57 / 62
1
第五十四話 お互いの気持ち
しおりを挟む
ーーー
ーーーーーーーーー
あれから12月に突入し、二学期の終わりのテスト前になると生活感は一気に騒がしくなった。
その間特に何かあったわけではなかったが、実はのんびりできた訳ではなかった。
誕生日の翌日には優一は朝早くから撮影へ行き、葵もテスト前の勉強に追われることになって、なんだか12月が師走と言われるわけがよくわかった気がする。
それに気持ち的にも、今は何故か乗り気ではなかった。
あのことを聞いてしまってから振られた気分になっていて、辛い気持ちも増えてきた。
こんな状態でいいのだろうかーーーそう思うけどどうしようもない。
聞きたいと言ったのは自分なのだから大人しくこの気持ちがバレないようにするしかないーーー
しかし、そんな気持ちでテスト勉強をしていたある日のこと。
ついにあの人からの連絡が来てしまったのだ。
あの人とは、優一の姉である麗奈だ。
会う予定を教えるーーーと言ってから連絡は全くしていないままだったのを麗奈は覚えていたのだ。
でも葵はあんなこともあった事だし、栄人から聞いた話のこともあるし複雑な面が沢山ある中で、麗奈と会える日に会おうーーーと約束をしていたことをすっかり忘れていた。
だからこの連絡というのはかなり大きな問題だった。
『もうすぐ冬休みよね!予定は決まったかしら?』
麗奈はどうしても会いたいらしい。その勢いが文章越しから伝わってきた。
葵は返信を考えながら、ぼーっと教科書を眺めていた。
本当に会っていいんだろうか。
もしも会ったら、余計なことを口走ってしまいそうだった。
ーーー優一さんが悩んでるのは付き合ってた子のことがあったからーーー?
そんな風に聞いてしまえば麗奈は酷く驚いて、青ざめるはずだ。
でも気になってしまうからーーー
自分のためとは思わないが麗奈が自分に会いたいと言うのなら会うべきだろうーーー
葵はそれから何度か心の中で葛藤し、1時間経ってやっと答えを出したのだった。
ーーー結局葵は会うことを決めた。
明日、明後日、そして冬休み前なら学校もないし会えるだろう。
葵が送信すると、その後すぐにピロリンとスマホが鳴って、葵はすぐさま画面を開く。
麗奈から来たのは、「全然OK!じゃあ明日ね!」という簡素な文章だった。
(は、早いな…にしても俺本当にーーー会うのか。)
だが、今更そんな迷っていても決めてしまったのだからもう仕方ない。
とりあえずは優一にバレなければいいーーー葵はそんな覚悟を決めたのだった。
ーーー
ーーーーーーーーーーーー
そして次の日ーーー
葵が朝ごはんをテーブルに並べていると、眠たそうにあくびをしながら、優一が部屋から出てきた。
優一は相変わらず忙しい日々を送っていて、今日も休めることなく撮影の仕事が入っていた。
「葵くん、おはよう…相変わらず早いね…」
「おはようございます。も、もう7時半ですよ…。あ、ていうかあの、今日俺少し出掛けます。」
「ああ、そうなんだ。友達?」
「あっ……まあ…そうですね。」
(ご、ごめんなさい優一さん…)
葵はそんな嘘に少し胸を痛めながらも、頷いた。
「気をつけてね。僕は21時ぐらいになると思う。」
「わかりました。頑張ってください。」
葵がそう言うと、優一は葵の目の前まで行きサッと前髪を退けると、軽く額にキスをした。
「なっ………なんなんですか!」
葵がビクッと体を震わせると優一はさも当たり前のようにニコッと微笑んだ。
「ん?家賃です。」
「んぐ……」
葵はそう言われると何も言い返せなくなり口をグッと噤んだ。
(ほんっとこんな朝っぱらから……)
葵はそう思うけれど、心臓の音を抑えながら冷静な顔を作るしかなかった。(作れてるかわからない。)
「ご、ごはん早く食べてくださいっ…… 」
葵が小さな声でそう言うと、優一は楽しそうに笑った。
(悪魔だ…)
ーーーそれから優一が仕事へ行くと、葵はその一時間後に家を出た。
今日は最寄りの駅で待ち合わせしていて、そこから麗奈と共に車で(この日のためにレンタカーを借りたらしい)どこかへ行くこととなった。
「麗奈さんおはようございますっ」
最寄りの駅の改札に辿り着くと、一際目を引く美しい金髪ロングヘアーの女性に向かって葵は大きく挨拶をした。
麗奈はこちらに向くと、「ハロー!」と元気よく手をあげた。
「あらァ久々ぁ!会えて本当に嬉しいわぁ。」
麗奈は葵に軽くハグをしてニコリと笑う。
やはりその表情がどことなく優一に似ているから、葵はいちいちドキドキしてしまう。
(相変わらず綺麗だなこの人…)
「はい!お、俺もです。」
「やだ、緊張してる?ふふ、そんな堅苦しくなくていいのよ?」
「はいっ」
(いや、まあ話すのはいいけど色んな意味で緊張はしてる…)
「というか、麗奈さんフランスからわざわざ来たんですか?」
「ええ。まあね?でも元々昨日か今日日本にまた行こうって思ってたからいいのよ。そんなことよりとりあえず行きましょ。」
