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第1章
お狐様と夏祭り
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それから五日後ーーーーーついに八雲目神社の大規模な夏祭りが開催される日となった。
春樹はそれまでに済ませた課題と宿題を片付けると、昼頃には祖母に浴衣を着せてもらうことになっていて、意外と忙しかった。
「春樹くんがお祭りになんてねぇ、うふふ。嬉しいわぁ。」
「そうなの?」
祖母はいつになく嬉しい笑顔で何着かの浴衣を畳の上に広げた。
「そうよ。だって春樹くん毎年気を使って、お祭りなんて行かなくていいなんて言ってたんだもの。」
「あぁ、まあたしかに。でも僕はおばあちゃんと家で花火見るだけでも楽しいよ?」
「春樹くんは優しいわねぇ。まあま、着せたかった浴衣があるから今日は楽しんできなさいな。」
「ありがとうおばあちゃん。」
祖母はそう言うと、そこから水色の浴衣と白い帯を選んで、着付けてくれた。
「あら、素敵。やっぱりこの色、春樹くんに似合うわねぇ」
祖母は鏡の前で立つ春樹にそのような言葉をかけうっとりした笑顔のまま、多少の皺などを直す。
(いや、ほんと久々だなぁ…浴衣)
春樹は実は、小さい頃にしか浴衣というものを着たことがなかった。
だから初めは近所の祭りくらいだし浴衣なんて着なくてもいいよなんて思っていたけれど、後から考えると今日ぐらいの貴重な 体験なんだし着て良かったかも、と思い始めた。
こうなったらもう夏祭りを満喫するしかない。(いくら相手がお狐様でも。)
「お友達とはどこで待ち合わせするのかしら?」
「え?あ、あー…えっと…現地!!」
「あら、そうなのね。じゃあもう行くのかしら。」
「そうだね!じゃあ、おばあちゃんありがとう!」
「いいのよ。あと下駄もそこにあるからね」
「はぁーい!」
春樹はそう言うと、慣れない下駄を履いてそのまま外へ飛び出した。
するともう玄関前の道路には、家族連れや浴衣を着たカップルなどが溢れ返っていた。
(うっわ…まだ昼過ぎなのにこの人の数ってすごいな…)
春樹はその人の多さに圧倒されながら、1人コツコツと大通りからの神社への道を歩いた。
一昨日ほど前にまたお狐様が来た時、待ち合わせ場所は家ではなく神社にしようと話をしたのだ。
だからもういるはずーーーーー
春樹がそう思って上を向くと、初めてお狐様と会ったあの御神木の前にお狐様はいて…
(あ、あれお狐様…なんかいつもと違う感じがする…)
お狐様の服装はいつもと同じ黒い浴衣で、金色の帯を締めていて、下駄なのは変わらなかったが、なんだかいつもよりも雰囲気が違う感じがした。
「お狐様っ!」
春樹が名前を呼ぶと、お狐様はこちらに気づいて優しい笑顔を向ける。
「浴衣を着てきたのか、随分と似合っている。」
「えっ…あ、ありがとう…ございます」
(な、なんだよ急に褒めてきやがって…いやというか、それよりも…)
「なんか今日のお狐様、いつもと雰囲気違いません?」
「よく分かったな。化けの呪いをいつもより強めているからな。人間と変わらぬ匂いになっている。これならどんな能力を持たれていようが、本当の姿を暴かれることはないだろう。」
「そうなんですか!だからか…」
いつもお狐様の傍によると、不思議な香りがして曖昧なそれが、鼻腔をくすぐるような感覚に慣れていたからーーーーーそれが無かったんだ。
「ーーーーーそれで、案内してくれるのだろう?」
「あっはい!ていうかその前にお狐様、少し何か食べましょう!」
「稲荷か?」
「稲荷は持参してくださいと言ったはずです…」
「つまらん。まあいい。今日だけはここの物を食べるとするか。」
ふとお狐様を見ると、お狐様は周りを楽しげに眺めていた。
(なんか、不思議だな)
こうしてみていると普通に人なのに、本当は天狐と言われる狐族の中でも1番地位の高い存在で、隠世でもかなりの有名人で…
そんな人と契約を交わしている自分もまた、凄いみたいになって気恥しいけど、お狐様がどんな人物なのか、どんなことが好きなのか、知っていくほどに面白いと思えるようになってきた気がした。
「あの赤い丸はなんだ?」
お狐様と大通りを歩いていると、ふとお狐様がなにか気になるものを見つけたのか、指を指した。
そこにはりんご飴と書かれた看板が掛けられていた。
「あ、あれはりんご飴です!お祭りには欠かせないお菓子らしいですよ!」
「ほう、甘いか?」
「甘いですよー。食べてみます?」
「……甘いのか。」
お狐様は難しそうな顔をすると、暫くして「お前は。」と尋ねた。
「はい?」
「春樹は食べたいか?」
「え?あ、あー…食べたいです。あんまりお祭り行ったことないんで食べたこともないですけど、友達から美味しかったって話をよく聞きます。」
「そうなのか。ならば、試してみる価値はありそうだな。」
お狐様はそう言うと、懐から何かを取りだした。
「お、お狐様それはなんですか?」
「金貨だ。ここの者はこれで対価を払うのだと教わったが、違うか?」
「え、で、でもお狐様それは……」
(こっちの世界では使えないような気が…)
お狐様の手の中にある金貨は、まるで見たこともないような刻みが彫られていて、何百年か前の金箔色のなにか高価なものである、としか思えなかった。
「だ、大丈夫です。今日はおばあちゃんにお小遣いを貰っているので…!」
「若造のくせに無理をするな。黙って見ていろ。」
「え、ちょ、本当に無理だと…」
お狐様はヅカヅカとりんご飴の屋台まで行くと、あの見たこともないような金貨を店の人に見せた。
しかし不思議なことに、店の番の人は不思議な顔を1つせずにりんご飴を二つ、お狐様に渡したのだ。
「い、一体なぜ…」
「相手の目を眩ませる呪いを使っただけだ。」
