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第二十四話

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 場所を変えて、ギルドの地下二階。石の壁に囲まれ、俺たちは軋みながら開く両開きの扉を、一歩離れたところで見上げていた。
 本来なら、立ち入りなどできるはずもない場所だ。訳あって俺は数回訪れているが、やはりいつ来ても緊張する。警備兵の威圧感がすごいのだ。

「分体はあとどのくらい持つ?」
「今のペースだと、あと5時間30分ほどね」
「……補給しとくか」
「するー……」

 ツェーンはそれまでのキリっとした姿勢を崩し、俺にもたれかかって首筋を噛む。緩んだ顔が俺の視界の端に映った。可愛い。

「相変わらずだな、お二人さん。お似合いの夫婦だよ」
「まだ夫婦じゃないですよ」
「そうかい」

 ブルートさんと軽口をたたいているうちに、扉が開ききった。勝手に動かないよう抑えている警備兵に会釈をして、3人で中に入る。
 倉庫の明かりは、壁に取り付けられた燭台のみで、ほとんどの場所が薄暗かった。少し湿っぽくて埃臭い。やっぱり、あまり好きな場所じゃないな。
 ものが増えるのに合わせて追加しているのだろう、形も大きさもまばらな棚が、最低限の通り道を残して所狭しと置かれている。
 油断すると迷ってしまいそうだ。そんな中を、ブルートさんは勝手知ったる様子で進んでいく。俺たちも遅れないように、早足で追いかけた。

「例のモノは本来、ここにあるべきじゃないんだがな。君がこちらに戻ってくると聞いて、特別に預かっている状態だ」
「相当に強力なんですね」
「ああ、盗まれて振り回されるだけで大惨事になりかねん」

 そんな、劇物みたいなやつをよく入手できたな……。俺のスキルならそれでも何とかできるとは思うが、それはそれとして怖い。
 しばらく歩いて、ようやく倉庫の最奥までたどり着いた。そこは棚で埋め尽くされたそれまでの場所と違い、やや開けている。
 大きめのランプが、天井からつるされていた。その真下には人がひとり横になれるほどの台。そして、そこに鎮座するのは一振りの大剣だった。

「……ずいぶん禍々しいわね」
「ああ、こいつは聖剣グラビウスよりも難儀だろうな」

 全体に青白いオーラを纏った巨大な剣。柄は両手でどうにかつかめるほどの大きさで、分厚い刃には蛇のようにうねる曲線の模様が描かれていた。
 片側に、返しのような無数の棘が付いた凶悪なフォルム。どんな素材でできているのか、皆目見当もつかない。

「ここで手にとって、大丈夫なんですか……?」
「君なら被害を撒き散らすこともなかろう」
「プレッシャーかけないでくださいよ……」

 冷や汗が流れるのを背中に感じながら、ゆっくりと手を伸ばす。事故が起こらないか、と言う心配もそうだが、今の俺にこれを持ち上げられるのだろうか……?
 まずは右手。そのあとに左手。下手に動かさないよう慎重に添えた両手で、柄を握る。そして、手のひらの先に意識を集中させ……。

「……うん、なんとかなりそうだ」

 この大剣のことは理解した。あとは、今の俺で実現できるか──

『ちょっと、乙女の体に気安く触らないでよ』
「っ!?」

 突如響いた、甲高い声。後ろを振り返ったが、ブルートさんもツェーンも不思議そうに見つめ返してくるばかりだ。
 この声は、俺だけに……?

「……あら」

 ツェーンが視線をずらし、小さく声を漏らした。俺もそちらに顔を向ける。
 ……そこにいたのは、ふてぶてしい表情で腕組みをして、ふわふわと宙に浮かぶ半透明のトカゲだった。
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