「そうですね。」
葵と麗奈は近くの駐車場に停めていた車に乗り込むと、車を走らせた。
ーーー
「ーーー優一は元気かしら。」
ふと、車を暫く走らせていた麗奈はそう尋ねた。
葵はコクリと頷く。
「あ、はい。仕事も順調みたいです。今冬の映画もヒットしてて尚更テレビに引っ張りだこって感じです。」
「そうなのね。ーーーなんだか安心したわ。」
麗奈のホッとした顔に、葵は複雑な気持ちになった。
やっぱ心から心配してる人の顔だなーーー
「れ、麗奈さんはどうですか?」
葵が話を振ると、「そうねぇ」と麗奈は考え込んだ。
もしかして上手くいってないのだろうかーーー
葵は心配になったが、そのうち麗奈はニコニコと微笑んだかと思うと、こちらに向いて元気よく「良い感じよ!」と言った。
「あ、それなら良かったです。」
「ええ!葵にも会えたことだしね?」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。ーーーあ、ねぇ、葵はここら辺わかる?落ち着けるカフェみたいな所があればいいんだけど」
「あ、わかります。そこ右に曲がったところに確かあったかと……」
(そういえばこの先にもっと前、栄人さんと優一さんが連れてってくれた甘いもののお店があったなーーー)
懐かしい記憶が蘇った気がした。
あの時はまだ、優一をすきになるだなんて思いもしなかった。
普通に栄人と優一と、仲のいい3人、そんな感じで食べに行ってーーー本当に楽しかった。
あれから色んなことがあって今は優一の姉である麗奈と来ているわけだけど、確実にあの日から変わっているのだ。
知らないことは多いけれど、知ってることだって増えた。
(あの頃は楽しかったな)
そりゃあ今だって楽しい。でも辛い。
どうしたらいいか分からない。
だから今日もしも進展があるのならーーー葵は無意識にそう望んでいた。
着いたカフェはよく通っていた場所だが初めて入る所だった。
落ち着けるモダンな雰囲気で、人もそこまでいるわけじゃないからゆったりと話すのには適しているだろう。
「素敵な場所ねぇ。何飲む?」
「そうですね。じゃあ俺はこれで。」
葵がりんごのジュースを指さすと、麗奈はまるで子犬を見るかのような目で葵を見つめた。
「へ?」
「葵、りんごジュースなんて可愛いわねぇ。それにしてもりんごジュースねぇ…懐かしいわ。」
「な、懐かしいって?」
「実は優一もよくりんごジュースを飲んでいたのよ。コーヒーが飲めないからって。苦いのより甘いのが好きな子だったからねぇ」
(え、そうなんだ!!コーヒー飲めなかったってなんか可愛いな…)
「ふふ、まあ私はコーヒーにするけどね?」
麗奈はそう言ってから店員を呼ぶと、りんごジュースとコーヒーを頼んだ。
その後店員が背を向けたのと同時に麗奈は改めて話を切り出す。
「ねぇーーー3人で出掛けた日、あの後優一に何か言われた?」
「えっ……いや……特には…」
「私ずっと気になってたのよ。葵と優一の仲がどれほどかは分からないけど、私のこと、拒絶してるのはわかるでしょ?だから、何か言われてないかなぁって。」
(言いづらい質問……でも、聞かれたことはなるべく応えよう…)
「そうですね。あんなに仲良くなるとは思わなかったって言われました。」
「まあ露骨に嫌がってたものね…」
麗奈は「そっかぁ」ともう一度頷くと、なんだか切なげな顔を向けた。
「ーーー葵はどう思う?きっと、こんな姉弟おかしいって思うわよね。」
「そ、それは…」
「いいのよ、私が1番わかってることなんだから。それでもね、私葵とは今後も仲良くしたいと思ってるの。優一の様子を知りたいのもそうだし日本のことも好きだけど、それだけじゃないわ。葵って優しいし、なんか癒されるのよ。だからねーーー」
(い、癒される…そう言われるとなんか恥ずかしいな…)
麗奈は一呼吸置くと、葵の目を真っ直ぐ見つめて続けた。
「家族と優一がどうしてあんな風になったのか話そうと思うのよ。」
「え…」
(まさか麗奈さんから言われるなんて…)
「迷ったけど、あの優一と過ごせてるってだけですごいと思うし葵は優一にとっては特別なんじゃないかって思うから。」
「そ、そんな特別だなんてことは…!俺はただ居候してるだけだし…」
「そんなことないわよ。あんなに可愛がってるんだもの。」
(ま、周りからはそう見られてるのか…)
葵はなんだか恥ずかしくなって下を向いた。
「とにかく優一があんなに人を可愛がるのは珍しいことなのよ。」
「え…?で、でも優一さんて基本的に誰にでも優しいじゃないですか。俺と初めて会った時から、何も知らなくても優しかったし…それにーーー」
(好きな子にだって尽くしてたんでしょう?ーーーって言えないけど…)
「いや、そうじゃないわ。あれはただの親切心。心から可愛がったり、心配したりはそうそうないわよ。でも葵への扱いを見て違うと、そう思ったの。」
(ち、違うのか…?)