「ふぇ!?ちょおお、そ、それ良くないのでは…」
「あの金貨はこの世の値段とやらよりも遥かに価値が高いものだ。目が覚めたとしてもそれ以上の利益になるだろう。」
「えぇ…」
「それよりも早う次の場所を案内しろ。」
お狐様はそう言うと、りんご飴をぺろりと舐めた。
春樹もお狐様に渡されたりんご飴を少しだけ舐めると、そこからじわっと飴の甘さが舌を伝い、美味しいと感じた。
浴衣を着ているというのもあるからか、なんだか自分が夏を満喫している感じがして、自然に笑みが零れる。
「どうだ、美味しいか?」
「美味しいです。お狐様は?甘いものお嫌いなんでしょう?大丈夫でした?」
「ああ、…確かに甘いがーーーーー」
お狐様はそう言って少し間をあけて春樹の顔を見つめる。
春樹は嬉しそうにりんご飴を頬張り、祭りの景色を堪能しているようだった。
それを見てお狐様は、またなんとも可愛らしい顔をするのだな、と渋々思うのだった。
すると甘ったるい舌の感覚が何故か溶けたような気がして自然に旨味が全体に拡がっていくように無くなったのだ。
「うん?やっぱ嫌でした?」
そのうち春樹がお狐様の視線に気づいたのか顔をちらりと見たので、お狐様は何かを満足気に頷いてから、「雰囲気というものは味覚をも変えるのかと思ってな。」と呟いた。
「え?なんです?あ、お狐様はこの雰囲気好きって事ですか?」
「ああ、思ったよりも悪くないものだな。」
お狐様の顔はいつも冷静で何を考えているかわからない瞳をしているけれど、見ているとどうやら本当に楽しんでいるようだった。
(ああ、それなら良かった…)
春樹は一息つくと、通ってきた道の反対の方を今度は指さした。
「じゃあ、お狐様!今度はあっちも行きましょう!あっちには輪投げとか金魚掬いとかあって、前に話した景品とかが貰えたりもするんですよーーーーー!」
そこでお狐様と金魚掬いをしたり輪投げをしたり、射的なんかもした。
お狐様は初めはやり方がわからずにいたが、そのうち春樹よりも上手くなって、ぬいぐるみやらトランプやらの景品を何個か貰った。
そしてすっかり日は暮れた午後18時を上回った。
すると辺りの賑やかさはまた更に盛り上がってきたようだったが、人の流れは屋台からは遠ざかっていた。
何故ならあともう少しで河川敷の向かいの山の奥の方から花火が上がるからだ。みんなそれを楽しみにしていたのだろう。
春樹はお狐様がとった景品を両手で抱え込むように持ち、先程 お狐様に買ってもらったお好み焼きを食べながら、その人の流れの様子を見て、皆の足と同じように河川敷の方へと向かっていくことにした。
「お狐様、そろそろ花火なので河川敷の方へ行きましょう」
「花火か。」
「あれ、もしかしてご存知ないですか?」
ふと、お狐様が不思議そうな顔をしたので、春樹も思わず首を傾げた。
「いいや、あるが。もうそんな時間かと思ってな。」
「あ、ああ!確かに…」
春樹はお狐様に言われて改めて、時間が経つのは確かに早かったかも、と感じた。
しかしそれと同時に、本当に楽しんでいた自分がいて恥ずかしくもなった。
お狐様に迷惑かけられたり何かハプニングが起きるかもーーーーーと昨日までは思っていたからか、こんなに素直に楽しめるなんて思わなかったし、お祭りにもそこまで期待していなかったからなのか、嬉しかった。
それに、隣を見ると毎回お狐様の表情がいつもよりキラキラしているようで、なんだかそれも純粋に良いなぁと思ってしまった。
河川敷の方に降りると、人はもう既に場所取りをしていた。
一番前の方は埋まっていて、少し足場が悪くなる端の岩場のところにはまだ少し場所が余っていた。
「お狐様、ここの岩場でも良いですか?上手く座らないと痛いかもだけど、多分よく見れるんで!」
「ああ、そこで良い。」
そう言ってお狐様と春樹は人気の少しなくなった岩場の方で座り、天を見上げた。
「あの山の向こうから、花火が上がるんですよ。」
「ほう。それなら全部見えるのか。」
「はい!!毎年行ってる友達が言ってたことなんで見えると思います!」
「そうか。…春樹は何故、お祭りにはあまり行かないのだ?」
「え?あ、…それは。ただ単におばあちゃんが家に一人だからって理由です。祖父も亡くなっちゃったしそれまでも結構バタバタしてて。」
「そうなのか。」
そういったお狐様の表情はなんだか、落ち着いていると言うよりも不思議そうな面持ちだった。
いや、よく見ていると何か言いたげのような…
(お狐様、何かーーーーー)
しかし春樹がそう言って声をかけようとしたその瞬間だった。
ドカーンと大きな音が耳を通った。
急いで空を見上げると、大きくて綺麗な3色の花火が天に咲き乱れた。
「わぁあ!」
春樹は思わず感嘆を漏らした。
いつもより遥かに近くで見ているからか、迫力がまるで違っていて圧倒される。
それを見た家族連れの歓声や人々の声が、一緒になって耳元で響いた。楽しそうな声。
なんだか、あの頃のこと思い出しちゃうなぁ。
ふと、昔のことを思い出した。
まだ両親がいた頃、1度だけ花火を見た日のこと。
あの時は音が怖くてまともに見られなかったけど、父に抱かれながら河川敷から見上げた空には大きくて綺麗な花火が咲いていたのだ。
そして隣で笑う母の顔は凄く楽しそうで、何を話しているかはわからなかったけど、今でも胸に焼き付いていた。
あれから何年も経ったけど、今でもたまに思う。
今の生活が寂しいって訳じゃないけれど、今両親がいたらどんな会話をしていたんだろうーーーーー
まさか自分の子供が変態で俺様なお狐様と契約をしちゃったなんて夢にも思わないだろうなぁ。
でも、楽しんでるんだよってことだけは、伝えたい。
心配性だったと思うし。
「春樹。」
「…うぇ?なんですか?」
その時突如名前を呼ばれ、春樹はお狐様に顔を向けた。
するとお狐様は春樹の目尻に手を当てた。
「どうした?」
(あれ?)
その瞬間冷たい感覚がまつ毛に当たって、そこで初めて自分が泣いていたのだと気がついて春樹はハッとした。
「す、すみません!あ、あれなんか…いつの間に泣いてた…?」
「先程から黙って見ていると思っていたらな。なにか辛いことがあったか。」
「え?辛いことなんてないですよ!」
「じゃあ何故泣いたのだ。」
「え、いや…その…少し、昔見た花火のこと思い出して。」
「昔のことで、泣いたのか?」
「はい。…あ、あのほら、お狐様にも前話したことあると思いますけど、僕の両親は僕が幼い頃に亡くなったから、両親との思い出っていうものがあんまりないんです。」
春樹が話し出すと、お狐様は春樹の顔を見つめたまま黙り込んだ。
「だけど、今見ていたら不意に両親と花火を見た記憶を思い出して、それでなんか今までは思い出せなかったけど、そういうことあったなーってしみじみ思って。元気にしてるかな、なんてちょっと思っちゃって。まあ、会えないけど…」
(ていうか、そんなこと話しても別にあれかな。ーーーーー)
春樹がははっと付け加えたように笑うと、お狐様は何かを暫く考え込んでから口を開いた。
その間も花火は空を舞って、華麗に散っていく。
「安心しなさい。お前の両親はちゃんとお前を見ている。」
「えっ?」
春樹は涙を拭う手を止めると、思わぬ発言に声を上げた。
「み、見ているってどういう…だ、だって命って…」
「お前は人は死ねば全てが終わると思っているのか?」
「え?…それは……」
「人というものはよく、亡くなったら全てが終わると思うようだが、実際はそうでは無い。心というものが不確かなものであるように、魂というものはそれよりも遥かに不確かなものだ。だから、」
お狐様はそう言うと、春樹の胸に手を当てた。
ドクン…と自分の鼓動が鳴る。
「お前の心の中でお前がいつでも両親を思い出してやれば、両親という存在がこの世から消えることは無いのだ。お前が言う、会えなくなるということも。」
お狐様はしっかりと目を見て、春樹にそう告げた。
その瞬間お狐様の説得力の良さなのか分からないけれど、何故か じわっと心が暖かくなったような気がしてーーーーー安心感が全身を包んだ。
(あれ、なんだろこの感覚…)
「どうだ。これで少しは寂しくはなくなったか。」
「は、はい…。それよりもなんか、不思議な感覚です…」
「目に見えないものを信じることは、この現実の法則が紛れもなく遅れているだけの事だ。もしもそれだけが確かならば、私という存在もいなかっただろう。」
「ああ…」
(た、確かにお狐様という存在は余りにも不確かなもので…曖昧で…非現実的だよな…)
「それでもそれを信じるものがいるだけで、私は確かにこの世界でも生きているのだ。信念というものは偉大だからな。決して侮ってはいけない。」
お狐様はそう言うと、ニコリと微笑んだ。
その顔が優しく花火に照らされて、春樹も思わず笑顔になった。
「ありがとうございます。お狐様」
それから暫くは花火を眺めていた。
音が大きくて途中で耳を塞ぎたくなったりもしたけど、それ以上にこの瞬間は綺麗で神秘的で、懐かしくてーーーーー
忘れられないな、と春樹は思ったのだった。
帰り道
人混みに紛れて家へと向かう。
下駄の音が暗闇の中で鳴り響いて、提灯の明かりが足元を静かに照らしている中、その瞬間の一つ一つが寂しいような、でも家に帰って両親にお線香をあげて、今すぐにでも今日の話をしたいような、そんな不思議な気分になった。
「今日は、満喫出来たか?」
「楽しかったです。美味しいものも食べれたし、ゲームはほぼ全部できたし…あ、あと焼きそばも!」
「そうか。それは良かったな。」
「お、お狐様はどうでした?」
「ああ、このような遊びは初めてだったが、たしかに悪くは無いと思った。」
「そ、そっか。ならよかっーーーーー」
「ただ、お前があんなふうに泣いたのは初めて見たからな。少し驚いた。」
「え?あっ…いやそれは…別に、悲しいことではないですから…!」
「そうか。だが、お前がそのようなことを気にして、我慢しなければいいとは思う。」
お狐様はそう言うと優しく春樹の頭を撫でた。
それがいちいち優しくてドキッとしてしまう自分がいて、なん だか今日は変だ。
なんか、お狐様が優しい。
「気にすることないですよっ…ていうか、今日の感想それですか?もっと他にないんです?金魚掬いの事とか、色々…」
春樹は照れ隠しでもするように目線を逸らすと、感想を聞き出すことにした。
「ああ、それだけでは無い。今日はその他にも思わぬ発見をしたようだからな。」
「え、思わぬ発見…?」
「ああ。」
「え、その発見ってなんですか!?」
(隠世との決定的な違いとか…!?)
春樹がパッと明るい表情をお狐様に向けると、突然「それだ。」と言われた。
「え?」
(そ、それ?…って。え?)
「お前が何かに夢中になる時に見せる、その顔だ。」
「は、はい?」
(僕の顔…デスカ…?へ?)
「ああ、私は甘いものが好みではなかったが、お前が美味しそうに食べるのを見て食べていたら、不思議と美味しく食べることが出来た。」
「は、はぁ…」
(なるほどあの、りんご飴のことか…)
「それに、お前が笑う顔を見ると心が暖かくなって気分も良くなると分かった。お前は自然にとても愛らしい顔をするからな。」
「なっ…あ、愛らしい顔ってなんですかっ…!!」
(て、まぁたそうやって小っ恥ずかしいことを言い出すのかよ!)
春樹が思わぬ言葉に頬を赤らめると、お狐様は満足気で悪戯な笑顔を向けた。
「なんだ?私の発言が気に食わないか?」
「い、いやいやそんなことはっ!で、でも僕が欲しいのはそういうの時じゃなくてっ!屋台の感想とか少しくらいないのかなぁと…沢山遊んだじゃないですか。それはどうだったんですか?」
実際お狐様の考えていることは分かりにくくて、本当に楽しんでくれているかどうか不安だった。
自分だけがいい気分でいるのは嫌だし、何にしろ、自分よりも この夏祭りを楽しみにしていたのはお狐様だったのだから、感想を率直に言われたいと思う。
「ああ、遊びという感覚は正直慣れていなかったが、悪くはなかったな。」
「景品とかは?全部僕が貰っていいなんて言ったけど…」
「ああ、別に悪いという訳ではなかった。」
(な、なるほど…?)
