————————

 ソラの心情が曖昧です。運命には、どんな作用があったのか。
 しかも、地龍の力を継承。とんでもないことになります。今までのソラの苦労は……

 一気にチートになりますね。

 あ、ちなみにこれも最初の考えには皆無でした。人の考えってコロコロ変わって、不思議ですね。
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