「優一は小さい時からなんでも出来てしまう子だから感情を隠すのも得意で、人に喜ばれることをしたりよく魅せるのも得意。でもその中に本心はないと思う。いつだって心を閉ざして、本当のことは言わないようにするから。」
(ああ、これは栄人さんが言ってたことと同じだ…。本当に昔からそうだったんだ…。家族の前でもーーーでもどうして?好きな人のことがあったから心を閉ざしてたんじゃないのか…?)
「優一さんは元々そういう性格ってことですか?」
葵が質問すると、麗奈は静かに首を振った。
「優一は、多分怒ってるのよ。だってーーー」
「だって…?」
葵はゴクンと軽く唾を飲み込んだ。
麗奈の目には、真剣さもあるが、何故だか罪悪感のような後悔のような念があるような気がしたのだ。
「父親は同じでもね、私たちーーーーーー腹違いの子供なんだもの。」
「ーーーえ?」
葵は思いもよらぬ発言に、上手く言葉を発せなかった。
(え、腹違い…?じゃあ麗奈さんと優一さんの母親は違うのか…?)
「あ、えっと、ごめんなさいね急に。……でもね、父親の血だけが同じなのよ。だから似てるって思うところはきっと父親譲りのところよ。」
「そうだっ…たんですか…」
「そう。それで、父は社長だったから色んなグループと契約を交わしてて、凄いお金持ちでね、執事もメイドもいたわ。イギリスにも何件か別荘はあるし、フランスにも2件あるわね。」
「ふぇ!?別荘そんなに!?」
「ええ。ちゃんと数えてないからわからないけどね。私も早くに家出ちゃったからねぇ…ーーーまあ、それは置いといて。」
(おいおいおいおい凄すぎだろっ!てか話題多すぎだろっ!)
葵はなぜだか興奮してきた胸をなで下ろしつつ、「はい」と気持ちを切り替えるように返事をした。
「うーんと、ここから少し言いづらい話になるわ。でも言うわね。そう決めたから。ーーーーーー…それで、優一はね、父親の愛人の子、つまり不倫相手の子供だったのよ。でも愛人が亡くなって、引き取られたの。だから突然家に来た時、みんな唖然として受け入れなかった。そして私と何でも比べられていたわ。メイドや執事からも差別されていた。」
「え……そんな…」
「というか、私の母親ーーーまあ今は優一の母親でもあるわね。その人が1番優一を許さなかったのよ。」
「え……そ、そんなのって…」
ーーー辛すぎるーーー
(だって、今の母親に受け入れてもらえてないってことだろ…?折角、家族になったのにそんな家族や他の人からも除け者にされるなんて…)
ーーー俺と似てるけど、優一さんの方がよっぽどきつい…。
葵の胸がズキズキと痛んだ。
「だから、あの子分の夕食が無かったり、家に入れて貰えなかったりしてたわ。その時は友達かどこかに泊まってたのかもしれないけど。でもあの子はそれでも勉強とかなんでも出来たし、愛人似、つまり優一の実母似で本当に綺麗だったから、父親には優一にそれを武器にしろ、家のことを飾れって言われ続けてきたのよ。まあ、当然こんな虐められてきたのにそんなふうに無責任なこと言われたら普通の子なら反発すると思うんだけど、優一はそれをしなかった。むしろ首を振らずに笑顔だけ向けてたわ。その時は本当に馬鹿なんじゃないかって思った。」
(そうだったんだ…。じゃあきっとその頃から心を殺してたんだ…好きな人のことだけじゃなくてそんな辛いことが過去にあったなんて…)
「ーーー衝撃だった?本当にごめんなさいね。でも、だから私も家族と思われなかったり優一に連絡を打ち切られていたのよ。」
「ああ…」
(それはそうだ。そんなことされたら誰だってーーー)
「葵……私のこと嫌いになった?」
ふと麗奈の目を見ると麗奈は悲しそうに俯いていた。
その目に偽りはない、本当に純粋に悲しんでいるようだった。
「そ、そんなことないです!だって、麗奈さんはそんな優一さんのこと庇っていたんでしょう?なら、それはーーー」
そう言いかけて麗奈は首を降った。
「ううん、実は私も母のことが好きだったから一緒になって最初は軽蔑してた。あと、嫉妬もしてたわ。今は嫉妬なんてそんなことないけど、本当に男の子とは思えないほど人形みたいに綺麗な子で、確か愛人がフランスとイギリスのハーフだったからなのもあってグレーの髪色やあの綺麗な目で、それはそれはもう本当に天使みたいだったのよ。だから羨ましかった。私はアメリカの血があるから金髪だけど、優一の髪色にしたいって思ったこともあったくらい。まあなんか今は黒く染めちゃってたけど。」
そう言われて、葵はふと優一が勉強を教えてくれた時に髪色や目の色がなんとも不思議で綺麗だったことを思い出した。
あんなに綺麗なのに黒く染めて勿体ないーーーそう思っていたけど、今考えればきっとそのせいで今の母親や使いの人達から虐められてきたなら消したくなって当然だと思った。
「こんなに、言いづらいこと話してくださってありがとうございます。知ることが出来て嬉しいです。」
「ううん、いいのよ。わざわざ会ってくれたしね。引かれるかと思ったけど、やっぱり葵は優しいわね。」
「そんなことは……」
(ああ、聞きたい。この際好きな人のことも全部聞いてしまいたいーーー)
「うん?葵くん聞き足りないことある?なんでも聞いて?」
「はっ…あ、あの……!!」
(きっと今ならーーー聞ける…!)
