上 下
42 / 58

42話 それからの出来事 その3

しおりを挟む
(メープル視点)


「違うだろう、メープル! 挨拶の仕方はそうじゃない、ちゃんと教えたはずだ」

「こ、こうでしょうか……?」

「違う違う、何度も言わせないでくれ……ちゃんとメイドの侍女の動きを真似るんだ!」

「うう……難しい。姉さま、恨みますよ……」

 私はリシド・ブレイク公爵の屋敷で再々教育とかいうのを受けさせられていた。人生はイージーモードを掲げていただけにこの再々教育と言う名の束縛はキツイものがある。

 どうして私がこんな目に……お父様もお母様も姉さまも、みんな薄情者だわ……! 外出を許されずに、ひたすらリシド様や侍女たちと猛特訓の日々が続いている。朝から晩まで再々教育は続くので、私の自由な時間はほとんど与えられていなかった。

 本当にどうしよう……前は逃げ出せたけれど、今回逃げ出すと罪人になりかねないから、それだけは出来ない。16歳という年齢で地下牢行きはごめんだしね。何とか今は、早く休憩時間になってくれることを願っていた……。



--------------------------------------



「はあ……終わりました~~……」


 それからしばらくして、休憩時間になった。私は隅に置かれた質素な椅子に腰を掛ける。応接室の1つを改装し教育部屋にしたもので、急造の家具で間に合わせているのだ。

「まだ、本日だけでも終わりではないがな」

「うう、思い出させないでくださいよ!」


 休憩時間だけは楽しいことを考えたいのに……リシド様は本性はドSなのかもしれない。そうだとしたらお別れしたいんだけ……。


「それはともかくとしてだな、メープル」

「なんですか~~?」

「お前の姉のシャルナだが……とうとう、意中の王子殿下を発表したらしいじゃないか」

「そういえばそうでしたね……」


 前に聞いたことのある内容だった。私のことじゃなくて姉さまのことだし、特に興味津々にはなれない。でも、せったくの話題でもあるので、もう少し乗ってみようと思う。何か面白いことになるかもしれないし。

「ベノム王子殿下を選んだんですよね」

「そうだな、あれには私も驚かされたよ。シャルナのことだから、ユアン第二王子殿下を選ぶと思っていたからな」

 そうだろうか? あの、シャルナ姉さまならベノム第三王子殿下に気持ちが向かってもおかしくはないと思う。なぜなら……


「シャルナ姉さまはあれで意外と夢見がちなんですよ」

「いや、メープルが言っても説得力を感じないが。彼女はしっかり者で、貴族との会合でもかなり気を使っていたそうじゃないか。その様子を見ていたベノム王子殿下に惚れられたという逸話があるくらいだ」

「だからですよ……だから、インパクトの大きい告白? とか、そういうのには弱いんです」

「インパクトの大きい告白……?」

「はい。前のパーティーの席でベノム王子殿下が私を叱責しましたよね?」

「そういえばそうだったな」

「あの現場でのあれだけの叱責……近くで聞いていたシャルナ姉さまにとっては、非常にインパクトの大きな事柄になったはずです。しかも、自分にとって都合の良い事柄でもあるんです。無意識の内にベノム様のことを好きになってもおかしくありませんよ。ほら、姉さまって恋愛経験とかはないでしょうし」

