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1話 侯爵令息の婚約破棄
しおりを挟む私の名前はオーディルス王国の伯爵令嬢アーシェラ・スミット、18歳だ。スミット伯爵家の次女に当たる。
そんな私にも婚約者が18歳にして婚約者が出来た。侯爵令息のアグリット・バーンセル様である。
アグリット様との幸せな道を歩めるかと思っていた矢先、彼から突然の告知を受けてしまった。
「アーシェラ、私は幼馴染のレンナ・クロド侯爵令嬢と結婚してしたいと考えている。済まないが、私と別れては貰えないだろうか?」
「アグリット様……冗談ですよね?」
「済まない……冗談ではないのだ」
「そんな……」
あの誠実なアグリット様がこんなことを言うなんて、私にはとても信じられなかった。しかも、私と婚約破棄をしたいという理由が、幼馴染のレンナ様と婚約を考えているからだというのだから余計にだ。
確かにレンナ様は非常にお美しく、狙っている殿方も多いと以前に聞いたことがある。幼馴染ということだから、おそらくはアグリット様は見た目だけで選んでいるわけではないのだろうけれど……。
それでも、簡単に納得できるものではなかった。私とアグリット様は政略的な婚約という側面もあるけれど、ちゃんとした恋愛での婚約だったと自負していたからだ。
「アグリット様……わたしとの婚約は、やはり政略的な側面しかなかったのでしょうか?」
「いや、決してそんなことはない! 私はアーシェラのことが好きだった。しかし……それ以上に幼馴染のレンナのことが好きなだけだよ……これについては、謝罪する以外に何も出来ない。慰謝料はしっかりと支払うので、婚約破棄を承諾して貰えないだろうか?」
そこまでの覚悟があるということか……私としても、それ以上は何も言うことが出来なかった。彼は慰謝料まで支払うと言っているのだから……。
「本当に残念です……アグリット様。まさか、こんなことでアグリット様との婚約関係がなくなってしまうなんて……」
「私も同じ気持ちだよ、アーシェラ。本当に済まない……お金で替えられるものでは決してないが、しっかりと慰謝料は支払いたいと思っている」
アグリット様は気付いているのだろうか? 私と彼では決して、同じ気持ちになんてなれないことを……。アグリット様は婚約破棄をしたけれど、相手はすぐに見つかる。それと引き換え、私には相手なんて居ないのだから。明らかな上から目線での発言と言えるのかもしれない……。
私はこうして、アグリット・バーンセル侯爵令息との婚約を破棄することになった。決して望んでいた結末なんかではない……それは、目元から零れ落ちる涙が全てを物語っていた。
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