「あきって人!知ってますか?!」
「……え?」
ああーーーついに聞いてしまった。
葵の心臓は限界までに達していた。
どうしようーーーでもここまで来たら、引き下がれないーーー
しかし、麗奈は暫く考えたあとで首を振ると、「知らないわ。」と小さく答えた。
「え?」
「聞いたことないわ。その人がどうしたの?」
(あれーーー?じゃああの紙はなんだったんだ…?)
ーーーやっぱ思い違いだった……?
「あ、もしかしてーーー」
麗奈はふと何かを思いついたのかスマホを開いた。
そして、暫く画面をスクロールし続けたかと思うと「これかしら?」と葵に画面を向けた。
そこにはぬいぐるみの所にあったのと同じに海の絵の下に「あき」と書かれた紙が映っていた。
「あ、これ… !で、でもどうして?」
「これね、優一が描いたのよ。」
「え、そうなんですか!」
「ええ。なぜ、あきって書かれてるかわからないんだけどね。」
「あ…… 」
(ーーーきっと、麗奈さんは知らないんだ。というか、きっとその人のことを優一さんは話してないんだ。)
葵はそう思ったのと同時に、どこかの糸が途切れたように脱力した。
好きな人のことはきっと栄人が話してくれたことが全部で、ほかに知ってる人はいないのかもしれない。
優一に聞くしかない、きっと真実を知る人はいないーーー
「すみません変な事聞いて。」
「いや、ごめんなさい。でも、あきって人が気になってるの?」
「あ、はい…」
「どうして?」
「え、そ、それは……」
(どうしてって…優一さんの好きな人かもしれない……とか言ったら絶対勘づかれるし…)
葵が口篭ると、麗奈は突然葵の顔に近づいてじっと目を見始めた。
「な、なんですか…?」
「あなた……優一に恋してる?」
「ふぇ!!!?」
「私、何となくそんな気がしてたのよ。ねぇ本当はどんな関係なの?教えて。」
「そ、それは!で、でも付き合ってないですから!」
葵が慌てて手を前に振ると、麗奈は「ははーん?」となにかに納得したように頷いた。
「恋してるのかどうかは否定しないのね。」
「なっ…」
「私もこれだけ話したんだもの。葵のことも教えてくれるかしら?」
麗奈は押しが強い。
威圧感ではないけれどオーラが凄すぎて断れるわけがないーーー
「ん、そ、そうですね…好きかもしれないです…」
「かも?」
「す、好きですよっ!」
(ああやばい…優一さん関係の人との繋がりはないからバレても広まることは無いけどこんなに簡単にバレるなんて。)
「あはははは、素直~!もうバレバレよ?何もかも知りたいって感じが出てたもの。」
「そ、そんなっ…すみませんっ」
(そ、そんなにわかりやすいのかよっ…栄人さんにバレなかったのが救いだったな…… )
「そんな謝ることないわよ?でも、そうなのねぇ。優一は面倒よ?もうわかり切ってるだろうし何度も言って悪いけど、心を閉ざしてるし何を考えてるかわからないんだから。あとライバルも多いしね?」
「わ、わかってます…でも俺は、おれはーーー」
(この気持ちが本物だってそう気づいてしまったんだーーー)
「……好きなのね?」
「……はい…… 」
「なら私、応援するわよ。」
「え、」
「葵ならきっと優一を変えてくれると思うから。」
(え…)
ーーー葵ならーーー
麗奈にそう言われ、葵は何故だか心が暖かくなった気がした。
正直そんな力、自分には無いと思っている。
むしろ傷つけてしまっただろうし世話になってばかりだし、その好きな人に叶うわけないってーーー
でも、この気持ちを応援してくれる人が初めて出来た。
ダメな気持ちだと思ってたのに、葵なら、そう言ってくれた。
それも優一の姉だ。
「ほ、本当ですか?」
「ええ、私は葵を信じる。だってここまで話したんだもの。だから葵も私を信じてほしい。それと、優一にいつか私のことも受け入れてもらえるように手伝って欲しい。」
「……お、俺、できることならなんだって力尽します!誰も傷つけないようにしたいから……」
「ふふ、葵っていい子よね。ーーー本当にありがとう。」
「お、お礼するのは俺の方です…」
ーーーああ、良かった。
会う前はどうなることかと思ったけどーーー
きっと麗奈は真剣だったのだ。
少しでも優一と繋がりがある人を見つけて、縋って、この繋がりを取り戻したい一心で任せたかったのだ。
あんな過去があって、優一に拒絶されるようになって、後悔してるのだ。
それはいつの日か本当の弟と姉のように、家族のように繋がりを取り戻したいからーーーーーー
そんな縋る気持ちを、葵はよく分かっていたはすだ。
自分だって、家族とあんな別れになったことを後悔してる。
でももうこの世にいない存在だ。
なら、取り戻せるこの関係を取り戻す力にくらいはなりたい。
それに1番はーーー優一さんが幸せになってくれるなら。
苦しい思いをしないならーーーそう思うから。
ーーーーーーーーー
あれから12月に突入し、二学期の終わりのテスト前になると生活感は一気に騒がしくなった。
その間特に何かあったわけではなかったが、実はのんびりできた訳ではなかった。
誕生日の翌日には優一は朝早くから撮影へ行き、葵もテスト前の勉強に追われることになって、なんだか12月が師走と言われるわけがよくわかった気がする。
それに気持ち的にも、今は何故か乗り気ではなかった。
あのことを聞いてしまってから振られた気分になっていて、辛い気持ちも増えてきた。
こんな状態でいいのだろうかーーーそう思うけどどうしようもない。
聞きたいと言ったのは自分なのだから大人しくこの気持ちがバレないようにするしかないーーー
しかし、そんな気持ちでテスト勉強をしていたある日のこと。
ついにあの人からの連絡が来てしまったのだ。
あの人とは、優一の姉である麗奈だ。
会う予定を教えるーーーと言ってから連絡は全くしていないままだったのを麗奈は覚えていたのだ。
でも葵はあんなこともあった事だし、栄人から聞いた話のこともあるし複雑な面が沢山ある中で、麗奈と会える日に会おうーーーと約束をしていたことをすっかり忘れていた。
だからこの連絡というのはかなり大きな問題だった。
『もうすぐ冬休みよね!予定は決まったかしら?』
麗奈はどうしても会いたいらしい。その勢いが文章越しから伝わってきた。
葵は返信を考えながら、ぼーっと教科書を眺めていた。
本当に会っていいんだろうか。
もしも会ったら、余計なことを口走ってしまいそうだった。
ーーー優一さんが悩んでるのは付き合ってた子のことがあったからーーー?
そんな風に聞いてしまえば麗奈は酷く驚いて、青ざめるはずだ。
でも気になってしまうからーーー
自分のためとは思わないが麗奈が自分に会いたいと言うのなら会うべきだろうーーー
葵はそれから何度か心の中で葛藤し、1時間経ってやっと答えを出したのだった。
ーーー結局葵は会うことを決めた。
明日、明後日、そして冬休み前なら学校もないし会えるだろう。
葵が送信すると、その後すぐにピロリンとスマホが鳴って、葵はすぐさま画面を開く。
麗奈から来たのは、「全然OK!じゃあ明日ね!」という簡素な文章だった。
(は、早いな…にしても俺本当にーーー会うのか。)
だが、今更そんな迷っていても決めてしまったのだからもう仕方ない。
とりあえずは優一にバレなければいいーーー葵はそんな覚悟を決めたのだった。
ーーー
ーーーーーーーーーーーー
そして次の日ーーー
葵が朝ごはんをテーブルに並べていると、眠たそうにあくびをしながら、優一が部屋から出てきた。
優一は相変わらず忙しい日々を送っていて、今日も休めることなく撮影の仕事が入っていた。
「葵くん、おはよう…相変わらず早いね…」
「おはようございます。も、もう7時半ですよ…。あ、ていうかあの、今日俺少し出掛けます。」
「ああ、そうなんだ。友達?」
「あっ……まあ…そうですね。」
(ご、ごめんなさい優一さん…)
葵はそんな嘘に少し胸を痛めながらも、頷いた。
「気をつけてね。僕は21時ぐらいになると思う。」
「わかりました。頑張ってください。」
葵がそう言うと、優一は葵の目の前まで行きサッと前髪を退けると、軽く額にキスをした。
「なっ………なんなんですか!」
葵がビクッと体を震わせると優一はさも当たり前のようにニコッと微笑んだ。
「ん?家賃です。」
「んぐ……」
葵はそう言われると何も言い返せなくなり口をグッと噤んだ。
(ほんっとこんな朝っぱらから……)
葵はそう思うけれど、心臓の音を抑えながら冷静な顔を作るしかなかった。(作れてるかわからない。)
「ご、ごはん早く食べてくださいっ…… 」
葵が小さな声でそう言うと、優一は楽しそうに笑った。
(悪魔だ…)
ーーーそれから優一が仕事へ行くと、葵はその一時間後に家を出た。
今日は最寄りの駅で待ち合わせしていて、そこから麗奈と共に車で(この日のためにレンタカーを借りたらしい)どこかへ行くこととなった。
「麗奈さんおはようございますっ」
最寄りの駅の改札に辿り着くと、一際目を引く美しい金髪ロングヘアーの女性に向かって葵は大きく挨拶をした。
麗奈はこちらに向くと、「ハロー!」と元気よく手をあげた。
「あらァ久々ぁ!会えて本当に嬉しいわぁ。」
麗奈は葵に軽くハグをしてニコリと笑う。
やはりその表情がどことなく優一に似ているから、葵はいちいちドキドキしてしまう。
(相変わらず綺麗だなこの人…)
「はい!お、俺もです。」
「やだ、緊張してる?ふふ、そんな堅苦しくなくていいのよ?」
「はいっ」
(いや、まあ話すのはいいけど色んな意味で緊張はしてる…)
「というか、麗奈さんフランスからわざわざ来たんですか?」
「ええ。まあね?でも元々昨日か今日日本にまた行こうって思ってたからいいのよ。そんなことよりとりあえず行きましょ。」
「そうですね。」