 私が唯一、姉さまに勝っている部分といえば、恋愛経験だ。恋愛経験というか外見を活かしての肉体関係というか、そんな感じだけれど。

 リシド様が頷いているのを見て、ある程度説得力はあったのかな? と思えた。

 そんな風に考えることが出来るなんて……私も少しは成長を果たせたのかもしれない。

しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

【完結】わがまま婚約者を断捨離したいと思います〜馬鹿な子ほど可愛いとは申しますが、我慢の限界です!〜

As-me.com
恋愛
本編、番外編共に完結しました! 公爵令嬢セレーネはついにブチ切れた。 何度も何度もくだらない理由で婚約破棄を訴えてくる婚約者である第三王子。それは、本当にそんな理由がまかり通ると思っているのか?というくらいくだらない内容だった。 第三王子は王家と公爵家の政略結婚がそんなくだらない理由で簡単に破棄できるわけがないと言っているのに、理解出来ないのか毎回婚約の破棄と撤回を繰り返すのだ。 それでも第三王子は素直(バカ)な子だし、わがままに育てられたから仕方がない。王家と公爵家の間に亀裂を入れるわけにはいかないと、我慢してきたのだが……。 しかし今度の理由を聞き、セレーネは迎えてしまったのだ。 そう、我慢の限界を。 ※こちらは「【完結】婚約者を断捨離しよう!~バカな子ほど可愛いとは言いますけれど、我慢の限界です~」を書き直しているものです。内容はほぼ同じですが、色々と手直しをしています。ときどき修正していきます。

ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?

ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
 ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。  しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。  約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。  未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。  運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。 「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」  ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。 「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」  彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。  しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

リリーの幸せ

トモ
恋愛
リリーは小さい頃から、両親に可愛がられず、姉の影のように暮らしていた。近所に住んでいた、ダンだけが自分を大切にしてくれる存在だった。 リリーが7歳の時、ダンは引越してしまう。 大泣きしたリリーに、ダンは大人になったら迎えに来るよ。そう言って別れた。 それから10年が経ち、リリーは相変わらず姉の引き立て役のような存在のまま。 戻ってきたダンは… リリーは幸せになれるのか

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

王女と婚約するからという理由で、婚約破棄されました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のミレーヌと侯爵令息のバクラは婚約関係にあった。 しかしある日、バクラは王女殿下のことが好きだという理由で、ミレーヌと婚約破棄をする。 バクラはその後、王女殿下に求婚するが精神崩壊するほど責められることになる。ミレーヌと王女殿下は仲が良く婚約破棄の情報はしっかりと伝わっていたからだ。 バクラはミレーヌの元に戻ろうとするが、彼女は王子様との婚約が決まっており──

素敵なものは全て妹が奪っていった。婚約者にも見捨てられた姉は、「ふざけないで!」と叫び、家族を捨てた。

あお
恋愛
「お姉様、また新しいアクセサリーを貰ったのね。ずるいわ。私にちょうだい」 「ダメよ。これは婚約者のロブに貰ったものなの。あげられないわ」 「なんて意地悪なの! ロブだって私に使って貰った方が喜ぶわよ。早くちょうだい」  ダメだと重ねていったが、アクセサリーは妹のエミリーにひったくられてしまった。 「ふふ。綺麗。ねぇ、素敵でしょう」  そしてエミリーは戦利品を首にかけ、じっとりとした目でこちらを見てくる。  婚約者からもらったものだ。できることなら取り返したいが、エミリーが金切り声をあげて両親に訴えれば両親はエミリーの味方をするだろう。 「ロザリー、あなたは姉なのだから、妹に譲ってあげなさい、と」  それでも取り返すべきかと躊躇したが、お披露目して満足したのかエミリーはパタパタと足音をたてて去って行った。  プレゼントされたばかりのアクセサリーを次のデートにつけていかなければ、またロブの機嫌が悪くなるだろう。  困ったものだ。  どうせエミリーにとられてしまうのだから、プレゼントなどくれなければいいのに。  幼なじみのロブは、エミリーが姉のものならなんでも欲しがることを知っている。それでも折々に洒落た小物をプレゼントしてくれた。「僕がプレゼントをしたいだけだから」と。  エミリーにとられる前に、二人でプレゼントを眺め、そっと笑い合う。婚約したばかりの頃は、そんな穏やかな空気が二人の間に流れていた。  だが近頃は、妹にやられっぱなしのロザリーをふがいなく思っているのか、贈られたプレゼントをロザリーがデートにつけていかないと、小さなため息を吐くようになっていた。 「ロザリー、君の事情はわかるけど、もう成人するんだ。いい加減、自立したらどうだ。結婚してからも同じようにエミリーに与え続けるつもりかい」 婚約者にも責められ、次第にロザリーは追い詰められていく。 そんなロザリーの生活は、呆気なく崩れ去る。 エミリーの婚約者の家が没落した。それに伴い婚約はなくなり、ロザリーの婚約者はエミリーのものになった。 「ふざけないで!」 全てを妹に奪われたロザリーは、今度は全てを捨てる事にした。

処理中です...