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23話 糾弾に向かう その2
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「これはこれは、ヨハン王子殿下。お久しぶりでございますわね。それから、エレナ嬢も……お久しぶりでございます」
「エメラダ夫人も壮健そうで何よりだ」
「お邪魔致します、エメラダ夫人」
「ええ……狭い応接室ではありますが、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」
あの事件からそれほど時間が経過しているわけではないけれど、この場所に来るのはずいぶんと久しぶりに感じる。今回、通された場所は応接室だった。リグリット様の部屋ではないく別の部屋だ。エメラダ夫人は狭いと言っているけれど……私にとっては、十分過ぎるほどに豪華な部屋に映っていた。
飲み物が私達の前に置かれ、対面にエメラダ夫人が座っていた。ヨハン様専属の護衛達は部屋の隅で待機している。
「それで、本日のご用件は何でございますか?」
「ああ、そうだったな。事前に内容を報告していなかったのは、申し訳なかったが……気付いているかもしれないが、リグリット関連のことだ」
「なるほど、やはりその件に関してのことでしたか……エレナ嬢も一緒でしたので、そうではないかと思っておりましたが」
エメラダ様は顔色1つ変えることなくおっしゃった。完全に予想通りという表情を見せている。私達がそれに気付いていることも、想定内なんでしょうね。
「リグリットの件に関しまして、何か問題がございましたでしょうか? 謝罪が足りないと言うのであれば、今度、慰謝料をお渡しする時に、ランカスター侯爵を含めてしっかりと謝罪させていただきますわ。私とガイア、リグリットの3名で。次男のマグリットについては、今回の件には関連しておりませんので、ご容赦いただきたく存じますが……」
「そうだな、それは大丈夫だ。安心してくれ」
「ありがとうございます、安心いたしましたわ……」
リグリット様の弟のマグリット・バークス様……直接的な面識は薄弱だけれど、エメラダ夫人は彼を当主に据える手筈なんでしょうね。彼の名を落とすような真似はしたくないってところかな? まあ、本当に今回の件とは関係ないから呼ぶ理由はないのだけれど。
「ファルス家には法外な慰謝料請求をしているようだな?」
「流石にヨハン王子殿下はお耳が早いですわね。感服致します」
「世辞は結構だ……それで、どうなんだ? アミーナ嬢を軟禁していたと聞いているが?」
「彼女は既に、ファルス家に帰しておりますわ」
「私はアミーナ・ファルス伯爵令嬢を軟禁状態にした件について、問題にしているのだが? いくら公爵家といえども許されることではないだろう?」
ヨハン様は強気な攻めを開始した。エメラダ夫人の要塞を少しでも崩し、付け入る隙を出す為に……。
「軟禁状態……確かに周囲から見ればそのように映ってしまったのかもしれませんわね。ですが、それには理由があるのです」
「理由? 一体、どんな理由でしょうか?」
「エレナ嬢……私はあなたという婚約者が居たにも関わらず、リグリットを誑かしたあの女が許せませんでした。だから、少々、お説教をさせていただいたまでですわ」
「お説教……」
「ええ、その通りです。浮気相手に対する態度としては、それくらいなら許されるでしょう? 彼女への身体的体罰などは一切行っていませんよ?」
「それはそうだろうな……貴方がそんな愚行を犯すとは思えない。ガイア殿なら別だろうが……」
「ふふふ……」
ガイア様ならアミーナ様を殴り倒して、そこから問題に出来ただろうけど……確かにエメラダ夫人がそんな愚かなことをするとは思えなかった。やっぱり、彼女は相当に手強いわ。身体的体罰を行っていないのは本当だろうけど、おそらく、精神的ダメージを与える何かしらの虐待はあったはずだし。
この後の予定では法外な慰謝料について、エメラダ夫人に言及する予定だ。でも、彼女の牙城を崩せる糸口が見つかるのか……私は不安で仕方なかった。
「エメラダ夫人も壮健そうで何よりだ」
「お邪魔致します、エメラダ夫人」
「ええ……狭い応接室ではありますが、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」
あの事件からそれほど時間が経過しているわけではないけれど、この場所に来るのはずいぶんと久しぶりに感じる。今回、通された場所は応接室だった。リグリット様の部屋ではないく別の部屋だ。エメラダ夫人は狭いと言っているけれど……私にとっては、十分過ぎるほどに豪華な部屋に映っていた。
飲み物が私達の前に置かれ、対面にエメラダ夫人が座っていた。ヨハン様専属の護衛達は部屋の隅で待機している。
「それで、本日のご用件は何でございますか?」
「ああ、そうだったな。事前に内容を報告していなかったのは、申し訳なかったが……気付いているかもしれないが、リグリット関連のことだ」
「なるほど、やはりその件に関してのことでしたか……エレナ嬢も一緒でしたので、そうではないかと思っておりましたが」
エメラダ様は顔色1つ変えることなくおっしゃった。完全に予想通りという表情を見せている。私達がそれに気付いていることも、想定内なんでしょうね。
「リグリットの件に関しまして、何か問題がございましたでしょうか? 謝罪が足りないと言うのであれば、今度、慰謝料をお渡しする時に、ランカスター侯爵を含めてしっかりと謝罪させていただきますわ。私とガイア、リグリットの3名で。次男のマグリットについては、今回の件には関連しておりませんので、ご容赦いただきたく存じますが……」
「そうだな、それは大丈夫だ。安心してくれ」
「ありがとうございます、安心いたしましたわ……」
リグリット様の弟のマグリット・バークス様……直接的な面識は薄弱だけれど、エメラダ夫人は彼を当主に据える手筈なんでしょうね。彼の名を落とすような真似はしたくないってところかな? まあ、本当に今回の件とは関係ないから呼ぶ理由はないのだけれど。
「ファルス家には法外な慰謝料請求をしているようだな?」
「流石にヨハン王子殿下はお耳が早いですわね。感服致します」
「世辞は結構だ……それで、どうなんだ? アミーナ嬢を軟禁していたと聞いているが?」
「彼女は既に、ファルス家に帰しておりますわ」
「私はアミーナ・ファルス伯爵令嬢を軟禁状態にした件について、問題にしているのだが? いくら公爵家といえども許されることではないだろう?」
ヨハン様は強気な攻めを開始した。エメラダ夫人の要塞を少しでも崩し、付け入る隙を出す為に……。
「軟禁状態……確かに周囲から見ればそのように映ってしまったのかもしれませんわね。ですが、それには理由があるのです」
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この後の予定では法外な慰謝料について、エメラダ夫人に言及する予定だ。でも、彼女の牙城を崩せる糸口が見つかるのか……私は不安で仕方なかった。
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