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34話 メープルとリシド その2

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 ブリスド宮殿での生活から1週間が経過した。使用人のドルチェのサポートもあって、非常に穏やかに過ごせている。王族の方々と囲む食卓は毎回楽しいし、国王陛下たちは想像以上に気さくだったのにも驚いた。

 おかげで、妙に気を使わなくて済んでいる。妹のメープルやお父様、お母様のことを考えなくて済むのは、私の精神状態にとても良いことを再認識させてくれた。

 こんなに穏やかに過ごせているのは、おそらく生まれてから初めてね。


「シャルナお嬢様」

「ドルチェ……? どうかしたの?」


 私が部屋で寛いでいると、紅茶を淹れながらドルチェが話しかけてきた。

「お嬢様はとてもリラックスされております……私としても、非常に喜ばしいことです」

「そうね、ありがとうドルチェ。とは言っても、穏やかでいられない事柄もあるけどね」

「左様でございますね……」


 ユアン様を通してメープルのことを聞いた。私は個人的にはアモネート家との連絡を遮断しているので、ユアン様などからの又聞きという形になる。

「メープルが再教育という形で、リシド様に連れて行かれた……ここまでは聞いているわ。流石のお父様やお母様も本気のリシド・ブレイク公爵には逆らえないでしょうし」

「左様でございますね。メープルお嬢様にはお気の毒かもしれませんが……アモネート家全体にとって見れば、必ず好転する事態かと思われます」

「そうね……」

 メープルは正直、わがままが過ぎてしまった。リシド・ブレイク公爵や王子殿下すら軽く見る行為は自らの首を絞めかねない。ユアン様やベノム様達が公式に彼女を罰しないのは、私への配慮なのかもしれないけれど。

 でも、リシド様が本格的にメープルの再教育に動き出したことは良かったと思う。リシド様は内面の人格はともかくとして、貴族としての立場はちゃんと分かっているはずだから。

 おそらく、このままではブレイク公爵家自体が危ないと悟ったのだろう。それを危惧して、泣く泣くメープルの再教育に乗り出した、と。そんなところかしらね。


 と、そんな時だった。なんだか宮殿内が騒がしいような気がしたのは……。


「なにかあったのかしら?」

「分かりませんが、見て参りましょうか?」


 ドルチェに返答する前にノックの音が聞こえた。中へ入って来たのはユアン様だ。


「ユアン様……どうかなされたのでしょうか? 少し廊下の方が騒がしいようなのですが」

「ああ、不安にさせてしまって済まなかった。部下からの話だと、メープル嬢が泣きながら訪ねて来ているらしい」

「ええっ、メープルがですか……!?」

「うむ……お姉さま~~~! と叫んでいるようだ」

「……ユアン様……」


 ユアン様のメープルの物真似はともかくとして……ややこしくなりそうな事態だった。


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