「て、悪くない悪くないってそれさっきから言ってますけど、お狐様の言うその悪くないは、結局良かったって解釈でいいんですか?」
「ああ…?そうだが。」
「あっ、!そ、それならいいんです!それなら!もう、悪くないってあんま良くなかったとも取れるんですからそれならもう少しわかりやすい言葉で言って欲しいんですけどっ」
春樹がムスッとしながらそう言うと、お狐様は「ほぉ、そうか。」となにかに納得して頷いたかと思えば、外だと言うのに突然春樹の頬に口付けをしてきたのだ。
「んにゃっ!?ちょ!!!ここ、外!!!」
春樹が驚き固まると、お狐様はそれでも周りを気にしないようにして前に進みながら、満足そうな笑みを零した。
「私が楽しめたかどうかを気にして感想等を聞こうとは、お前も分かりやすく可愛いことをするようになったと思ってな。」
(なっ…気にしてって…)
「い、いやいやそれはっ…!だって、お狐様凄く楽しみにしてたからであって…」
そう言いながら、確かに今のはお狐様のことばかり気にしているような感じだったな、と思った。
でも実際本当にお狐様が楽しんでいたということを確認できて良かったと思うのだ。何故かわからないけど、そんな不思議な安心が胸の中にまだあった。
「楽しみにしているのは、当然のことだ。そのために面倒な仕事も終わらせたからな。」
「そ、そっか…そういえば昨日まで仕事頑張ってたんですよね。お疲れ様です。」
お狐様は春樹の言葉を聞いてフッと笑うと、突然春樹の体を持ち上げ、お姫様抱っこをした。
「ってちょおお!!今度は何するんですっ!?外では変なことするなとあれほど言ってーーーーー!」
「周りを見ろ。人はもう居ないだろう?」
「えっ…?」
春樹は慌てて周りを見渡す。するとさっきまでは人がいたのに、今はもう本当に辺りには人が居なかった。
お狐様と話していて気づかなかったのだろうか?
もう道は大通りと自分の家に続いている道の途中から別れていくところで、街灯も少ない狭い通りに差し掛かっていた。
「私の言った通りだろう?それに今日は距離感をとるのに随分と疲れたのだ。もうここからは私の好きにさせろ。」
「お狐様っ…た、確かに人はいませんでしたけどそれでもこっちとしては恥ずいしっ!今すぐ降ろしてくださいって感じ…ていうか降ろしてくださいっ!お、おいっ…」
そう言いつつ春樹はもがくが、お狐様はいつも以上に気分良さそうな顔をしていた。
それを見て、なんだか春樹は(あれ?)と疑問を抱いた。
思えば今日はなんだか押さえつける力も優しいし、口調も柔らかい気がした。
いやまあ普通が頑固で横暴なだけに、そう思うだけなのかもしれない、というのはあるけど。
けどだからって春樹の中で抵抗しないという訳には!!!
春樹が足を多少ばたつかせると、慣れた手つきでお狐様は更に深くまで春樹の足を抱き上げた。
すると抵抗する足の力が上手く入らなくなり、いとも簡単に動けぬようにされてしまったのだった。
(あ、やられた…)
春樹が絶望的な顔をすると、お狐様はその顔を見ることも無く、前を見ながら口を開いた。
「はぁ、…お前は本当に可愛いな。今日のように素直に笑うお前も良いが、やはり反抗するいつものお前の反応が良い。」
「はい?」
「お前は私を自然に煽るからな。」
「は、はい!?」
(煽ってるつもり1ミリもないんですけど!?てかそれお狐様がいつも変なこと考えてるからじゃーーーーー!)
「というわけだから、今日は1日の喜びをしっかりとお前の身体に教えこんでやるとしよう。ちゃんと覚悟は出来ているな?」
「え、ちょ…お狐様?体に教えこむとはそのぉ…」
「なんだ?春樹のことだから分かっているだろう。帰ったら思う存分部屋で…」
その瞬間いつもされてきた数々のセクハラ行為を思い出して、春樹は顔に湯気が上がるかのような勢いで体を真っ赤にすると、叫んだ。
「ちょ!!!まっ…それはダメです!!!何考えてるんですか!帰ったらおばあちゃんがいるんですよ?!」
(いくらなんでもそれは!!それは!!!)
春樹はそう言って焦り出すが、お狐様は至って冷静な面持ちのままだった。
「ああ、その事についてだがーーーーー実は30分程前にヒメゴに家の様子を見てもらっていてな。すると、お前の祖母はぐっすりと眠っていたそうだ。名を読んでみても目覚めないほどには。」
「へ…?ひ、ヒメゴに…」
(てか、僕の知らない間になんちゅーことをさせて…)
「だからお前が声を我慢すれば、お前の祖母がいようが、いくらでもできるはずなのだがな…?ああ、それとも気持ちよすぎて我慢できないからそれが不安なのか?」
「は、はぁ!???んなこと誰も!」
「なら、できるな?先に言っておくが、抵抗をすればするほど、私の手加減は効かなくなるからな。抵抗して泣き喚いても知らぬぞ。」
「ちょっお狐様!そ、それマジですか!?で、でも僕はこの夏祭りの余韻を浸りながら眠りたくてーーー!」
「私と愛し合って寝る事に、これ以上の至福などあるか?まあ、あるというのならまたーーーーー」
「にゃ、にゃいです!」
「よろしい。それでは、朝まで楽しませてもらうとしようか。」
(ぁぁぁあ!!結局最後にはこれかぁあ!!!!!)
