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5章 魔法少女と魔物襲来

134話 魔法少女は絡まれる

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 ズズズズズ……最後の1滴まで飲み干して、ぷはぁーと息を吐いた。
 口を離した勢いで、ストローがくるっと回る。

「よし、テレスさんとこ行こうかな。」
ティリーが「オーナー、店長に用です?」とクリームソーダの空きコップを回収しながら聞く。

 いや、オーナーって……店で私をオーナーって呼ばないで。というか、どこでもオーナーって言わないで。

「そのオーナーってやめて。私は普通に空でいいから。そんな大した人間じゃないし、呼び捨てでいいから。」

「お金を貰ってるわけですし、呼び捨てはいけませんよ。常識的に。」
「可愛い」で働こうとしたティリーにだけは、常識を語られたくなかったけど、正論だったので言い返せない。

 オーナーっていうのは、なんか大変そうで嫌だけど……タダでご飯が食べられるのは嬉しい。
 元々安いけど。

 誰のせいかって?私の魔力産だからね。あ、私のせいだ。

「じゃ、私はテレスさんのとこ行って、感想聞いてくるよ。」

 スペアステッキの使い心地とか、調整したりしたいしね。感想をどんどん募集するよ。

「ちょっと、そこの嬢さん。ここは先払いだよ。まだ払ってないでしょ。」
突然腕を掴まれる。私は意味が分からず、片眉をあげた。

 誰?このお婆ちゃん。私、こんな人雇った覚えないし……テレスさんが勝手なことするなんて思えない。

「あの、あなた誰ですか?」
「ん?わたしゃただの客だよ。さっさと金を払いなさいな。食い逃げは許されないよ。」
何か勘違いしてるみたいだ。内心、めんどくさいなーと思いつつ、ため息を吐く。

 私、お婆ちゃんになんか勘違いされてる?

「捕まったことに嘆くのかい?その行動を、まず悔いたらどうだい?」

 何言ってるか分からない。このお婆ちゃん、なんか言い方悪いけど……うざっ……いや、何でもないです。

「キヨお婆ちゃん!大丈夫ですよ、ソラさんは別に食い逃げじゃ……」
「ティリーちゃん!食い逃げの極悪犯だよ、捕まえておくれ。」
私のか弱い腕を乱暴に振り、ティリーの元まで連れて行った。めんどくさいの一言に尽きる。

 なんなの?万引き犯捕まえたい、スーパーのお騒がせパートおばちゃん?

「ですから、ソラさんは……」
「なんだい!食い逃げを見逃すってのかい?」
「だから、そうじゃなくて……」
一生喋りきれず、もどかしそうにしているティリー……ご愁傷様。

 頭蓋にブーメランが飛んできた。私も私で、ご愁傷様。

「ここは私の行きつけの店なんだ。平穏を脅かす輩を見逃せないよ。」
力強い声で、ティリーに言い放った。

 キヨお婆ちゃんだっけ。この店に思い入れがあるのは嬉しいけど……

「そろそろ手、離してくれない?」
「無理だね。」

 酷い。か弱い女の子をいじめて、楽しいのか!?まぁ、演技は置いといて、誰か説明して。ティリーじゃ実力不足。

 悲しそうにうるうると目を潤ませ、トレイを胸に抱いている。

 何もしないんだったら、働いて。給料下げるよ。

 嘘だけど。

「おや、ネトラーさんじゃないかい。この子を捕まえておくれ。警備隊にでも引き渡してやりな。」

「あらー?キヨお婆ちゃん?どうしてソラさんを捕まえないといけないのかしら?」
突然のことで困惑してるのか、首を傾げた。

 一部の男の人達に人気出そうだね。あ、出てるのか。ママみが凄いしね。

 じゃなかった。ネトラーさん!助けて!

「食い逃げしたのよ、この子が。」

「ソラさんはここでの食事は、タダですよ?たまに心苦しいからと払ってくれることもありますけどね。」
ゆったりとした口調で、諭すように言う。お婆ちゃんはおかしそうに眉を顰めた。

「どういうことだい?この子だけ特別扱いなのかい?」

 そのことについてだけど、私も同意見。なんか腹立つけど。
 だってさ、いくら創設者でも限度がある。金を払わずに食べるなんて、あんまりしたくない。

 今日だって、テレスさんに直接渡そうと思ってたし。
 先払いだと並ばないといけないし。その代わり、端っこの席に座らせてもらって、すぐ帰るつもりだった。

「ソラさんは、ここのオーナーですよ。このお店を作ったのも、食材提供も、ソラさんがしてくださってますから、そのくらいはお礼として当然だと思ったんですが……」
頬に手を当て、困ったように私を見る。

「って、ことなんだけど……離してくれます?」
痛くはないけど、腕を掴まれるのも疲れてきたからそう聞く。

 か細い私の腕も、魔法少女服を着ていれば何故か痛くない!私の不思議の1つだ。

「……そうかい。疑って悪かったね。あんたがオーナーかい……」
上から下、下から上を見て疑うような視線になる。

 久しぶりに格好について疑われた……?

「いつもここには世話になってるよ。美味しいご飯をありがとうね。」
そう言い残して帰って行った。

 ……いい人、なのかな?自分の我を押し付けるところがあるけど、それでも正義と思ってやってるし……

 正義だと思っても、それはただの方便かもしれない。

 正義の反対は正義。なにが正義なのかなんて、私みたいな魔法少女には分かんないや。

「……じゃあ、今度こそテレスさんのとこ行くから……捕まえないでね?」

「捕まえませんよ!」
ティリーが驚きながらもノッてくれた。

 現代の子供は、元気でいいね。歳上だけど。

「この世界にも、やっぱりこういう人はいるんだ。」
今後は絡まれませんように、と両手を合わせて祈った。

 これが後の、大フラグ戦争の幕開けになるとも知らず。
 ま、そんなもの後にも先にも無いけどね。

「テレスさーん、お邪魔するよー。」
ついでにパンでも持って帰ろうかと思いながら、キッチンを覗いた。

———————————————————————

 どうでもいい話ですが、ここのパンは手作りです。小麦もどきをソラさんが作り、テレスさん達がせっせこ捏ねます。

 ここのお店はとっても安いので、是非来てください。(行きようがない)

 あ、あと物価問題が発生している気がしましたので、いつか直します。いつか……そう、いつか。
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