葵と麗奈は近くの駐車場に停めていた車に乗り込むと、車を走らせた。
ーーー
「ーーー優一は元気かしら。」
ふと、車を暫く走らせていた麗奈はそう尋ねた。
葵はコクリと頷く。
「あ、はい。仕事も順調みたいです。今冬の映画もヒットしてて尚更テレビに引っ張りだこって感じです。」
「そうなのね。ーーーなんだか安心したわ。」
麗奈のホッとした顔に、葵は複雑な気持ちになった。
やっぱ心から心配してる人の顔だなーーー
「れ、麗奈さんはどうですか?」
葵が話を振ると、「そうねぇ」と麗奈は考え込んだ。
もしかして上手くいってないのだろうかーーー
葵は心配になったが、そのうち麗奈はニコニコと微笑んだかと思うと、こちらに向いて元気よく「良い感じよ!」と言った。
「あ、それなら良かったです。」
「ええ!葵にも会えたことだしね?」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。ーーーあ、ねぇ、葵はここら辺わかる?落ち着けるカフェみたいな所があればいいんだけど」
「あ、わかります。そこ右に曲がったところに確かあったかと……」
(そういえばこの先にもっと前、栄人さんと優一さんが連れてってくれた甘いもののお店があったなーーー)
懐かしい記憶が蘇った気がした。
あの時はまだ、優一をすきになるだなんて思いもしなかった。
普通に栄人と優一と、仲のいい3人、そんな感じで食べに行ってーーー本当に楽しかった。
あれから色んなことがあって今は優一の姉である麗奈と来ているわけだけど、確実にあの日から変わっているのだ。
知らないことは多いけれど、知ってることだって増えた。
(あの頃は楽しかったな)
そりゃあ今だって楽しい。でも辛い。
どうしたらいいか分からない。
だから今日もしも進展があるのならーーー葵は無意識にそう望んでいた。
着いたカフェはよく通っていた場所だが初めて入る所だった。
落ち着けるモダンな雰囲気で、人もそこまでいるわけじゃないからゆったりと話すのには適しているだろう。
「素敵な場所ねぇ。何飲む?」
「そうですね。じゃあ俺はこれで。」
葵がりんごのジュースを指さすと、麗奈はまるで子犬を見るかのような目で葵を見つめた。
「へ?」
「葵、りんごジュースなんて可愛いわねぇ。それにしてもりんごジュースねぇ…懐かしいわ。」
「な、懐かしいって?」
「実は優一もよくりんごジュースを飲んでいたのよ。コーヒーが飲めないからって。苦いのより甘いのが好きな子だったからねぇ」
(え、そうなんだ!!コーヒー飲めなかったってなんか可愛いな…)
「ふふ、まあ私はコーヒーにするけどね?」
麗奈はそう言ってから店員を呼ぶと、りんごジュースとコーヒーを頼んだ。
その後店員が背を向けたのと同時に麗奈は改めて話を切り出す。
「ねぇーーー3人で出掛けた日、あの後優一に何か言われた?」
「えっ……いや……特には…」
「私ずっと気になってたのよ。葵と優一の仲がどれほどかは分からないけど、私のこと、拒絶してるのはわかるでしょ?だから、何か言われてないかなぁって。」
(言いづらい質問……でも、聞かれたことはなるべく応えよう…)
「そうですね。あんなに仲良くなるとは思わなかったって言われました。」
「まあ露骨に嫌がってたものね…」
麗奈は「そっかぁ」ともう一度頷くと、なんだか切なげな顔を向けた。
「ーーー葵はどう思う?きっと、こんな姉弟おかしいって思うわよね。」
「そ、それは…」
「いいのよ、私が1番わかってることなんだから。それでもね、私葵とは今後も仲良くしたいと思ってるの。優一の様子を知りたいのもそうだし日本のことも好きだけど、それだけじゃないわ。葵って優しいし、なんか癒されるのよ。だからねーーー」
(い、癒される…そう言われるとなんか恥ずかしいな…)
麗奈は一呼吸置くと、葵の目を真っ直ぐ見つめて続けた。
「家族と優一がどうしてあんな風になったのか話そうと思うのよ。」
「え…」
(まさか麗奈さんから言われるなんて…)
「迷ったけど、あの優一と過ごせてるってだけですごいと思うし葵は優一にとっては特別なんじゃないかって思うから。」
「そ、そんな特別だなんてことは…!俺はただ居候してるだけだし…」
「そんなことないわよ。あんなに可愛がってるんだもの。」
(ま、周りからはそう見られてるのか…)
葵はなんだか恥ずかしくなって下を向いた。
「とにかく優一があんなに人を可愛がるのは珍しいことなのよ。」
「え…?で、でも優一さんて基本的に誰にでも優しいじゃないですか。俺と初めて会った時から、何も知らなくても優しかったし…それにーーー」
(好きな子にだって尽くしてたんでしょう?ーーーって言えないけど…)
「いや、そうじゃないわ。あれはただの親切心。心から可愛がったり、心配したりはそうそうないわよ。でも葵への扱いを見て違うと、そう思ったの。」
(ち、違うのか…?)