でもーーーーー実際のところ今日は本当に楽しかったし、新鮮な1日だった。
お狐様が楽しそうにしている様子も近くで見れたし、遊んでる時もなんだか可愛くて、いつものお狐様みたいな感じじゃないなって思った。
それに両親には会えると、目を真っ直ぐ見て言ってくれたから、何故かその時に本当に安心したんだ。
だからお母さんとお父さんに今日のことを言って、安心してもらおうと思うんだ。
そしたらきっと、両親も心の中で会いに来てくれるよね。
そして、いい神様がついてもらえてよかったねってあの時みたいに笑ってくれると思うからーーーーー
なんだかちょっと今日は、お狐様に素直になってみるのも悪くない、なんて春樹はそう思ったのだった。
春樹はそれまでに済ませた課題と宿題を片付けると、昼頃には祖母に浴衣を着せてもらうことになっていて、意外と忙しかった。
「春樹くんがお祭りになんてねぇ、うふふ。嬉しいわぁ。」
「そうなの?」
祖母はいつになく嬉しい笑顔で何着かの浴衣を畳の上に広げた。
「そうよ。だって春樹くん毎年気を使って、お祭りなんて行かなくていいなんて言ってたんだもの。」
「あぁ、まあたしかに。でも僕はおばあちゃんと家で花火見るだけでも楽しいよ?」
「春樹くんは優しいわねぇ。まあま、着せたかった浴衣があるから今日は楽しんできなさいな。」
「ありがとうおばあちゃん。」
祖母はそう言うと、そこから水色の浴衣と白い帯を選んで、着付けてくれた。
「あら、素敵。やっぱりこの色、春樹くんに似合うわねぇ」
祖母は鏡の前で立つ春樹にそのような言葉をかけうっとりした笑顔のまま、多少の皺などを直す。
(いや、ほんと久々だなぁ…浴衣)
春樹は実は、小さい頃にしか浴衣というものを着たことがなかった。
だから初めは近所の祭りくらいだし浴衣なんて着なくてもいいよなんて思っていたけれど、後から考えると今日ぐらいの貴重な 体験なんだし着て良かったかも、と思い始めた。
こうなったらもう夏祭りを満喫するしかない。(いくら相手がお狐様でも。)
「お友達とはどこで待ち合わせするのかしら?」
「え?あ、あー…えっと…現地!!」
「あら、そうなのね。じゃあもう行くのかしら。」
「そうだね!じゃあ、おばあちゃんありがとう!」
「いいのよ。あと下駄もそこにあるからね」
「はぁーい!」
春樹はそう言うと、慣れない下駄を履いてそのまま外へ飛び出した。
するともう玄関前の道路には、家族連れや浴衣を着たカップルなどが溢れ返っていた。
(うっわ…まだ昼過ぎなのにこの人の数ってすごいな…)
春樹はその人の多さに圧倒されながら、1人コツコツと大通りからの神社への道を歩いた。
一昨日ほど前にまたお狐様が来た時、待ち合わせ場所は家ではなく神社にしようと話をしたのだ。
だからもういるはずーーーーー
春樹がそう思って上を向くと、初めてお狐様と会ったあの御神木の前にお狐様はいて…
(あ、あれお狐様…なんかいつもと違う感じがする…)
お狐様の服装はいつもと同じ黒い浴衣で、金色の帯を締めていて、下駄なのは変わらなかったが、なんだかいつもよりも雰囲気が違う感じがした。
「お狐様っ!」
春樹が名前を呼ぶと、お狐様はこちらに気づいて優しい笑顔を向ける。
「浴衣を着てきたのか、随分と似合っている。」
「えっ…あ、ありがとう…ございます」
(な、なんだよ急に褒めてきやがって…いやというか、それよりも…)
「なんか今日のお狐様、いつもと雰囲気違いません?」
「よく分かったな。化けの呪いをいつもより強めているからな。人間と変わらぬ匂いになっている。これならどんな能力を持たれていようが、本当の姿を暴かれることはないだろう。」
「そうなんですか!だからか…」
いつもお狐様の傍によると、不思議な香りがして曖昧なそれが、鼻腔をくすぐるような感覚に慣れていたからーーーーーそれが無かったんだ。
「ーーーーーそれで、案内してくれるのだろう?」
「あっはい!ていうかその前にお狐様、少し何か食べましょう!」
「稲荷か?」
「稲荷は持参してくださいと言ったはずです…」
「つまらん。まあいい。今日だけはここの物を食べるとするか。」
ふとお狐様を見ると、お狐様は周りを楽しげに眺めていた。
(なんか、不思議だな)
こうしてみていると普通に人なのに、本当は天狐と言われる狐族の中でも1番地位の高い存在で、隠世でもかなりの有名人で…
そんな人と契約を交わしている自分もまた、凄いみたいになって気恥しいけど、お狐様がどんな人物なのか、どんなことが好きなのか、知っていくほどに面白いと思えるようになってきた気がした。
「あの赤い丸はなんだ?」
お狐様と大通りを歩いていると、ふとお狐様がなにか気になるものを見つけたのか、指を指した。
そこにはりんご飴と書かれた看板が掛けられていた。
「あ、あれはりんご飴です!お祭りには欠かせないお菓子らしいですよ!」
「ほう、甘いか?」
「甘いですよー。食べてみます?」
「……甘いのか。」
お狐様は難しそうな顔をすると、暫くして「お前は。」と尋ねた。
「はい?」
「春樹は食べたいか?」
「え?あ、あー…食べたいです。あんまりお祭り行ったことないんで食べたこともないですけど、友達から美味しかったって話をよく聞きます。」
「そうなのか。ならば、試してみる価値はありそうだな。」
お狐様はそう言うと、懐から何かを取りだした。
「お、お狐様それはなんですか?」
「金貨だ。ここの者はこれで対価を払うのだと教わったが、違うか?」
「え、で、でもお狐様それは……」
(こっちの世界では使えないような気が…)
お狐様の手の中にある金貨は、まるで見たこともないような刻みが彫られていて、何百年か前の金箔色のなにか高価なものである、としか思えなかった。
「だ、大丈夫です。今日はおばあちゃんにお小遣いを貰っているので…!」
「若造のくせに無理をするな。黙って見ていろ。」
「え、ちょ、本当に無理だと…」
お狐様はヅカヅカとりんご飴の屋台まで行くと、あの見たこともないような金貨を店の人に見せた。
