84 / 681
3章 魔法少女と水の都
81.5話 お出かけ 2(ロア視点)
しおりを挟む「ん~~、やっぱり新鮮なお魚は美味しいですね。美味しいお魚は、この国ではティランくらいではないですか?」
「そう言ってくれるとありがたいねえ。」
「ここが1番ですよ。」
「おっ、殊勝なこと言ってくれるのかい。どんどん食いな、嬢さん。」
ネル様はそんなことを言って、魚を黒い水につけて食べていきます。
私たちは、とれたての魚を捌いてもらって、今そのお刺身を食べています。
とても優しい漁師の方が、軽食を探していた私たちに食べさせてくれたんです。
最近は漁にあまり出られないらしいのですが、とっても優しい漁師さんですね。
この黒い液体はサルスといって、そのままではしょっぱいですけど、刺身につけるととても美味しいです。
他の料理にも使えそうですね……
「んー、おいしいです。」
もぐもぐと刺身を口に入れたハリア様が、幸せそうに言います。
貴族のハリア様が言うくらいですから、ここのお魚は本当に美味しいということですね。
お魚を食べるのもほどほどにして、私たちは川の方に歩き始めました。
川までは少し遠いみたいで、ちょっとした遠足みたいですね。行ったことは無いですけど。
「帰りにあのお魚、買って帰りません?ソラさんのお土産にもなりそうですし。」
「お母さまにも食べてもらいたいです!」
そういえば、ソラお姉ちゃんはお魚は好きなんでしょうか?
お姉ちゃんは、なんでも美味しいと言ってくれそうですけどね。
「私も、いいと思います。」
私も2人の意見に賛成して、「それでは決まりですね」と言ってまた楽しそうに弾んで歩きました。
ネル様は本当に優しい人で、ネル様を見てると貴族も平民も変わらないなと思ってしまうことがあります……でも、それはダメなんですね。
ソラお姉ちゃんの言う通り、他の貴族は違うんですから。
ただ、私たちの出会った人たちがいい人なだけなんですから……
やっぱり、誰でも自由に遊び回れるような、そんな世界は存在しないんですね。
途中でネル様とハリア様に「大丈夫ですか?」と心配されたので、笑顔で「大丈夫ですよ」と返しました。
やっぱり2人は優しいなと、再確認しました。
いつの間にか人は少なくなり、建物も減ってきた。
海は危ないと言っていたので、海からは遠い外側にある川に行くみたいです。
自然が多くなり、空気が美味しいです。
「こうやって、みんなで自然の中を歩くだけでも、とっても楽しいんですね。」
やっぱり楽しげな笑顔で、ネル様は言います。
「ぼくも、初めてだけど楽しいです!」
「ロアはどうですか。楽しいですか?」
「私、ですか?」
突然ネル様は、私にそう話を振ります。
私は、今どう思ってるのでしょうか?今私は楽しいはずで、でもそれが…なんて言うのでしょう。
よく、分からないんです。
でもやっぱり、私は……
「……はい、とっても。」
「ならよかったです。」
安心したように、胸を撫で下ろしました。
「私たちが楽しいだけで、ロアは楽しめてないんじゃないかって、少し不安だったんです。」
ネル様は、安堵したかのように続けていいます。
「勝手に連れ出して、勝手に歩き回って、迷惑をかけてしまっているんじゃないかと……でも、楽しんでくれているなら、私も嬉しいです。」
平民である私をそんな風に思って悩んでくれていたなんて。
なら、私もそれに応えないと。私も、全力で楽しもう。
「行きましょう!ネル様、ハリア様。川まであともうすぐです!」
今日1番の声を出して、2人の手を引こうとして、やめました。
流石にそれは失礼に当たると思ったので、手を引くのはやめました。
「そうですね、行きましょうか。ハリア、もう少し頑張りましょうね。」
汗が滲んで、少し疲れた様子のハリア様に水を持たせ、手を握って先に進みます。
しばらくすると、涼しい風が頬を通り、それが川の水を渡った風だと気付きました。
ネル様の話によると、4種類の川はそれぞれ違って、透明度が高い川、核石が埋まっている不思議な川、魚が多く住む川、水温が変わらない川があるそうです。
「この川は、1年中水温の変わらないとくべつな川です。ネルお姉ちゃん、ロアお姉ちゃん、いっしょに行きましょう。」
「洋服が汚れてしまいますから、足だけですよ。」
靴を脱ぎ始めた2人は、私に手招きをします。
「今行きます。」
私も靴を脱ぎ、恐る恐る川に足を入れます。
……ひんやりしていて気持ちいですね。
川の流れも強く無いですし、とても快適です。
「冷たくて気持ちいいですね、ロア。」
「はい!」
初めての川遊びなのか、ぱちゃぱちゃ音を立てて遊ぶハリア様を、「服が汚れますよ」と諌めるネル様の構図ができあがりました。
そういう私も、川遊びは初めてなんですけどね。
なんだか本当の姉弟みたいに見えます。
今頃サキは、なにをしているんでしょう?
1人で寂しくて泣いていないでしょうか。
1人で出かけて、怪我でもしてなければいいんですけど……
服が汚れない程度に川遊びを楽しんだあと、私たちはお屋敷に帰ってきました。
「帰りました、お母さま。」
「おかえり。」
ハリア様に続いて挨拶をして、居間に向かいます。
あれ?ソラお姉ちゃんがいません。お出かけしているんでしょうか。
1人居間の扉を開けると、そこには1人の男性がいます。
一瞬固まりました。
そう、そこにいたのは街では知らない人はいない、私の街の領主様です。
「あぁ、君がロアという子か。ソラからもネルからも聞いている。」
その時私はなんと言ったか覚えていませんが、多分「はっ、はぃ……」と言ったと思います。
「お父様?お早いですね、お仕事が終わったんですか?」
「そうだ。思ったより早く終わりそうだったからか。事情を話したら、マリンの奴が『残りは任せて』と言ってな。」
急いで早馬に乗って来た、と領主様は笑っていました。
「それにしても、ソラはいつ帰ってくるんだ?」
文句の1つでも言わないとな……と小声で呟き、私たちが入って来た扉の方向を見ます。
一体ソラお姉ちゃんは、なにをしたんでしょうか?不安で仕方ありません。
その後、何十分か経った後にソラお姉ちゃんは帰って来て、領主様に小言を言われていました。
「街の利益になるとはいえ、急すぎる」「こっちの身にもなってくれ」「聞いているのか?」と散々言われていました。
でもすみません、ソラお姉ちゃん。私にはどうすることもできません。
———————————————————————
「ロア……助けてぇ…」こんな感じだったんでしょうね。
ようやく次はソラの出番です。
出番と言っても、観光はできませんが。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる