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32話 エドモンド・デューイ公爵 その3

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「これは、フューリ王太子殿下……ようこそお出でくださいました!」

「カリス・デューイ公爵夫人、お元気そうで何よりですね」

「いえいえ、勿体ないお言葉ありがとうございます!」


 まだまだ若いと思われるカリス公爵夫人がフューリをもてなした。私にも軽く挨拶してくれる。


「レオーネ様もお久しぶりですね」

「お久しぶりです、カリス様」


 立場上、私は彼女に深々と頭を下げた。カリス様はとても笑顔で私を歓迎してくれている。この方とはパーティーなどでお会いしたことがあるけれど、気さくな印象のあるお方だった。私としても嫌いではないタイプの人だ。


「よろしければ王太子殿下、レオーネ殿、ソファにお掛けいただけますかな?」


 私達は応接室に連れて来られている。エドモンド・デューイ様は私達に着席するように促していた。彼の立場からしても、私たちが座らないと、自分が座れないと言いたいのだろう。


「それでは遠慮なく……レオーネ、座ろうか」

「はい、畏まりました」


 私とフューリの二人は設けられたソファに座った。それを見計らい、エドモンド様が着席なされる。そして、その後に飲み物がカリス様によって配られた。メイドを使わないのは、彼女たちの配慮なのかもしれない。


 こうして会談はいつでも開始が可能な状態になったのであった……。



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「では、フューリ王太子殿下。早速ではございますが、詳細なご用件をお聞かせ願えますかな?」

「ああ、もちろんだ」


 エドモンド様は出されたコーヒーに手を付けながら、フューリの言葉を待っていた。およそ、王太子殿下の言葉を待つ姿勢ではないけれど、それが彼なりのプライドなのかもしれない。フューリも特に気にしている素振りは見せていなかった。


「ビクティムの件は、貴殿としても非常に辛かっただろう。兄が負傷し、その実行犯が甥なのだからな」

「確かに……あの事件は私としましても辛い出来事であったと存じております。しかし、ビクティムは投獄され、侯爵の爵位は最低でも剥奪されると伺っておりますが?」

「ああ、それは間違いないだろう。多くの貴族の前で犯した罪だからな、言い逃れは出来ん」

「ふむ、左様でございますな」


 ここまでの会話は普通と言えるかしら? エドモンド様も特に、おかしなことを言っているようには見えない。


「では、貴殿がビクティムの罪を軽く……若しくは、なかったことにしようとしている件はどうなのだ?」

「それはどういうことでしょうか?」

「言葉の通りだ、そう言う噂があってな」


 明らかに場の空気が変わった……フューリは本題に素早く入ることで、短期決戦を試みているみたいね。私は見守ることしかできないけれど。
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