しかし不思議なことに、店の番の人は不思議な顔を1つせずにりんご飴を二つ、お狐様に渡したのだ。
「い、一体なぜ…」
「相手の目を眩ませる呪いを使っただけだ。」
「ふぇ!?ちょおお、そ、それ良くないのでは…」
「あの金貨はこの世の値段とやらよりも遥かに価値が高いものだ。目が覚めたとしてもそれ以上の利益になるだろう。」
「えぇ…」
「それよりも早う次の場所を案内しろ。」
お狐様はそう言うと、りんご飴をぺろりと舐めた。
春樹もお狐様に渡されたりんご飴を少しだけ舐めると、そこからじわっと飴の甘さが舌を伝い、美味しいと感じた。
浴衣を着ているというのもあるからか、なんだか自分が夏を満喫している感じがして、自然に笑みが零れる。
「どうだ、美味しいか?」
「美味しいです。お狐様は?甘いものお嫌いなんでしょう?大丈夫でした?」
「ああ、…確かに甘いがーーーーー」
お狐様はそう言って少し間をあけて春樹の顔を見つめる。
春樹は嬉しそうにりんご飴を頬張り、祭りの景色を堪能しているようだった。
それを見てお狐様は、またなんとも可愛らしい顔をするのだな、と渋々思うのだった。
すると甘ったるい舌の感覚が何故か溶けたような気がして自然に旨味が全体に拡がっていくように無くなったのだ。
「うん?やっぱ嫌でした?」
そのうち春樹がお狐様の視線に気づいたのか顔をちらりと見たので、お狐様は何かを満足気に頷いてから、「雰囲気というものは味覚をも変えるのかと思ってな。」と呟いた。
「え?なんです?あ、お狐様はこの雰囲気好きって事ですか?」
「ああ、思ったよりも悪くないものだな。」
お狐様の顔はいつも冷静で何を考えているかわからない瞳をしているけれど、見ているとどうやら本当に楽しんでいるようだった。
(ああ、それなら良かった…)
春樹は一息つくと、通ってきた道の反対の方を今度は指さした。
「じゃあ、お狐様!今度はあっちも行きましょう!あっちには輪投げとか金魚掬いとかあって、前に話した景品とかが貰えたりもするんですよーーーーー!」
そこでお狐様と金魚掬いをしたり輪投げをしたり、射的なんかもした。
お狐様は初めはやり方がわからずにいたが、そのうち春樹よりも上手くなって、ぬいぐるみやらトランプやらの景品を何個か貰った。
そしてすっかり日は暮れた午後18時を上回った。
すると辺りの賑やかさはまた更に盛り上がってきたようだったが、人の流れは屋台からは遠ざかっていた。
何故ならあともう少しで河川敷の向かいの山の奥の方から花火が上がるからだ。みんなそれを楽しみにしていたのだろう。
春樹はお狐様がとった景品を両手で抱え込むように持ち、先程 お狐様に買ってもらったお好み焼きを食べながら、その人の流れの様子を見て、皆の足と同じように河川敷の方へと向かっていくことにした。
「お狐様、そろそろ花火なので河川敷の方へ行きましょう」
「花火か。」
「あれ、もしかしてご存知ないですか?」
ふと、お狐様が不思議そうな顔をしたので、春樹も思わず首を傾げた。
「いいや、あるが。もうそんな時間かと思ってな。」
「あ、ああ!確かに…」
春樹はお狐様に言われて改めて、時間が経つのは確かに早かったかも、と感じた。
しかしそれと同時に、本当に楽しんでいた自分がいて恥ずかしくもなった。
お狐様に迷惑かけられたり何かハプニングが起きるかもーーーーーと昨日までは思っていたからか、こんなに素直に楽しめるなんて思わなかったし、お祭りにもそこまで期待していなかったからなのか、嬉しかった。
それに、隣を見ると毎回お狐様の表情がいつもよりキラキラしているようで、なんだかそれも純粋に良いなぁと思ってしまった。
河川敷の方に降りると、人はもう既に場所取りをしていた。
一番前の方は埋まっていて、少し足場が悪くなる端の岩場のところにはまだ少し場所が余っていた。
「お狐様、ここの岩場でも良いですか?上手く座らないと痛いかもだけど、多分よく見れるんで!」
「ああ、そこで良い。」
そう言ってお狐様と春樹は人気の少しなくなった岩場の方で座り、天を見上げた。
「あの山の向こうから、花火が上がるんですよ。」
「ほう。それなら全部見えるのか。」
「はい!!毎年行ってる友達が言ってたことなんで見えると思います!」
「そうか。…春樹は何故、お祭りにはあまり行かないのだ?」
「え?あ、…それは。ただ単におばあちゃんが家に一人だからって理由です。祖父も亡くなっちゃったしそれまでも結構バタバタしてて。」
「そうなのか。」
そういったお狐様の表情はなんだか、落ち着いていると言うよりも不思議そうな面持ちだった。
いや、よく見ていると何か言いたげのような…
(お狐様、何かーーーーー)
しかし春樹がそう言って声をかけようとしたその瞬間だった。
ドカーンと大きな音が耳を通った。
急いで空を見上げると、大きくて綺麗な3色の花火が天に咲き乱れた。
「わぁあ!」
春樹は思わず感嘆を漏らした。
いつもより遥かに近くで見ているからか、迫力がまるで違っていて圧倒される。
それを見た家族連れの歓声や人々の声が、一緒になって耳元で響いた。楽しそうな声。
なんだか、あの頃のこと思い出しちゃうなぁ。
ふと、昔のことを思い出した。
まだ両親がいた頃、1度だけ花火を見た日のこと。
あの時は音が怖くてまともに見られなかったけど、父に抱かれながら河川敷から見上げた空には大きくて綺麗な花火が咲いていたのだ。
そして隣で笑う母の顔は凄く楽しそうで、何を話しているかはわからなかったけど、今でも胸に焼き付いていた。
あれから何年も経ったけど、今でもたまに思う。
今の生活が寂しいって訳じゃないけれど、今両親がいたらどんな会話をしていたんだろうーーーーー
まさか自分の子供が変態で俺様なお狐様と契約をしちゃったなんて夢にも思わないだろうなぁ。
でも、楽しんでるんだよってことだけは、伝えたい。
心配性だったと思うし。
「春樹。」
「…うぇ?なんですか?」
その時突如名前を呼ばれ、春樹はお狐様に顔を向けた。
するとお狐様は春樹の目尻に手を当てた。
「どうした?」
(あれ?)
その瞬間冷たい感覚がまつ毛に当たって、そこで初めて自分が泣いていたのだと気がついて春樹はハッとした。
「す、すみません!あ、あれなんか…いつの間に泣いてた…?」
「先程から黙って見ていると思っていたらな。なにか辛いことがあったか。」
「え?辛いことなんてないですよ!」
「じゃあ何故泣いたのだ。」
「え、いや…その…少し、昔見た花火のこと思い出して。」
「昔のことで、泣いたのか?」
「はい。…あ、あのほら、お狐様にも前話したことあると思いますけど、僕の両親は僕が幼い頃に亡くなったから、両親との思い出っていうものがあんまりないんです。」
春樹が話し出すと、お狐様は春樹の顔を見つめたまま黙り込んだ。
「だけど、今見ていたら不意に両親と花火を見た記憶を思い出して、それでなんか今までは思い出せなかったけど、そういうことあったなーってしみじみ思って。元気にしてるかな、なんてちょっと思っちゃって。まあ、会えないけど…」
(ていうか、そんなこと話しても別にあれかな。ーーーーー)
春樹がははっと付け加えたように笑うと、お狐様は何かを暫く考え込んでから口を開いた。
その間も花火は空を舞って、華麗に散っていく。
「安心しなさい。お前の両親はちゃんとお前を見ている。」
「えっ?」
春樹は涙を拭う手を止めると、思わぬ発言に声を上げた。
「み、見ているってどういう…だ、だって命って…」
「お前は人は死ねば全てが終わると思っているのか?」
「え?…それは……」
「人というものはよく、亡くなったら全てが終わると思うようだが、実際はそうでは無い。心というものが不確かなものであるように、魂というものはそれよりも遥かに不確かなものだ。だから、」
お狐様はそう言うと、春樹の胸に手を当てた。
ドクン…と自分の鼓動が鳴る。
「お前の心の中でお前がいつでも両親を思い出してやれば、両親という存在がこの世から消えることは無いのだ。お前が言う、会えなくなるということも。」
お狐様はしっかりと目を見て、春樹にそう告げた。
その瞬間お狐様の説得力の良さなのか分からないけれど、何故か じわっと心が暖かくなったような気がしてーーーーー安心感が全身を包んだ。
(あれ、なんだろこの感覚…)
「どうだ。これで少しは寂しくはなくなったか。」
「は、はい…。それよりもなんか、不思議な感覚です…」
「目に見えないものを信じることは、この現実の法則が紛れもなく遅れているだけの事だ。もしもそれだけが確かならば、私という存在もいなかっただろう。」
「ああ…」
(た、確かにお狐様という存在は余りにも不確かなもので…曖昧で…非現実的だよな…)
「それでもそれを信じるものがいるだけで、私は確かにこの世界でも生きているのだ。信念というものは偉大だからな。決して侮ってはいけない。」
お狐様はそう言うと、ニコリと微笑んだ。
その顔が優しく花火に照らされて、春樹も思わず笑顔になった。
「ありがとうございます。お狐様」
それから暫くは花火を眺めていた。
音が大きくて途中で耳を塞ぎたくなったりもしたけど、それ以上にこの瞬間は綺麗で神秘的で、懐かしくてーーーーー
忘れられないな、と春樹は思ったのだった。
帰り道
人混みに紛れて家へと向かう。
下駄の音が暗闇の中で鳴り響いて、提灯の明かりが足元を静かに照らしている中、その瞬間の一つ一つが寂しいような、でも家に帰って両親にお線香をあげて、今すぐにでも今日の話をしたいような、そんな不思議な気分になった。
「今日は、満喫出来たか?」
「楽しかったです。美味しいものも食べれたし、ゲームはほぼ全部できたし…あ、あと焼きそばも!」
「そうか。それは良かったな。」
「お、お狐様はどうでした?」
「ああ、このような遊びは初めてだったが、たしかに悪くは無いと思った。」
「そ、そっか。ならよかっーーーーー」
「ただ、お前があんなふうに泣いたのは初めて見たからな。少し驚いた。」
「え?あっ…いやそれは…別に、悲しいことではないですから…!」
「そうか。だが、お前がそのようなことを気にして、我慢しなければいいとは思う。」
お狐様はそう言うと優しく春樹の頭を撫でた。
それがいちいち優しくてドキッとしてしまう自分がいて、なん だか今日は変だ。
なんか、お狐様が優しい。
「気にすることないですよっ…ていうか、今日の感想それですか?もっと他にないんです?金魚掬いの事とか、色々…」
春樹は照れ隠しでもするように目線を逸らすと、感想を聞き出すことにした。
「ああ、それだけでは無い。今日はその他にも思わぬ発見をしたようだからな。」
「え、思わぬ発見…?」
「ああ。」
「え、その発見ってなんですか!?」
(隠世との決定的な違いとか…!?)
春樹がパッと明るい表情をお狐様に向けると、突然「それだ。」と言われた。
「え?」
(そ、それ?…って。え?)
「お前が何かに夢中になる時に見せる、その顔だ。」
「は、はい?」
(僕の顔…デスカ…?へ?)
「ああ、私は甘いものが好みではなかったが、お前が美味しそうに食べるのを見て食べていたら、不思議と美味しく食べることが出来た。」
「は、はぁ…」
(なるほどあの、りんご飴のことか…)
「それに、お前が笑う顔を見ると心が暖かくなって気分も良くなると分かった。お前は自然にとても愛らしい顔をするからな。」
「なっ…あ、愛らしい顔ってなんですかっ…!!」
(て、まぁたそうやって小っ恥ずかしいことを言い出すのかよ!)
春樹が思わぬ言葉に頬を赤らめると、お狐様は満足気で悪戯な笑顔を向けた。
「なんだ?私の発言が気に食わないか?」
「い、いやいやそんなことはっ!で、でも僕が欲しいのはそういうの時じゃなくてっ!屋台の感想とか少しくらいないのかなぁと…沢山遊んだじゃないですか。それはどうだったんですか?」
実際お狐様の考えていることは分かりにくくて、本当に楽しんでくれているかどうか不安だった。
自分だけがいい気分でいるのは嫌だし、何にしろ、自分よりも この夏祭りを楽しみにしていたのはお狐様だったのだから、感想を率直に言われたいと思う。
「ああ、遊びという感覚は正直慣れていなかったが、悪くはなかったな。」
「景品とかは?全部僕が貰っていいなんて言ったけど…」
「ああ、別に悪いという訳ではなかった。」
(な、なるほど…?)
