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第1話 プロローグ

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 此処は、地球の裏の異世界で時間や気候は地球と同じで地球と違い魔素のある世界。

 科学の代わりに魔法が発達しているアーレギ世界のルァー大陸だ。

 大陸にあるオスガン王国のラダン王都のまだ日の出前の薄暗い朝早く。

 男が振り向くような若い頃は綺麗だったと思われる、30歳前後の女性が寂れた教会の拝殿に向かい祈りを捧げている。

 教会は、千年くらい昔にルァー大陸を戦乱から救った龍人族の英雄、龍神王様を祭ってある龍神教会なのだ。

 今では幻の種族と言われている龍人族の子孫が代々、司祭を継いでいる。今は所々の壁が剝げ落ちてしまっているが、500年前までは、アーレギ世界のルァー大陸の全土に教会があり、信者も多かった龍神教会だ。

 今は500年くらい前に出来た天使教が魔法や能力、職業等の力を民衆に授け始めて、天使教会に信者を奪われ、信者も少なく全盛期に比べて見る影も無く寂れている。

 祈りを捧げていた女性は、少ない金額だが賽銭箱に入れて教会を後にし、家路に向かい歩き始めた。

 龍神教会の近くの大きな貴族の屋敷の前を通る時にその女性は、貴族の屋敷を睨みつけて通り過ぎようとした。

 その貴族が経営する孤児院の前に差し掛かると。

【オギャァ~! オギャァ~・・・・・・】

 赤ん坊の泣き声がした!

 見ると、まだ生まれて間もないであろうと思われる赤ちゃんが毛布に包まれて捨てられていたのだ。

 女性は、捨てられている赤ちゃんを見て孤児院の前を通り過ぎようとしたのだが思いとどまり。

 孤児院は隣の屋敷の貴族が経営する孤児院で、孤児を育てて年頃になると奴隷として売っていると噂のある孤児院なので。

 女性は、平民で若い時には近所で評判の美人あったが、貴族の権力には逆らえずに強引に先代の此の屋敷の子爵の側室にされた。

 先代の子爵が死ぬと、今度は正室と息子に娼館に売られてしまい、売ったお金は息子が取り女性の借金になってしまったのだ。

 数年前にようやく借金を返し終わり、娼婦を辞めて今は此の屋敷から遠く離れた旅館で働き細々と暮らしている。

 龍神教会の司祭様には、側室時代に色々と助けて貰い、その恩を忘れずに年に何回かは子爵家の人に見られないように朝早くお参りに来て偶然、帰り道に捨てられていた赤ちゃんを見てしまい。

 あの孤児院に拾われたなら、経営している今の子爵の性格を知っているので奴隷として売られると思い。

 思い返して泣いている赤ちゃんを抱き上げて連れて帰ったのでした。

 女性の名は、マリシャーヌと言い、最下層の貧民街に住んでいる。

 
 ドブの匂いのする貧民街の台所と寝るだけの部屋しかない、小屋みたいな家に帰り。

 マリシャーヌは、お湯を沸かして少し大きな桶にお湯を入れて赤ちゃんを洗って上げると赤ちゃんは。


「バァブー バァブー キャ キャ」

 と声を出して笑いマリシャーヌも釣られて笑い。

「ウッフフ あなたは可愛いわね~。 赤ちゃんに貴方は可笑しいから名前を付けて上げないといけないわね」

「んー? どんな名前が良いかな。龍神様をお参りした帰りに授かったから、龍を取って【リュウト】はどうかな」

「キャ キャ・・・・・・バァブー」

「あらら! 喜んでいるのね。此れから君の名はリュウトよ。私は今日からリュウトの母親のマリシャーヌよ、宜しくね。ウッフフ」

 こうしてマリシャーヌとリュウトは親子として暮らすようになったのである。

 次の日にマリシャーヌが勤め先の旅館にリュウトを連れて行くと、旅館の女将が怪訝な顔をして。

「マリシャーヌ、その子はどうしたの?」

 マリシャーヌは孤児院の前で拾った事を知られたくないので、とっさに嘘をついてしまい。

「女将さん、すみません。昨日に山菜を取りに行った森で捨てられていた此の子を拾ったのです。私には子供がいないので私の子供として育てようと思いますが。駄目でしょうか?」

 女将がリュウトを見ると。

「バァブ~ キャ キャ バァブ~」

 最初は渋い顔をしていた女将は、リュウトの可愛い笑い声を聞いて。

「こんなに可愛い子を捨てるなんて・・・・マリシャーヌ貴女! 責任を持ってこの子を育てなさいよ。でもあの家ではね・・・・仕方ないわ。私も一肌抜いて協力する事にしようか」

 女将は大工を手配して、小屋みたいなマリシャーヌの家を改築してもう1部屋を増設してくれたのでした。

 改築が終わった次の日にマリシャーヌが女将に礼を言うと、女将はリュウトを抱いて。

「貴女の為にした事じゃないよ。リュウトの為にしたのだから。ね、リュウト」

「バァブー キャ キャ」

「ほうらー! リュウトが私に礼を言っているわ。此の子は本当に賢くて可愛いわね~」

 女将だけでなく他の同僚たちにも可愛がられてリュウトはすくすくと育ち、5歳に成っている。

 
 他の同じ年の子に比べて発育が遅くて身体も小さく、言葉もどもり! 未だに上手く話せないのでマリシャーヌは知恵遅れではないかと、心配していた。

 誕生日は正確に分からないので、拾った日を誕生日と決めて、今日がその日なので久しぶりに龍神教会にリュウトを授けてくれたお礼に行くことにしたのだ。

 あの嫌な思い出のある子爵の屋敷を避けて遠回りして龍神教会に行くと。

 剥がれ落ちていた壁などが、綺麗に修繕されていて見違えてしまい。教会の礼拝堂に入ると中も綺麗になっていたのです。

 リュウトにもお祈りさせて、礼拝堂を出ようとした時に司祭が奥から出て来て、よく見るとマリシャーヌが困っている時に色々と助けてくれた司祭様なので。

 マリシャーヌは、司祭様の所に行き以前に助けて頂いた礼を言うと司祭様は。

「ああー! 貴女は確か子爵の側室だった方でしたね。その後はお元気でしたか」

「はい。お陰様で何とか元気に過ごしております」

 司祭様はリュウトを見て何かを感じたのか。

「もしかしたら。此の子の発育は同じ子供に比べて遅い事はありませんか?」

「えっ? どうして分かるのですか。確かに司祭様のおっしゃる通りで心配しているのですが」

 司祭様がリュウトの目を真剣に見て、何故か頷き。

「まだ。ハッキリ断言出来ませんが此の子は、多分15歳位までは同じ位の子供より成長が遅いと思います。心配はありません15歳を過ぎた頃から急激に成長しますから」

「そうですか。司祭様にそう言って頂くと安心です。ありがとうございました」

 司祭様に今は何処に住んでいるのか聞かれて自宅は貧民街なので言いづらく、勤め先の旅館を教えてマリシャーヌは家路についた。

 マリシャーヌが礼拝を終えて、リュウトの手を引いて帰る後ろ姿を司祭が見送っていると、側に中年の男性が横に並び。

「ザガントス司祭長。今の親子がどうかしたのですか?」

「バリサンか。あの子供は、あの時の私たちの主となられる子供だ。バリサン頼みがある。あの親子に知られないように陰から見守ってくれないか」

「えっ? あの子が・・・・そうですか分かりました」

 こうしてリュウトは捨て子だったのに、マリシャーヌに拾われて周りの人たちの善意でスクスクと育ち始めたのである。
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