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3章 魔法少女と水の都

81.5話 お出かけ 2(ロア視点)

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「ん~~、やっぱり新鮮なお魚は美味しいですね。美味しいお魚は、この国ではティランくらいではないですか?」

「そう言ってくれるとありがたいねえ。」
「ここが1番ですよ。」

「おっ、殊勝なこと言ってくれるのかい。どんどん食いな、嬢さん。」
ネル様はそんなことを言って、魚を黒い水につけて食べていきます。

 私たちは、とれたての魚を捌いてもらって、今そのお刺身を食べています。

 とても優しい漁師の方が、軽食を探していた私たちに食べさせてくれたんです。

 最近は漁にあまり出られないらしいのですが、とっても優しい漁師さんですね。

 この黒い液体はサルスといって、そのままではしょっぱいですけど、刺身につけるととても美味しいです。

 他の料理にも使えそうですね……

「んー、おいしいです。」
もぐもぐと刺身を口に入れたハリア様が、幸せそうに言います。

 貴族のハリア様が言うくらいですから、ここのお魚は本当に美味しいということですね。

 お魚を食べるのもほどほどにして、私たちは川の方に歩き始めました。
 川までは少し遠いみたいで、ちょっとした遠足みたいですね。行ったことは無いですけど。

「帰りにあのお魚、買って帰りません?ソラさんのお土産にもなりそうですし。」

「お母さまにも食べてもらいたいです!」

 そういえば、ソラお姉ちゃんはお魚は好きなんでしょうか?
 お姉ちゃんは、なんでも美味しいと言ってくれそうですけどね。

「私も、いいと思います。」
私も2人の意見に賛成して、「それでは決まりですね」と言ってまた楽しそうに弾んで歩きました。

 ネル様は本当に優しい人で、ネル様を見てると貴族も平民も変わらないなと思ってしまうことがあります……でも、それはダメなんですね。

 ソラお姉ちゃんの言う通り、他の貴族は違うんですから。
 ただ、私たちの出会った人たちがいい人なだけなんですから……

 やっぱり、誰でも自由に遊び回れるような、そんな世界は存在しないんですね。

 途中でネル様とハリア様に「大丈夫ですか?」と心配されたので、笑顔で「大丈夫ですよ」と返しました。
 やっぱり2人は優しいなと、再確認しました。

 いつの間にか人は少なくなり、建物も減ってきた。

 海は危ないと言っていたので、海からは遠い外側にある川に行くみたいです。
 自然が多くなり、空気が美味しいです。

「こうやって、みんなで自然の中を歩くだけでも、とっても楽しいんですね。」
やっぱり楽しげな笑顔で、ネル様は言います。

「ぼくも、初めてだけど楽しいです!」

「ロアはどうですか。楽しいですか?」
「私、ですか?」
突然ネル様は、私にそう話を振ります。

 私は、今どう思ってるのでしょうか?今私は楽しいはずで、でもそれが…なんて言うのでしょう。
 よく、分からないんです。

 でもやっぱり、私は……

「……はい、とっても。」

「ならよかったです。」
安心したように、胸を撫で下ろしました。

「私たちが楽しいだけで、ロアは楽しめてないんじゃないかって、少し不安だったんです。」
ネル様は、安堵したかのように続けていいます。

「勝手に連れ出して、勝手に歩き回って、迷惑をかけてしまっているんじゃないかと……でも、楽しんでくれているなら、私も嬉しいです。」

 平民である私をそんな風に思って悩んでくれていたなんて。

 なら、私もそれに応えないと。私も、全力で楽しもう。

「行きましょう!ネル様、ハリア様。川まであともうすぐです!」
今日1番の声を出して、2人の手を引こうとして、やめました。

 流石にそれは失礼に当たると思ったので、手を引くのはやめました。

「そうですね、行きましょうか。ハリア、もう少し頑張りましょうね。」
汗が滲んで、少し疲れた様子のハリア様に水を持たせ、手を握って先に進みます。

 しばらくすると、涼しい風が頬を通り、それが川の水を渡った風だと気付きました。

 ネル様の話によると、4種類の川はそれぞれ違って、透明度が高い川、核石が埋まっている不思議な川、魚が多く住む川、水温が変わらない川があるそうです。

「この川は、1年中水温の変わらないとくべつな川です。ネルお姉ちゃん、ロアお姉ちゃん、いっしょに行きましょう。」

「洋服が汚れてしまいますから、足だけですよ。」
靴を脱ぎ始めた2人は、私に手招きをします。

「今行きます。」
私も靴を脱ぎ、恐る恐る川に足を入れます。

 ……ひんやりしていて気持ちいですね。
川の流れも強く無いですし、とても快適です。

「冷たくて気持ちいいですね、ロア。」
「はい!」
初めての川遊びなのか、ぱちゃぱちゃ音を立てて遊ぶハリア様を、「服が汚れますよ」と諌めるネル様の構図ができあがりました。

 そういう私も、川遊びは初めてなんですけどね。

 なんだか本当の姉弟みたいに見えます。
今頃サキは、なにをしているんでしょう?

 1人で寂しくて泣いていないでしょうか。
 1人で出かけて、怪我でもしてなければいいんですけど……

 服が汚れない程度に川遊びを楽しんだあと、私たちはお屋敷に帰ってきました。

「帰りました、お母さま。」
「おかえり。」
ハリア様に続いて挨拶をして、居間に向かいます。

 あれ?ソラお姉ちゃんがいません。お出かけしているんでしょうか。

 1人居間の扉を開けると、そこには1人の男性がいます。

 一瞬固まりました。
そう、そこにいたのは街では知らない人はいない、私の街の領主様です。

「あぁ、君がロアという子か。ソラからもネルからも聞いている。」
その時私はなんと言ったか覚えていませんが、多分「はっ、はぃ……」と言ったと思います。

「お父様?お早いですね、お仕事が終わったんですか?」

「そうだ。思ったより早く終わりそうだったからか。事情を話したら、マリンの奴が『残りは任せて』と言ってな。」
急いで早馬に乗って来た、と領主様は笑っていました。

「それにしても、ソラはいつ帰ってくるんだ?」
文句の1つでも言わないとな……と小声で呟き、私たちが入って来た扉の方向を見ます。

 一体ソラお姉ちゃんは、なにをしたんでしょうか?不安で仕方ありません。

 その後、何十分か経った後にソラお姉ちゃんは帰って来て、領主様に小言を言われていました。

 「街の利益になるとはいえ、急すぎる」「こっちの身にもなってくれ」「聞いているのか?」と散々言われていました。

 でもすみません、ソラお姉ちゃん。私にはどうすることもできません。

———————————————————————

「ロア……助けてぇ…」こんな感じだったんでしょうね。
 ようやく次はソラの出番です。
出番と言っても、観光はできませんが。










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