「て、悪くない悪くないってそれさっきから言ってますけど、お狐様の言うその悪くないは、結局良かったって解釈でいいんですか?」
「ああ…?そうだが。」
「あっ、!そ、それならいいんです!それなら!もう、悪くないってあんま良くなかったとも取れるんですからそれならもう少しわかりやすい言葉で言って欲しいんですけどっ」
春樹がムスッとしながらそう言うと、お狐様は「ほぉ、そうか。」となにかに納得して頷いたかと思えば、外だと言うのに突然春樹の頬に口付けをしてきたのだ。
「んにゃっ!?ちょ!!!ここ、外!!!」
春樹が驚き固まると、お狐様はそれでも周りを気にしないようにして前に進みながら、満足そうな笑みを零した。
「私が楽しめたかどうかを気にして感想等を聞こうとは、お前も分かりやすく可愛いことをするようになったと思ってな。」
(なっ…気にしてって…)
「い、いやいやそれはっ…!だって、お狐様凄く楽しみにしてたからであって…」
そう言いながら、確かに今のはお狐様のことばかり気にしているような感じだったな、と思った。
でも実際本当にお狐様が楽しんでいたということを確認できて良かったと思うのだ。何故かわからないけど、そんな不思議な安心が胸の中にまだあった。
「楽しみにしているのは、当然のことだ。そのために面倒な仕事も終わらせたからな。」
「そ、そっか…そういえば昨日まで仕事頑張ってたんですよね。お疲れ様です。」
お狐様は春樹の言葉を聞いてフッと笑うと、突然春樹の体を持ち上げ、お姫様抱っこをした。
「ってちょおお!!今度は何するんですっ!?外では変なことするなとあれほど言ってーーーーー!」
「周りを見ろ。人はもう居ないだろう?」
「えっ…?」
春樹は慌てて周りを見渡す。するとさっきまでは人がいたのに、今はもう本当に辺りには人が居なかった。
お狐様と話していて気づかなかったのだろうか?
もう道は大通りと自分の家に続いている道の途中から別れていくところで、街灯も少ない狭い通りに差し掛かっていた。
「私の言った通りだろう?それに今日は距離感をとるのに随分と疲れたのだ。もうここからは私の好きにさせろ。」
「お狐様っ…た、確かに人はいませんでしたけどそれでもこっちとしては恥ずいしっ!今すぐ降ろしてくださいって感じ…ていうか降ろしてくださいっ!お、おいっ…」
そう言いつつ春樹はもがくが、お狐様はいつも以上に気分良さそうな顔をしていた。
それを見て、なんだか春樹は(あれ?)と疑問を抱いた。
思えば今日はなんだか押さえつける力も優しいし、口調も柔らかい気がした。
いやまあ普通が頑固で横暴なだけに、そう思うだけなのかもしれない、というのはあるけど。
けどだからって春樹の中で抵抗しないという訳には!!!
春樹が足を多少ばたつかせると、慣れた手つきでお狐様は更に深くまで春樹の足を抱き上げた。
すると抵抗する足の力が上手く入らなくなり、いとも簡単に動けぬようにされてしまったのだった。
(あ、やられた…)
春樹が絶望的な顔をすると、お狐様はその顔を見ることも無く、前を見ながら口を開いた。
「はぁ、…お前は本当に可愛いな。今日のように素直に笑うお前も良いが、やはり反抗するいつものお前の反応が良い。」
「はい?」
「お前は私を自然に煽るからな。」
「は、はい!?」
(煽ってるつもり1ミリもないんですけど!?てかそれお狐様がいつも変なこと考えてるからじゃーーーーー!)
「というわけだから、今日は1日の喜びをしっかりとお前の身体に教えこんでやるとしよう。ちゃんと覚悟は出来ているな?」
「え、ちょ…お狐様?体に教えこむとはそのぉ…」
「なんだ?春樹のことだから分かっているだろう。帰ったら思う存分部屋で…」
その瞬間いつもされてきた数々のセクハラ行為を思い出して、春樹は顔に湯気が上がるかのような勢いで体を真っ赤にすると、叫んだ。
「ちょ!!!まっ…それはダメです!!!何考えてるんですか!帰ったらおばあちゃんがいるんですよ?!」
(いくらなんでもそれは!!それは!!!)
春樹はそう言って焦り出すが、お狐様は至って冷静な面持ちのままだった。
「ああ、その事についてだがーーーーー実は30分程前にヒメゴに家の様子を見てもらっていてな。すると、お前の祖母はぐっすりと眠っていたそうだ。名を読んでみても目覚めないほどには。」
「へ…?ひ、ヒメゴに…」
(てか、僕の知らない間になんちゅーことをさせて…)
「だからお前が声を我慢すれば、お前の祖母がいようが、いくらでもできるはずなのだがな…?ああ、それとも気持ちよすぎて我慢できないからそれが不安なのか?」
「は、はぁ!???んなこと誰も!」
「なら、できるな?先に言っておくが、抵抗をすればするほど、私の手加減は効かなくなるからな。抵抗して泣き喚いても知らぬぞ。」
「ちょっお狐様!そ、それマジですか!?で、でも僕はこの夏祭りの余韻を浸りながら眠りたくてーーー!」
「私と愛し合って寝る事に、これ以上の至福などあるか?まあ、あるというのならまたーーーーー」
「にゃ、にゃいです!」
「よろしい。それでは、朝まで楽しませてもらうとしようか。」
(ぁぁぁあ!!結局最後にはこれかぁあ!!!!!)
でもーーーーー実際のところ今日は本当に楽しかったし、新鮮な1日だった。
お狐様が楽しそうにしている様子も近くで見れたし、遊んでる時もなんだか可愛くて、いつものお狐様みたいな感じじゃないなって思った。
それに両親には会えると、目を真っ直ぐ見て言ってくれたから、何故かその時に本当に安心したんだ。
だからお母さんとお父さんに今日のことを言って、安心してもらおうと思うんだ。
そしたらきっと、両親も心の中で会いに来てくれるよね。
そして、いい神様がついてもらえてよかったねってあの時みたいに笑ってくれると思うからーーーーー
なんだかちょっと今日は、お狐様に素直になってみるのも悪くない、なんて春樹はそう思ったのだった。
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