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第七話

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 見れば、ツェーンもあきれた様子でため息をつき、空を仰いでいる。
 そんな俺達の事を歯牙にもかけず、アイシャはまるでなんでもない事の様に言い放った。

「そうだ、せっかくだから、私が王都を案内するわよ。ツェーンちゃんに聞いてたんだけど、この後は全員でギルドに登録してくるだけなんでしょう? それだけじゃあ、つまらないわ」

 その言葉を聞いて、場は騒然となった。そりゃあそうだ。アイシャは傍から見れば、モデル顔負けのスレンダー美人だから。
 飴細工の様な美しい金色の長髪、どこまでも深く澄み切った碧色の瞳。すっと通った鼻筋。微かに膨らんだ桃色の唇。そんな良質なパーツが、白い滑らかな肌の上に乗っているのだから、美しくない訳がない。初対面であれば、殆どの人が見惚れるだろう。
 ましてや向こうから誘われれば、男子は勿論、女子も舞い上がるのは当然である。そう思わせるだけの説得力が、その美貌にはあった。
 だがしかし、それは彼女の内面を知らないからこその反応であり、もし彼女の性格を知っていれば、何か提案された時にはまず第一に罠を疑うのだ。そして、アイシャと行動を共にしている間は勿論、アイシャと別れてから布団にもぐるまで、絶対に警戒を怠らない。
 アイシャは、超が付くほど悪戯と人をからかうのが好きなのだ。どうして宿の主人などという責任ある立場にいられるのか、疑問になるぐらい。
 俺も内心、これからどんなことをされるのか、恐ろしく思っていた。何しろ、俺の方を見てから、あの意味深な笑み。絶対に俺を標的にしてきているはず。俺は今から、道中が平穏無事にいかないことを悟っていた。
 と、そこで、米津先生がアイシャを止めるべく立ち上がる。

「――ッ、だ、駄目ですよ! アイシャさんは、この宿の主人でしょう? それなのに、そんなに簡単に――」
「あら、お気遣いありがとう。でもね、いいのよ。私がいなくても何も問題ないわ。だって、あなたたちの貸し切りなんだもの」
「で、ですが……」
「それに、私が雇っている従業員たちも、私一人いないぐらいではどうってこともないわ」
「……」
「私自身、案内役っていうのもやってみたかったしね。ツェーンちゃんは暫く向こうに行っていたし、貴方たちは初めてだし、だったら私が一番案内役に向いていると思うのよね」

 ……結果、惨敗。米津先生は、アイシャの言葉の前に儚くも崩れ去った。
 アイシャはこんな性格でありながら(こんな性格だからこそ、かもしれないが)かなり口が達者で、相当話術を極めていないと、簡単に押し切られてしまうのである。
 こうなってしまっては、もうアイシャを止めるのは諦めるしかない。アイシャの同行は仕方ない事なのだ。
 結局、五分としないうちに、アイシャが俺達の専属案内人となってしまった。
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