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1話 身勝手過ぎるんですけど……

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「えっ? 今、なんておっしゃいましたか……?」

「聞こえなかったか、アンナ? 今夜あたり、一緒に寝ようと言ったんだよ」

「え、ええ……」


 私は少し混乱していた……。そのようなことを言ったのは、私の婚約者であるルード・フィクス公爵だ。若くして公爵になったお方で3歳年上の20歳になる。私も含めてまだまだ少年、少女と言っても過言ではないかもしれない。

 そんな彼が一緒に寝ようと言って来たのだ。この国では暗に身体の関係になることを示唆している。いえ、他の国でも同じかもしれないけれど。私は非常に戸惑ってしまった。

「待ってください、ルード様……結婚もしていない間柄での身体の関係は、社会通念に反します」

「しかし、私は禁欲生活に飽き飽きしているのだ。どのみち結婚をするのだから、少しくらい早まってもいいだろう? お前のスレンダーな身体を見ていると我慢できないんだよ、アンナ・イグマリオ伯爵令嬢」

 今のはスタイルのことを褒めてくれたのかしら? それについては素直に嬉しいけれど、やっぱり納得はいかなかった。禁欲生活に飽き飽きしているからって、身体の関係を求められては困る。私は彼の欲望を満たす道具ではないのだから。

「失礼ですがルード様……私のことを、自分に都合の良い道具か何かだと勘違いしていませんか?」

「はっ? 女は元々、子供を産む為の道具だろう? 何を今さら言っているんだ?」

「えっ……?」

 信じられない言葉を耳にした気がする……ルード様は私、いえ女性のことを道具だと言ってのけたのだ。半年間、彼と婚約しているけれど、一気に冷めてしまった気がした。

「嘘ですよね? 今のは何かの冗談ですか……?」

「何を言っているんだ? 私は冗談など言っていないぞ。女は子供を産むことが出来る……それは有史以来、決まっていることだろう? この世の奇跡みたいなものだ」

「それはそうかもしれませんが、道具と言いませんでしたか?」

「だから女は道具なのは間違いないだろう。加えて、男の欲望を満たす為の道具でもあるな」

「なっ……ルード様! それは失礼にも程がありますよ!」

 こんな考えの人が婚約者だなんて信じられない……今すぐにでも是正しなければと、私は語気を強めていた。しかし、彼の表情は変わらない。

「何を怒っているのか理解出来ないが……お前は伯爵令嬢の分際で、公爵である私に逆らうつもりなのだな?」

「逆らうって……そういう話をしているわけでは……」

「お前の話などどうでも良い。身体を差し出す気がないのであれば、今すぐに屋敷から出て行って貰おうか」

「なっ……」

「私と結婚したいと考えている女は、山のように居るからな。何も頭の固いアンナと婚約し続ける必要はないわけだ」


 ルード様は顔色1つ変えずに言っている……自分で何を言っているのか、本当に理解しているのだろうか?

「それは……婚約破棄ということですか?」

「そういうことだ。お前などもう必要ない、さっさと消えろ」

「ルード様……」


 その後、私達の婚約破棄が成立してしまった。私は彼の屋敷から追放されてしまったのだ……。

 こんな身勝手な婚約破棄が他にあるだろうか? 私は何も悪いことはしていないのに……しばらくの間、自分の身に起きたことが信じられないでいた。
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