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22話 ビクティム侯爵の嘆き その3

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(ビクティム侯爵視点)


 私は知らず知らずの内に父上である、アーロン・クラウス元侯爵を殴ってしまったよだな。だからこそ、フューリ王太子殿下の命令で、衛兵に束縛されている。本来であれば私を束縛した衛兵はあとで特定し、議会の審議を経て投獄、島流しくらいには処したいところではあるが……。


 今の私の権限など無いし等しいのだろう……父上は私の鉄拳を食らって無事だろうか? いくら私が精神的におかしくなってしまっていた時の出来事とはいえ、申し訳ないことをしてしまったな。レオーネも無事なようで何よりだ……そうだ、私は気が狂ってしまっていただけなのだ。


 私の本質は決して先ほどまでの態度に現れているわけではない……そうだ、これは悪い夢みたいなものだ! 私と懇意にしてくれていた貴族たちへの暴言、あれも私の本音ではない……父上への鉄拳攻撃も勿論、ワザとであるはずがない……!


「さあ、起きてください、ビクティム様」

「わ、わかっている……そんなに急かすでない……」


 私は乱暴に衛兵に起こされてしまった。腕は相変わらず極められており、痛みが走っている。まったく……私の本質を見抜けない無能な衛兵め……私を捕らえた衛兵だけでも、後から懲戒解雇でもしてやるとするか。


「ん?」


 と、そんな時、私は不思議な光景が目に入って来ていた。片方では、父上が衛生兵による治療を受けている。その傍らでは、レオーネとフューリ王太子殿下が何やら戯れているように感じられた。私は自然とレオーネと王太子殿下の会話に注目する。


「メリア王女様とは、どういうご関係なのですか? フューリ王太子殿下?」

「レオーネ……言い方が怖いぞ? 君も淑女であるならば、もう少し冷静にだな?」

「私はとても冷静でございますよ? フューリ王太子殿下こそ、冷静さに欠いているのではありませんか? 紳士たる者、何時の時も冷静でなくては?」

「レオーネ……」


 何やら、レオーネがフューリ王太子殿下に詰め寄っているようだ。くそう、分かっていたことだが、あの二人はそういう関係だったか……二人の年齢から察すると、幼馴染……おそらくは昔からの知り合いだったということだろう。


 なんということだ……私は最初から、二人に嵌められていたということか? そうか、そうだったのか……いや、そうに違いない! 私の中の怒りの感情は再び大きな焔と化していた。


「私は騙されていたのだ……ふふふ、そうに違いない。ふふふふふ……」

「ビクティム侯爵……?」


 私の独り言に衛兵が怪訝な表情をしているが、お前らのことなどどうでも良い。雰囲気的に、この場で私が何かを言っても全てかき消されてしまうだろう。時を待つのだ……そう、議会を通して私が騙されていたことが明るみに出れば。レオーネや王太子殿下もただでは済むまい。


 今だけは負けた振りをしておいてやる……しかし、この借りは何倍にもして返してやるぞ。私はそう心に誓った。
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