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第二話

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 担任の米津先生から『修学旅行』という単語が飛び出し、歓喜に震える教室内で、俺はどうやって皆を連れて行こうかと思案しながら、ぼんやりと話を聞いていたのだが、行先の話になって、凍り付いた。

「……今年の行き先は、ウチのクラスだけ異世界になった」

 そんな、常人なら勝機を疑うような発言が、馬鹿真面目な事で知られている米津先生から出たからだ。

「「「…………は?」」」

 きっと、この時、俺を含めたクラスメイト全員の心境はぴったり一致していただろう。
『いきなり何を言い出すんだ』と。
 話が進むにつれて、大体の事は把握した。つまり、例年は全クラス京都に行っていたこの修学旅行だが、今年から沖縄と京都を選べるようにして、しかし俺達のクラスだけは異世界、それも俺が以前訪れたことのある『シーズへイン』へ行く、ということらしい。
 この事実が寝耳に水であった事や、米津先生の説明にツッコミどころが多すぎた事もあり、完全に固まっていたのだが、そのうちに話は進み、再起動した頃には全て話は終わっていた。
 ……これは恐らく、と言うか確実に、ツェーンの仕業だろう。
 家に帰ってからツェーンに詰め寄って見れば、案の定、彼女の仕業だった。
 曰く『向こうの世界にも偶には帰りたいの』との事で、内心俺も同じことを考えてはいたから、複雑な心境ではあったが何も言えなかった。
 そんなわけで、その話はトントン拍子に進み、そして今日、俺達は『シーズへイン』に来ている。
 ちなみに、トンネルの終点が白く光っていたのは、魔法陣の影響だ。雰囲気が出ていて非常によかった。
 と、感動に震えていると、服の内側、腹部辺りでもぞもぞと動く毛玉の感触を覚えた。

「おーおー。もう着いたから、少し待っててよ」

 俺は、服を盛り上がらせている毛玉――狐の姿を取ったみやびを服越しに撫でながら、小さく声を掛けた。
 すると、微かにくぐもった泣き声が聞こえる。声色からして、かなりご機嫌らしい。
 それはそうだろう、何せ自分が生まれ育った世界に、久しぶりに帰ってこられたのだから。

「……お前すげえな」
「え?」
「……雅、だったか? 股間まで入ってるぞ」
「…………あ」

 佐原に言われて、毛玉の感触が腹部から股間に移動している事に気付いた。
 流石にまずいので、引っ張り出そうと手を伸ばす。
 ……が、少し遅かったらしい。

「――~~!?」

 何か暖かく、ぬめぬめとしたものが、俺のあそこにあたる。次いで、どこか荒々しい感じのある風が、パンツの中で吹きおこる。
 俺は、その感覚に否応なく反応してしまう。今も、俺の血液が股間に――

「……流石にそれはないわ。バスの中で、しかも狐にって……」
「―――ッ!」

 佐原のジト目を受けて、一気に覚めた。何だか悲し気な声が聞こえる様な気がするが、無視だ。
 友人は暫く俺の事を見つめてきたが、俺が黙って何事もなかったように振る舞っていると、やがて諦めた様に大きく一つため息をはいて、窓の外へと視線を移した。
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