上 下
14 / 26

第十三話

しおりを挟む
「理解できないな」
「……ですよねぇ」

 あれから約三十分後。
 ツェーンのベッドに腰かけ、色々言葉を選びながらたどたどしくも終了した俺の説明 (多少のごまかし付き)に対する、米津先生の反応はこんなものだった。

「……いや、理解できない、というよりも、理解したくない、の方が正しいかな」
「どういうことです?」
「まず、異世界云々は現状否定しようがないから納得するしかない。次に、召喚云々はまあ、百歩……いや万歩譲って『そういう世界なんだなあ』と無理矢理思い込もう。だが、その召喚対象が君というのが………………ね」
「いや、それはお約束と言う奴で」
「創作物のお約束を現実に持ち込まれてたまるか」

 そう言って、もう疲れたとばかりにため息をつく。
 態度がちょっと荒れていることを指摘してみたかったのだが、色々こじれそうだったのでその事実は心の内にしまっておいた。

「米津先生、生徒の前でとる態度ではありませんよ」

 ツェーンが思いっきり直球を投げたので、俺の自重は全くもって意味をなさなかったわけだが。
 指摘を受けた米津先生は、恥ずかしさ半分怒り半分と言った表情で俺を睨んできた。……俺の所為じゃないぞ。

「……倉田君」
「は、はい……?」
「今君は、何も見ていなかったし聞いていなかった。勿論米津誠司というとある物理教師の失態も君は知らない。いいね?」
「えっ」
「いいね?」
「……はい」

 俺はこの時、米津先生の本性と言うか、素を見たのかもしれない。
 まだ少し不満そうにしていた先生だが、やがて諦めた様に「まあ、いいでしょう」と言うと、一度座りなおして体をこちらに向けてきた。
 ……凍てつくような視線はそのままだが。

「……睨まないで下さいよ」
「もう……いい加減話を始めましょう?」

 ツェーンが、半ば強引に切り出す。そして、彼女が話し出したことと言えば、大体俺の予想通りの内容だった。
 まず初めに、数日かけてこの世界の通貨や挨拶と言った一般常識 (といっても、細かい違いしかないが)を学ぶ。次に、魔物や盗賊と言った外敵に対抗できるようになるための訓練。そして、万が一のために教会で創世神の加護――これを授かっていると、肉体や魂が完全に消滅した状況下でも一度だけ生き返れるのだ――を授かる事。
 主な所はこの三つだ。
 ……正直、俺としては修学旅行なのだからこんなことをする必要はないと思ったのだ。常識云々は大して変わらないのだからわざわざ学ぶ必要もないし、魔物や盗賊は現在仕事に事欠いている兵士に護衛についてもらえば良い。唯一、創世神の加護はあった方がいいと思うが……。
 まあ、予定の時点からして二か月の修学旅行なんて、そんなに時間があっても暇を持て余す輩が少なからず出てきてしまうかもしれないから、やるしかないだろう。
 それに、ツェーンが「少しぐらい夢を見させてあげましょうよ。自分も頑張れば戦えるんだ、って」と熱弁する(恐らく俺のラノベコレクションに影響されているのだろう)ものだから、やめようと言い出せないというのもあったりする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉の謳い手~破壊の騎士と旋律の戦姫~

柚月 ひなた
ファンタジー
理想郷≪アルカディア≫と名付けられた世界。 世界は紛争や魔獣の出現など、多くの問題を抱え混沌としていた。 そんな世界で、破壊の力を宿す騎士ルーカスは、旋律の戦姫イリアと出会う。 彼女は歌で魔術の奇跡を体現する詠唱士≪コラール≫。過去にルーカスを絶望から救った恩人だ。 だが、再会したイリアは記憶喪失でルーカスを覚えていなかった。 原因は呪詛。記憶がない不安と呪詛に苦しむ彼女にルーカスは「この名に懸けて誓おう。君を助け、君の力になると——」と、騎士の誓いを贈り奮い立つ。 かくして、ルーカスとイリアは仲間達と共に様々な問題と陰謀に立ち向かって行くが、やがて逃れ得ぬ宿命を知り、選択を迫られる。 何を救う為、何を犠牲にするのか——。 これは剣と魔法、歌と愛で紡ぐ、終焉と救済の物語。 ダークでスイートなバトルロマンスファンタジー、開幕。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

鬼切りの刀に憑かれた逢神は鬼姫と一緒にいる

ぽとりひょん
ファンタジー
逢神も血筋は鬼切の刀に憑りつかれている、たけるも例外ではなかったが鬼姫鈴鹿が一緒にいることになる。 たけると鈴鹿は今日も鬼を切り続ける。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

Fragment-memory of future-Ⅱ

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。 今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。 カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています Copyright 2019 黒乃 ****** 主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。 主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。 平和かと思われていた世界。 しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。 彼らに訪れる新たな脅威とは──? ──それは過去から未来へ紡ぐ物語

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

絶対零度女学園

ミカ塚原
ファンタジー
 私立ガドリエル女学園で起こった、謎の女生徒凍結事件。原因不明の事件を発端として、学園を絶対零度の闇が覆い尽くす。時間さえも凍結したかのような極寒の世界を、正体不明の魔がうごめき始めた。ただ一人闇に立ち向かうのは、病に冒され夢を挫かれた少女。この世に火を投じるため、百合香は剣を取って巨大な氷の城に乗り込む。 ◆先に投稿した「メイズラントヤード魔法捜査課」という作品とは異なる方向性の、現代が舞台のローファンタジーです。キービジュアルは作者本人によるものです。小説を書き始めたのは今年(2022年)が初めてなので、稚拙な文章は暖かい目で読んでくださると幸いです。

虹の向こうへ

もりえつりんご
ファンタジー
空の神が創り守る、三種の人間が住まう世界にて。 智慧の種族と呼ばれる心魔の少年・透火(トウカ)は、幼い頃に第一王子・芝蘭(シラン)に助けられ、その恩返しをするべく、従者として働く日々を送っていた。 しかしそれも、透火が種族を代表するヒト「基音」となり、世界と種族の繁栄を維持する「空の神」候補であると判明するまでのこと。 かつて、種族戦争に敗れ、衰退を辿る珠魔の代表・占音(センネ)と、第四の種族「銀の守護者」のハーク。 二人は、穢れていくこの世界を救うべく、相反する目的の元、透火と芝蘭に接触する。 芝蘭のために「基音」の立場すら利用する透火と、透火との時間を守るために「基音」や「空の神」誕生に消極的な芝蘭は、王位継承や種族関係の変化と共に、すれ違っていく。 それぞれの願いと思いを抱えて、透火、芝蘭、占音、ハークの四人は、衝突し、理解し、共有し、拒絶を繰り返して、一つの世界を紡いでいく。 そう、これは、誰かと生きる意味を考えるハイファンタジー。 ーーーーーーーーー  これは、絶望と希望に翻弄されながらも、「自分」とは何かを知っていく少年と、少年の周囲にいる思慮深い人々との関係の変化、そして、世界と個人との結びつきを描いたメリーバッドエンドな物語です。   ※文体は硬派、修飾が多いです。  物語自体はRPGのような世界観・設定で作られています。​ ※第1部全3章までを順次公開しています。 ※第2部は2019年5月現在、第1章第4話以降を執筆中です。

処理中です...