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1話 悲しみの別れ
しおりを挟む「マグリト国王陛下……本日はお話がございます。お時間をいただいても宜しいでしょうか?」
「おお、エレナじゃないか! わざわざ、私の部屋に来てくれて感謝する。もちろん、時間を作らせて貰うよ!」
マグリト・リューガ国王陛下……リューガ王国の現トップのお方だ。年齢は24歳と若いけれど、その手腕によって国王陛下にまで上り詰めた。前国王陛下が怪我により引退したというのも大きいけれど。
私は光栄なことに彼の側室としての立場にある。現在は婚約者として側室教育を受けている段階だ。結婚する日も近いのだけれど……私はどうしても心配な点があった。
「今度、貴族街に新しいレストランが出来たようだ。貸し切りにするから、一緒に食べに行かないか?」
「貸し切りでございますか? しかし、そのお金は……」
「王室から出せるので心配するな。全て私の奢りだ。ヴァンハール家の資産に影響はないさ。今までもそうだっただろう?」
「いえ、そういうお話ではなくて……」
マグリト様はとても優秀なお方だ。少なくとも周りの反応はそうだったし、私の目から見ても優秀なお方だった。でも、この半年ほどでその評価が変わって来ている。彼は王室の資金を散財するようになったのだ。また、公務についても予定をズラしたりと、だんだん国王陛下としての仕事を円滑には行わなくなっていた。
「では、どういう話なのだ? エレナ」
「マグリト様……最近の大臣や周囲の方々、正妃ラジェル様のお声を聞いていらっしゃいますか?」
「むっ、そ、それは……」
「この半年ほどのマグリト様は、明らかに様子がおかしいです。周囲からの反応も変わってきておりますし、国民も気付いているでしょう」
「エレナ……それは君の為にだな、時間を優先しているわけで……」
そう、マグリト様は私のことを溺愛してくれている。それは本当にありがたいことだし、嬉しいことなのだけれど……愛する彼が、マグリト様が堕落していくのを見るのは辛かった。
「マグリト様、私を愛して下さるのは本当に嬉しいです。ですが、それによってマグリト様が国王陛下としての仕事疎かにしたり、王室の資金を勝手に使ったりするのはおかしいと思うのです」
「それについては心配いらないよ。私だって馬鹿じゃない、破産するような使い方はしていないのだし……」
「……」
破産しないことは事実だろうけれど、ここ最近のマグリト様は明らかにおかしかった。最近では領民の税金を上げたようだし。私のために使うお金を増やす意図があるのかもしれない。これでは駄目だ。
「申し訳ありません、マグリト様……私はマグリト様のことを愛していました。ですので、貴方様が堕落していくのを見るのが耐えられないのです」
「そ、そんな……なにを言っているんだ? エレナ」
「せっかく、側室として迎え入れてくださいましたのに、こういうのは裏切りだと思っております。私も苦渋の決断になりますが……婚約破棄をしていただけませんでしょうか?」
「婚約破棄……!? な、何を言って……! そんなこと、出来るわけが……!」
「既に大臣のソルド様には賛成をいただいております。本当に申し訳ございません、マグリト様……失礼致します」
「え、エレナ……嘘だろう? 嘘だよね……?」
放心状態になっているマグリト様。私は涙を抑えながら彼に深々と頭を下げた。私だってこんな別れ方はしたくない……しかし今は、心を鬼にする方が賢明だと思えた。そのまま、彼の部屋から出て行く。外にはソルド大臣が立っていた。
「ご苦労様です、馬車は宮殿の外に待機させてあります。後のことはお任せください」
「ありがとうございます……よろしくお願い致します」
私はもう涙を抑えることは出来なかった。ソルド大臣には情けない姿を見せてしまったけれど、彼にも頭を下げてその場を後にする。目指すは我が家である、ヴァンハール侯爵家だ。
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