「優一は小さい時からなんでも出来てしまう子だから感情を隠すのも得意で、人に喜ばれることをしたりよく魅せるのも得意。でもその中に本心はないと思う。いつだって心を閉ざして、本当のことは言わないようにするから。」
(ああ、これは栄人さんが言ってたことと同じだ…。本当に昔からそうだったんだ…。家族の前でもーーーでもどうして?好きな人のことがあったから心を閉ざしてたんじゃないのか…?)
「優一さんは元々そういう性格ってことですか?」
葵が質問すると、麗奈は静かに首を振った。
「優一は、多分怒ってるのよ。だってーーー」
「だって…?」
葵はゴクンと軽く唾を飲み込んだ。
麗奈の目には、真剣さもあるが、何故だか罪悪感のような後悔のような念があるような気がしたのだ。
「父親は同じでもね、私たちーーーーーー腹違いの子供なんだもの。」
「ーーーえ?」
葵は思いもよらぬ発言に、上手く言葉を発せなかった。
(え、腹違い…?じゃあ麗奈さんと優一さんの母親は違うのか…?)
「あ、えっと、ごめんなさいね急に。……でもね、父親の血だけが同じなのよ。だから似てるって思うところはきっと父親譲りのところよ。」
「そうだっ…たんですか…」
「そう。それで、父は社長だったから色んなグループと契約を交わしてて、凄いお金持ちでね、執事もメイドもいたわ。イギリスにも何件か別荘はあるし、フランスにも2件あるわね。」
「ふぇ!?別荘そんなに!?」
「ええ。ちゃんと数えてないからわからないけどね。私も早くに家出ちゃったからねぇ…ーーーまあ、それは置いといて。」
(おいおいおいおい凄すぎだろっ!てか話題多すぎだろっ!)
葵はなぜだか興奮してきた胸をなで下ろしつつ、「はい」と気持ちを切り替えるように返事をした。
「うーんと、ここから少し言いづらい話になるわ。でも言うわね。そう決めたから。ーーーーーー…それで、優一はね、父親の愛人の子、つまり不倫相手の子供だったのよ。でも愛人が亡くなって、引き取られたの。だから突然家に来た時、みんな唖然として受け入れなかった。そして私と何でも比べられていたわ。メイドや執事からも差別されていた。」
「え……そんな…」
「というか、私の母親ーーーまあ今は優一の母親でもあるわね。その人が1番優一を許さなかったのよ。」
「え……そ、そんなのって…」
ーーー辛すぎるーーー
(だって、今の母親に受け入れてもらえてないってことだろ…?折角、家族になったのにそんな家族や他の人からも除け者にされるなんて…)
ーーー俺と似てるけど、優一さんの方がよっぽどきつい…。
葵の胸がズキズキと痛んだ。
「だから、あの子分の夕食が無かったり、家に入れて貰えなかったりしてたわ。その時は友達かどこかに泊まってたのかもしれないけど。でもあの子はそれでも勉強とかなんでも出来たし、愛人似、つまり優一の実母似で本当に綺麗だったから、父親には優一にそれを武器にしろ、家のことを飾れって言われ続けてきたのよ。まあ、当然こんな虐められてきたのにそんなふうに無責任なこと言われたら普通の子なら反発すると思うんだけど、優一はそれをしなかった。むしろ首を振らずに笑顔だけ向けてたわ。その時は本当に馬鹿なんじゃないかって思った。」
(そうだったんだ…。じゃあきっとその頃から心を殺してたんだ…好きな人のことだけじゃなくてそんな辛いことが過去にあったなんて…)
「ーーー衝撃だった?本当にごめんなさいね。でも、だから私も家族と思われなかったり優一に連絡を打ち切られていたのよ。」
「ああ…」
(それはそうだ。そんなことされたら誰だってーーー)
「葵……私のこと嫌いになった?」
ふと麗奈の目を見ると麗奈は悲しそうに俯いていた。
その目に偽りはない、本当に純粋に悲しんでいるようだった。
「そ、そんなことないです!だって、麗奈さんはそんな優一さんのこと庇っていたんでしょう?なら、それはーーー」
そう言いかけて麗奈は首を降った。
「ううん、実は私も母のことが好きだったから一緒になって最初は軽蔑してた。あと、嫉妬もしてたわ。今は嫉妬なんてそんなことないけど、本当に男の子とは思えないほど人形みたいに綺麗な子で、確か愛人がフランスとイギリスのハーフだったからなのもあってグレーの髪色やあの綺麗な目で、それはそれはもう本当に天使みたいだったのよ。だから羨ましかった。私はアメリカの血があるから金髪だけど、優一の髪色にしたいって思ったこともあったくらい。まあなんか今は黒く染めちゃってたけど。」
そう言われて、葵はふと優一が勉強を教えてくれた時に髪色や目の色がなんとも不思議で綺麗だったことを思い出した。
あんなに綺麗なのに黒く染めて勿体ないーーーそう思っていたけど、今考えればきっとそのせいで今の母親や使いの人達から虐められてきたなら消したくなって当然だと思った。
「こんなに、言いづらいこと話してくださってありがとうございます。知ることが出来て嬉しいです。」
「ううん、いいのよ。わざわざ会ってくれたしね。引かれるかと思ったけど、やっぱり葵は優しいわね。」
「そんなことは……」
(ああ、聞きたい。この際好きな人のことも全部聞いてしまいたいーーー)
「うん?葵くん聞き足りないことある?なんでも聞いて?」
「はっ…あ、あの……!!」
(きっと今ならーーー聞ける…!)
