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3章 魔法少女と水の都

91話  魔法少女は本気出す

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「ルリィは終わらせる。この戦いを。」
ルリィはそう言って、精霊陣を幾つも重ねる。

 沢山の星が円の中に描かれていって、ルリィは必死に制御する。

 これで防げなかったら、ルリィはどうなっちゃうんだろう?って思う。
 たぶん、ソラちゃんが助けに入ると思う。

 だから、ルリィが失敗するわけにはいかない。

 ルリィの作った精霊陣は、アテックの力によって蒼白く燃え盛った。

 それが直接、精霊の力で作られた導火線に燃え広がり、中央が蒼白い異空間のようになる。

「ルリィの精霊の力がある限り、どんな攻撃も吸い止める!」

 吸い止めるって、あんまりかっこよく無いなぁ。
でも、そのまんまだから仕方ない。

 次の大精霊は、創命の精霊とかがいいなぁ。この前来たけど、かっこよかったし。

「グアァァァァァッ゛‼︎」
ソラちゃんの撃った、よく分からない電気の攻撃が、継続的に放たれてるような気分だった。

 これが、水竜の命懸けの一撃。
水龍になりかけの水竜だから、ルリィ、勝ちたいな。

 そうすれば信頼も出来て、依頼を受けるのに役立つし。

「今はそんなことどうでもいい。ルリィには、やるべきことが今、目の前にある。」
水竜は溢れるくらい多い力を口に溜め、それを思いっきり吐き出した。

 それが何に見えるか、分からない。水に見えたり、何かの塊に見えたり、見え方が変わる変な攻撃。

 でも、防がなきゃいけないことには変わりない。
ルリィは更に精霊陣を大きく広げ、水竜の攻撃に備える。

————————————

 ちょっと待って、あれを防ぐ気?

 あの攻撃、私は全くもって知らないけど、とんでもないってことだけは分かる。

 形は竜の形。竜の息吹、的な?やつで、それは超強化された力の塊で形成されてる。
 魔力感知では微量な魔力しか感じない。

 でも、魔力だけじゃない何かがある。空気に漂う別に力、ルリィにもある通り精霊の力、とてもルリィ1人で対処できるものじゃない。

 でも。だからって、ルリィの覚悟を無下にしていい理由にはならない。
 そして、「私が嫌だから」そんな感情的な願いで、ルリィの覚悟を汚すことは許されない。

 だから、死なせないようにする。それだけを考えて動く。

 この攻撃を防げなかったら、そんな時にすぐに対処できるように。
 それなら、いいよね?

 大丈夫、秘策を用意しといた。用意したっていうから元からあったけど。
 そう、鱗だ。この鱗たちを使って、盾を作った。

 魔導法で線を繋いで、そこに一個ずつ繋げる感じでやったら、なんかくっついて盾になった。
 思わぬ発見で、戦闘中ながら声を漏らしてしまったのは、また別の話ということで。

 そんなことを考えてる間に、いつの間にか水竜の攻撃はルリィの精霊術とぶつかっていた。

 なんていうんだろう。蒼白いブラックホール、みたいな。そんな感じなので、攻撃の力を吸って防いでいた。

 不幸なことに、私が放ったレールガンから漏れ出た魔力があそこに入っていて、ルリィの負担になっていた。

 ごめん、ルリィ。そこまで考えが及ばなかった。
まぁ……なんとか、頑張って。

 もう頑張ってるルリィに言っても、意味無いと思ったから口には出さなかったよ。

「ア゛ァァァァァァッ‼︎」
水竜は呻き声のようなものあげながら、その息吹を吐き続ける。

 水竜が飛ぶだけじゃ飽き足らず、人の魔力まで浸かってそんなことするって、常識がないじゃないの?

「ルリィは、負け、ない‼︎!」
決死の形相を浮かべながら、水竜は に対抗してそれを吸い込み続ける。

 ブゥォォォーッと、擬音にしづらいよく分からない音が出て、私の危機感が煽られる。

 もうどれだけ経ったかなんて、誰にも分からない。ルリィの死ぬ気の防御は、なんとか形をとどめている。

 水竜の力が無くなるか、ルリィが力尽きるか。絶望的な確率につい、顔に憂慮の表情を浮かべてしまう。

 そろそろ本格的にやばくなり始めた……なにか、やっぱり介入した方がいいような気がしてきた。

 後悔先に立たず。後悔なんてのは、やってからいくらでもすればいい。
 やらずに後悔するよりかは、よっぽどマシだよ。

 私はステッキを強く、力強く握り締めて、空を駆ける。
 一歩一歩に魔力をこめて、思いっきり蹴り飛ばす。

 私に出来ることはなに?私が出来ることは、なに?

 私はこうして、空を強く蹴る脚がある。私は、考える頭がある。攻撃するための魔法もあって、魔法を使うための魔力もある。

 じゃあそれを、どう使う?

「そんなのもちろん、決まってる。」
私は水竜の真横にくると、小さくこぼす。

 ステッキには大量の魔力が込められ、さっき防がれたトールの槌の何倍も密度の大きい槌が形成される。

 これは、覚悟を無下にするわけでも、汚すわけでも無い。
 ルリィが、自分のしたいことを選択したように、私もまた、自分のしたいことを選択しただけなんだから。

「ルリィ!今助ける‼︎」
今まで無言を貫いてきた分、大声で叫ぶ。それに気がついたルリィは、目を見開いて、そして、

「しょうがない子だなー、ソラちゃんは。」
その一言よりも早く、私の魔法は飛んでいく。

 高速、いや違う。神速で飛んでいくそのトールは大きく回転して、目標である水竜を捉える。

 この状態では、避けることも防ぐことも、攻撃することも不可能。

「一方的なリンチっていうのは、楽しいものだね。」
ただ冷酷に、水竜にその言葉を突き付けた。

 その頃にはルリィはもうボロボロで、精霊術も消えたり付いたり、点滅状態だ。

 早くしないと、ルリィが倒れちゃう……

 そう危惧すると、私は更に魔力を増やしてスピードを速める。

 速く、速く、速く。そして、強く。

「グギャァァァァァ!!グァァァァァァッ‼︎!」
鼓膜を破らんばかりの、強烈な咆哮に立ちくらみを起こし、なんとか耐えて前を見る。

 そこには電気が纏わり付き、ビリビリと永遠に感電し続ける、哀れな竜が1匹。
 トールの直撃した部分の鱗は綺麗に消し飛ばし、他の鱗も原型を留めてない。

 体中いい感じの焼き色がついていて、サンマを七輪で焦がした時の匂いに似ていた。

 懐かしいな。あの人達、秋にはいつもサンマを焼いてた。
 庭先から煙が立って、その匂いで起きたこともあった。

 いや、そんな考え耽ってる場合じゃない!

 今、水竜は丸焦げになってるからいいとして、ルリィは力を使って気を失っている。
 と、いうことはだ。

 今は空。私の名前じゃないよ?空の上ということは、そこで気を失えばどうなるかなんて幼稚園児でも分かりきってる。

 そう。重力に任せて落下してる。

「ルリィー!そこで落ちたら死ぬよ!」
海にドボン。そんなことになったら、私だって引き上げられないかもしれない。

 私、泳げないよ?空中歩行の魔法は、その名の通り空中を歩行するから、海の中にいたら使えない。

 だから異空間歩行とか、そういう特殊なのにすればよかったんだよ!

 結局私は、変なところで後悔した。

 神速を使って、私はすぐさまルリィの体を抱き抱え、その場で一息つく。
 よくよくルリィの顔を見ると、童顔で、愛らしいと思った。

 こんな子が、あんな風に戦ってたんだね。
綺麗で夕陽のような橙色の髪の毛が、だらっと私の手をかかる。

「綺麗な髪……って、髪留め外れてるじゃん。」

 紐でサイドテールに留めてはずだけど、何かの拍子で切れたみたいだね。

 そんなルリィを、急いで地面に横にして寝かせる。

「ここなら安全、だよね?」
不安混じりに頷いて、私は小刻みに震える水竜の前に立ちはだかる。

「……ッ!グァァッ!ルゥァァァ‼︎アァァァァ‼︎!」
なにか喚いてるけど、最初ほどのうるささは無いから無視することにした。

 ここが水竜の墓場。ここが、私が初めて竜を倒した場所。

 竜を倒すってことは、ドラゴンスレイヤーとか名乗れちゃう?

「私のためにも、倒させてもらうよ!」

 あと、これ売れば家とか買えそう!いや、国ごと動かせそうな気がする。
 これが私の手に渡った場合、フィリオ。分かってるよね?

 すると、私の魔力に何かが干渉してくる。

 えっ、なんか気持ち悪い……ゾワってする。ゾワって。
 え?神様からもらったこの力に干渉出来るって……何者?

 でも、まぁ。まずは目の前の水竜を相手しないと……

 私はさっさと終わらせるため、ミョルスカイを手にした。

 相手は動かない。照準を合わせ、出力を増幅。120%、これでいい。

「手間取ったけど、これでお終いだよ。」
ミョルスカイのトリガーに指をかけた。

「待て!娘よ!」

———————————————————————

 長くしようとしましたが、ぎゅっとまとめました。
 めんどくさかったからではありません。本当ですよ?



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