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46話 事実 その2

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(ビクティム・クラウス視点)


「……ふう」


 私が辺境地に飛ばされてから既に、10日が経過しているな。この管理棟での生活にもようやく慣れてきたといったところか。

「ビクティム殿、あなたの番ですよ」

「うむ、そうだったな」


 私は現在、別の管理者の立場にある男とチェスを楽しんでいる。昔からチェスでは負けたことはなかったが、目の前の男は強かった。彼はザイール・ウルベルト伯爵令息だ。侯爵だった頃は私の方が立場は上だったが、今は爵位をはく奪されているからな。


 本来ならば、私の方が敬語を使うべきなのだが彼はそれは必要ないと言ってくれた。彼は5日前に着任した後輩だからだ。身分はどうであれ、同じ管理者に属する者同士……少しでも先に入った者を立てるという気概があるらしい。なかなか、見どころのある若者だ。おそらくはレオーネとそこまで年齢は変わらないのではないだろうか?

 詳しい年齢は聞いていないが……。


「しかし、よろしいのですか? 管理者の立場ですが、サボっていて……」

「サボっている? お前も同じようなものだろう?」

「それは確かにそうですが……」


 まったくこの男は……同じくチェスをしていて、よくそんな言葉が出てくるものだ。こんな北の大地にも私の噂は広まっているのだから、恐ろしいものだが。

「ザイールは詳しい話を知っているのか?」

「なんの話ですか?」

「いや……まあ、私についての話だよ」

「ああ……例の一件に関してのことですか」


 やはり彼にも伝わっているようだな……。気の合うチェス仲間に知られていると思うと、少し恥ずかしくなってしまうな。


「そこまで詳しくは知りません。私もこんな辺境地に飛ばされる身分ですので」

「なにかしたのか?」

「少々、家族間のトラブルに巻き込まれまして……私は将来、家督を継ぐ者だからと辺境地に飛ばされたのです」

「ほう、そんなことがあったのか」

「はい」


 お互い、なかなか家系とことで苦労をしているようだな。ザイールとは気が合うかもしれない。もしも新国家が生まれた時には……彼も誘ってやるとするか。なんなら、そのチェスの強さに免じて私の側近として使ってもよいかもしれない。たった5日しか経過していないが、私はザイールに心を許しかけていた。


「しかし……この地は寒いことを除けば極楽と言えるかもしれんな。最初は慣れるのに一苦労かと思ったが」


 なんせ気温はマイナス20度まで下がるのだからな。外で働いている者たちは非常に辛いだろう。噂によると、年に何名かは凍死してしまうのだとか……。

「管理者という立場で本当に良かったと、そういうことですよね?」

「まあな、ふはははははははっ」

「しかし……ビクティム殿は罪人として、この地に運ばれると聞いていましたが? どういう経緯で管理者の立場になれたのですか?」

「なんだ、知りたいのか?」

「ええ、是非知っておきたいと思っております」


 仕方がない話してやるとするか。今日の私は気分が良いからな……管理者生活に慣れてきた反動とでも言えばいいのか。
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