「あきって人!知ってますか?!」
「……え?」
ああーーーついに聞いてしまった。
葵の心臓は限界までに達していた。
どうしようーーーでもここまで来たら、引き下がれないーーー
しかし、麗奈は暫く考えたあとで首を振ると、「知らないわ。」と小さく答えた。
「え?」
「聞いたことないわ。その人がどうしたの?」
(あれーーー?じゃああの紙はなんだったんだ…?)
ーーーやっぱ思い違いだった……?
「あ、もしかしてーーー」
麗奈はふと何かを思いついたのかスマホを開いた。
そして、暫く画面をスクロールし続けたかと思うと「これかしら?」と葵に画面を向けた。
そこにはぬいぐるみの所にあったのと同じに海の絵の下に「あき」と書かれた紙が映っていた。
「あ、これ… !で、でもどうして?」
「これね、優一が描いたのよ。」
「え、そうなんですか!」
「ええ。なぜ、あきって書かれてるかわからないんだけどね。」
「あ…… 」
(ーーーきっと、麗奈さんは知らないんだ。というか、きっとその人のことを優一さんは話してないんだ。)
葵はそう思ったのと同時に、どこかの糸が途切れたように脱力した。
好きな人のことはきっと栄人が話してくれたことが全部で、ほかに知ってる人はいないのかもしれない。
優一に聞くしかない、きっと真実を知る人はいないーーー
「すみません変な事聞いて。」
「いや、ごめんなさい。でも、あきって人が気になってるの?」
「あ、はい…」
「どうして?」
「え、そ、それは……」
(どうしてって…優一さんの好きな人かもしれない……とか言ったら絶対勘づかれるし…)
葵が口篭ると、麗奈は突然葵の顔に近づいてじっと目を見始めた。
「な、なんですか…?」
「あなた……優一に恋してる?」
「ふぇ!!!?」
「私、何となくそんな気がしてたのよ。ねぇ本当はどんな関係なの?教えて。」
「そ、それは!で、でも付き合ってないですから!」
葵が慌てて手を前に振ると、麗奈は「ははーん?」となにかに納得したように頷いた。
「恋してるのかどうかは否定しないのね。」
「なっ…」
「私もこれだけ話したんだもの。葵のことも教えてくれるかしら?」
麗奈は押しが強い。
威圧感ではないけれどオーラが凄すぎて断れるわけがないーーー
「ん、そ、そうですね…好きかもしれないです…」
「かも?」
「す、好きですよっ!」
(ああやばい…優一さん関係の人との繋がりはないからバレても広まることは無いけどこんなに簡単にバレるなんて。)
「あはははは、素直~!もうバレバレよ?何もかも知りたいって感じが出てたもの。」
「そ、そんなっ…すみませんっ」
(そ、そんなにわかりやすいのかよっ…栄人さんにバレなかったのが救いだったな…… )
「そんな謝ることないわよ?でも、そうなのねぇ。優一は面倒よ?もうわかり切ってるだろうし何度も言って悪いけど、心を閉ざしてるし何を考えてるかわからないんだから。あとライバルも多いしね?」
「わ、わかってます…でも俺は、おれはーーー」
(この気持ちが本物だってそう気づいてしまったんだーーー)
「……好きなのね?」
「……はい…… 」
「なら私、応援するわよ。」
「え、」
「葵ならきっと優一を変えてくれると思うから。」
(え…)
ーーー葵ならーーー
麗奈にそう言われ、葵は何故だか心が暖かくなった気がした。
正直そんな力、自分には無いと思っている。
むしろ傷つけてしまっただろうし世話になってばかりだし、その好きな人に叶うわけないってーーー
でも、この気持ちを応援してくれる人が初めて出来た。
ダメな気持ちだと思ってたのに、葵なら、そう言ってくれた。
それも優一の姉だ。
「ほ、本当ですか?」
「ええ、私は葵を信じる。だってここまで話したんだもの。だから葵も私を信じてほしい。それと、優一にいつか私のことも受け入れてもらえるように手伝って欲しい。」
「……お、俺、できることならなんだって力尽します!誰も傷つけないようにしたいから……」
「ふふ、葵っていい子よね。ーーー本当にありがとう。」
「お、お礼するのは俺の方です…」
ーーーああ、良かった。
会う前はどうなることかと思ったけどーーー
きっと麗奈は真剣だったのだ。
少しでも優一と繋がりがある人を見つけて、縋って、この繋がりを取り戻したい一心で任せたかったのだ。
あんな過去があって、優一に拒絶されるようになって、後悔してるのだ。
それはいつの日か本当の弟と姉のように、家族のように繋がりを取り戻したいからーーーーーー
そんな縋る気持ちを、葵はよく分かっていたはすだ。
自分だって、家族とあんな別れになったことを後悔してる。
でももうこの世にいない存在だ。
なら、取り戻せるこの関係を取り戻す力にくらいはなりたい。
それに1番はーーー優一さんが幸せになってくれるなら。
苦しい思いをしないならーーーそう思うから。
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる