10 / 25
第1章
お狐様をお誘い
しおりを挟む
あれから日は過ぎ8月に入ると、いよいよ本格的な夏休みが始まった。
だが春樹は皆がワイワイとしている頃、一人畳の部屋で気を落ち着かせると、またしても宿題へと立ち向かっていた。
というのも、七月後半はあの変態狐様の我儘のせいで宿題をやるどころではなかったからだ。
(ったくもー!あの野郎…折角の夏休みなのに変な薬飲ませたりセクハラしたり今まで以上に自由にしやがって…)
「ぜってー今日中に宿題終わらせて遊びまくってやる!!」
しかし、春樹が声に出して意気込んだと同時にボワンというあの不穏な音が流れると、またしてもいつものように奴は現れた。
「春樹、一体一人で何を喚いている。」
「お、お狐様!!!も、もう仕事終わったんですか!?」
春樹はお狐様の姿を見ると息付く暇もなく慌てて宿題を片づける。
よくこうして宿題を机に放置していると、勝手に漁られるのだ。(ここもまたお狐様に対して文句を言いたいポイントである)
「ああ、終わらせた。それよりも春樹、ずっと家に引きこもっていて私が来なくて嘸かし寂しかったろう?」
「いやーあのー今こちらは手が空いてなくてですねぇ」
「暇そうにしていたではないか。机に向き直って独り言を吐けるほどには。」
「うっ…でもお狐様!今僕はとても大変なんです!!今回ばかりはそういう流れにはいきませんから!」
「そういう流れとはなんだ。」
「え、だ、だからいつものように変なことをするってーーーーーっておい!!!」
春樹がそういうも間もなく、お狐様は慣れた手つきで春樹の服を捲り上げると胸辺りを触る。
「ちょっ…お狐様!僕はっ…夏休みの課題をしないとなんです!」
「課題?そんなの、後回しでいいだろう。」
「期間があるんですっ」
「ほう?それは私と交した条件よりも大切なものか?」
お狐様はニヤリと口角を上げると、春樹の喉元をぺろんと舐めた。
「あっちょ…まってっ…」
「待たない。春樹が何よりも大切なのは私との契約だろう?」
「うっ…は、はぁっ…」
(く、くそぉ…でもここで課題の方が大切だとか言うとまた変な薬仕込まれたりすると困るしっ…やっぱここは我慢しかーーーーー)
ーーーーーしかしその時だった。
ピンポーン!!!
珍しくインターフォンが鳴った。
祖母は勿論玄関の鍵を持っているから鳴らすことはないと知っていたので、その途端春樹はビクンと体を震わせた。
「なんだ?」
「え、あ…えっと、おうちにお客さんが来たかもです…」
「ほう。」
「なので出ないと待たせてしまうかもっ……」
「そうか。」
「はい。」
「それは良かったな。」
「はい…?」
「わからないのか?そんな奴などいつまでも待たせておけばいい。」
「あー…ーーーーーってそんなこと出来るわけないでしょうが!!」
春樹はいつまでもセクハラしてこようとする(そんな言い方をしたら殺されそうだけど)お狐様に座布団を投げつけ、急いで玄関に向かった。
それにしても夏休みに入ったこの8月になんの用事だろう?
そう思って玄関の丸窓を覗くと、そこにはクラスで最近よく話すようになった女子ーーーーー有山優美が立っていた。
クラスの方ではかなりきゃぴきゃぴしている系の女子でフレンドリーで春樹とは真反対の性格だと誰もが言うが、学校の展覧会行事で仲良くなったのがきっかけで3ヶ月ほど前からノートを貸し借りしたり、本を貸したりするまでになったのだ。
でもそれでもまだ家に来るほどの仲では無いから、一体なんの用事なのか。
ちょっと可愛い子だし嬉しいかもーーーーーと思いつつ、春樹が玄関から出ると、優美は「あっ、宮一くんっ」と言ってから少し目線を逸らした。
「どうしたの?」
「ご、ごめんね!あ、あの…この前の本返すの忘れちゃって…春樹くんの仲良い子から家聞いて意外に近かったから来ちゃった。」
「ああー!!そういえば忘れてた。こちらこそごめんね!」
「いやいや、私が忘れてたの。この本凄く面白かった!!」
「それは良かった!最後のとこ意味わかった?」
「うんうん!!あれって犯人Aは実は眠ってただけなんでしょ?!ほんっと深いよね!」
「あ、そうそう!ていうか凄いね。僕は最後まで読んでもなかなかわからなくてさ」
「確かに考え方変えないと理解追いつけないよね。でも、第二章から割とヒントが隠されてたかも!なかなか難しかったけど借りてよかった!」
優美はそう言うと春樹に借りていたミステリー小説を返した。
しかしその時、本とは他に、お菓子のようなものが入った紙袋が渡された。
春樹が「え?」と声を上げると、優美は少し照れ笑いをしてから応えた。
「あ、あとこれ…お友達に焼いたクッキー余っちゃったからあげるっ…」
「えっ、いいの!?」
「うんっ!バニラ味とチョコ味があるから…良かったら家族と食べて!…嫌かな?」
「え、い、嫌なんてことないよ!むしろ、ありがとう!」
「あはは、良かったぁー!じゃあ、帰るね!!!突然きてごめんっ」
優美はそう言うと、足早に玄関から出ていった。
その後バタンとドアが閉められると、春樹は返された本とそのお菓子の入れ物を見つめて、何故かニヤけそうになってしまった。
女の子がわざわざ家まで返しに来てくれるなんて言うのは初めてだし、こんなふうに感想を言い合うだなんて言うことが単純になんだか嬉しかったというのもあるがそれよりも…
(女の子からクッキーを貰う日が来るなんてっ…)
それが何よりも嬉しいことだった。
それに今の春樹と言えばあの変なやつに取り憑かれて恋愛運がだだ下がりになってきているのだ。
だからこそこれはとんでもない展開だーーーーー
と春樹が思っていると、横からズケズケとあいつは現れる。
「ほぉ、そのぐらいでそんな顔をするとは。お前もまだまだお子様だな。それはなんだ?渡せ。」
「なっっ何目線ですか!!こ、これはダメです!てか、嬉しかったんだから別にいいじゃないですか…」
春樹がそう反抗しつつも悪くない表情を浮かべると、突然横からガシッと顔を摘まれ、お菓子も取られてしまった。
「な、なんですかお狐様っ…そのお菓子はお狐様の嫌いな甘いものですよ!!ていうかまさかこれぐらいのことでも嫉妬を…」
「この私がいるというのに随分と愉快そうな顔を他人に対して浮かべるのだなぁと思ってなぁ?」
「うっ…そ、そんな訳ありませんケド…」
「なぜ目をそらす?」
(あ、やべぇこの人嫉妬させるとめんどくさいんだ…くそ)
「そ、そんなわけないですから!」
「ほう。まあ、お前は既にわかっているだろうが、私にまた同じような思いをさせないようにだけ気をつけるのだな。どんなにその学校生活とやらが楽しくなろうが、このお菓子とやらを女子から貰っていい気になろうが。」
「そ、それはっ…!ていうか別に僕は恋愛とかそういうのしたくて学校通ってるわけじゃないしっ!そうやってすぐ勘違いするお狐様の方がどうかと思いますけど!?」
春樹が強気で言うとお狐様はさも当たり前かのように頷く。
こういうとこ、本当にムカッとするけど言い返せない。
「そうだろうな。恋愛などという上辺のお遊びのようなことをするより、私のように芯からお前を愛し尽くしている相手でなければ、お前の相手など到底出来ないだろうからな。」
(はあ、まぁたこの変態狐はぁ…!愛し尽くしてるとか意味わからないことをベラベラと…!)
「ーーーーーさあ、春樹。さっきの続きでもしようか。もっと私を楽しませる約束だろう?」
「んにゃっ!?そんな約束してませんよっ!?てか突然持ち上げるな!」
(ああていうか、宿題!僕は宿題しないとなんですけど!?このままじゃ、また同じ展開になってしまうーーーーー!……あ!そうだ!)
「あ、ああ!そういえばお狐様!!」
春樹はお狐様に持ち上げられ、布団に押し倒されるのと同時に声をあげた。
「なんだ?」
「な、夏祭りっていうの、ご存知です?この付近で五日後にあるんですよ!」
「ああ……知っているが。」
「ええ!そうなんですか?!」
(お狐様でも知ってるんだ!)
「当たり前だ。神の聖域を前にしてどんちゃん騒ぎなどされては困るからな。毎年見張りのようなことをしている。」
「そうなんですね。じゃあお狐様はお祭りで遊んだことは無いんですか?」
「遊び?あれでどう遊べと言う。ただ宴をするのでは無いのか。」
お狐様はこの話に乗ったのか、体制を元に戻した。
どうやら作戦が上手くいったようだ。
(よし、これで起きあがれるっ)
春樹は何気なく起き上がって体制を立て直すと、「遊びって言うのはー」と屋台の説明を一個一個し始めた。
「ほう。それには何か褒美があるのか?」
「その瞬間を楽しむためのゲームみたいなものだから褒美っていうか、んー…あれかな?そのゲームで得点を稼げたら景品が貰える、みたいな。」
「ほう。………悪くない。」
「う、うん!楽しそうですよね!?」
「ああ、…楽しそうかはわからないが、お前の気持ちはよくわかった。」
「え?」
「春樹、私とその夏祭りに行きたいのだろう?」
「は、はい…?え?」
「そうならば行きたいと素直にいえばいいものの、先程から何を遠回しに言っている。」
「なっっ!!ぼ、僕はただ夏祭り知ってるのかなーって話を振っただけで!ていうかお狐様見張りなら回ってられないでしょう?!」
「そんなことは無い。勿論、お前となら夏祭りとやらに人間のふりをして回るのも良いと思っていた。見張り役などヒメゴに任せればいい事だしな。まあ既に言ったが。」
「言ったんです!?」
(そ、それをするとあとからヒメゴに文句言われるの僕なんですが…!!…でも…)
それじゃあお狐様は僕と行くというのを密かに考えてたけどあえて僕が話すまで言わなかったってことなのかな?
(ーーーーーなんだお狐様、可愛いとこあるじゃん)
「よし、それなら五日後準備をしておけ。他の用事を入れることは許さない。私もその仕事を完全に空けてやるとしよう。」
「え、本当に決行なんです!?」
「当たり前だ。それとも今更そんなことは出来ないとでも言うつもりか?」
「い、言いません…」
「ふむ、それでいい。それでは私にも色々話さなければならないことがあるからな、今から話に行ってくる。」
「え?」
お狐様はそう言うと、いつも以上にやる気に充ちたお顔で素早く霧の中に紛れ戻っていってしまった。
(あ、本当に変なことされずに済んだ…けど…)
その代わりお狐様と夏祭りに行くことになってしまった…のか!?
(お狐様まじで夏祭り楽しみにしてるみたいだけど大丈夫かな?あとから考えたらあんな人混みをお狐様と歩くって色々やばそうだよな。上手く化けてくれてるならいいけど……)
五日後の夏祭りは長い歴史を誇る大規模な夏祭りで、八雲目神社から大通りの方まで屋台が続いていくような形になり、ここの近辺の人殆どがやってくる。
そして途中にある橋の下から河川敷に繋がっており天気が良ければ花火も上がる程の規模なのだ。
今まで夏祭りなんてあまり出向かなかったし、おばあちゃんも家のベランダで見る花火の方が疲れなくていいーーーーーなんて言っていたからあえて行かなかったけれど、春樹もこれを機に行きたいなんて、思えてきてしまった。
(相談したらいいよって言ってくれるかな。)
春樹は祖母が帰ってきたらすぐに相談しようーーーーーそう決めたのだった。
だが春樹は皆がワイワイとしている頃、一人畳の部屋で気を落ち着かせると、またしても宿題へと立ち向かっていた。
というのも、七月後半はあの変態狐様の我儘のせいで宿題をやるどころではなかったからだ。
(ったくもー!あの野郎…折角の夏休みなのに変な薬飲ませたりセクハラしたり今まで以上に自由にしやがって…)
「ぜってー今日中に宿題終わらせて遊びまくってやる!!」
しかし、春樹が声に出して意気込んだと同時にボワンというあの不穏な音が流れると、またしてもいつものように奴は現れた。
「春樹、一体一人で何を喚いている。」
「お、お狐様!!!も、もう仕事終わったんですか!?」
春樹はお狐様の姿を見ると息付く暇もなく慌てて宿題を片づける。
よくこうして宿題を机に放置していると、勝手に漁られるのだ。(ここもまたお狐様に対して文句を言いたいポイントである)
「ああ、終わらせた。それよりも春樹、ずっと家に引きこもっていて私が来なくて嘸かし寂しかったろう?」
「いやーあのー今こちらは手が空いてなくてですねぇ」
「暇そうにしていたではないか。机に向き直って独り言を吐けるほどには。」
「うっ…でもお狐様!今僕はとても大変なんです!!今回ばかりはそういう流れにはいきませんから!」
「そういう流れとはなんだ。」
「え、だ、だからいつものように変なことをするってーーーーーっておい!!!」
春樹がそういうも間もなく、お狐様は慣れた手つきで春樹の服を捲り上げると胸辺りを触る。
「ちょっ…お狐様!僕はっ…夏休みの課題をしないとなんです!」
「課題?そんなの、後回しでいいだろう。」
「期間があるんですっ」
「ほう?それは私と交した条件よりも大切なものか?」
お狐様はニヤリと口角を上げると、春樹の喉元をぺろんと舐めた。
「あっちょ…まってっ…」
「待たない。春樹が何よりも大切なのは私との契約だろう?」
「うっ…は、はぁっ…」
(く、くそぉ…でもここで課題の方が大切だとか言うとまた変な薬仕込まれたりすると困るしっ…やっぱここは我慢しかーーーーー)
ーーーーーしかしその時だった。
ピンポーン!!!
珍しくインターフォンが鳴った。
祖母は勿論玄関の鍵を持っているから鳴らすことはないと知っていたので、その途端春樹はビクンと体を震わせた。
「なんだ?」
「え、あ…えっと、おうちにお客さんが来たかもです…」
「ほう。」
「なので出ないと待たせてしまうかもっ……」
「そうか。」
「はい。」
「それは良かったな。」
「はい…?」
「わからないのか?そんな奴などいつまでも待たせておけばいい。」
「あー…ーーーーーってそんなこと出来るわけないでしょうが!!」
春樹はいつまでもセクハラしてこようとする(そんな言い方をしたら殺されそうだけど)お狐様に座布団を投げつけ、急いで玄関に向かった。
それにしても夏休みに入ったこの8月になんの用事だろう?
そう思って玄関の丸窓を覗くと、そこにはクラスで最近よく話すようになった女子ーーーーー有山優美が立っていた。
クラスの方ではかなりきゃぴきゃぴしている系の女子でフレンドリーで春樹とは真反対の性格だと誰もが言うが、学校の展覧会行事で仲良くなったのがきっかけで3ヶ月ほど前からノートを貸し借りしたり、本を貸したりするまでになったのだ。
でもそれでもまだ家に来るほどの仲では無いから、一体なんの用事なのか。
ちょっと可愛い子だし嬉しいかもーーーーーと思いつつ、春樹が玄関から出ると、優美は「あっ、宮一くんっ」と言ってから少し目線を逸らした。
「どうしたの?」
「ご、ごめんね!あ、あの…この前の本返すの忘れちゃって…春樹くんの仲良い子から家聞いて意外に近かったから来ちゃった。」
「ああー!!そういえば忘れてた。こちらこそごめんね!」
「いやいや、私が忘れてたの。この本凄く面白かった!!」
「それは良かった!最後のとこ意味わかった?」
「うんうん!!あれって犯人Aは実は眠ってただけなんでしょ?!ほんっと深いよね!」
「あ、そうそう!ていうか凄いね。僕は最後まで読んでもなかなかわからなくてさ」
「確かに考え方変えないと理解追いつけないよね。でも、第二章から割とヒントが隠されてたかも!なかなか難しかったけど借りてよかった!」
優美はそう言うと春樹に借りていたミステリー小説を返した。
しかしその時、本とは他に、お菓子のようなものが入った紙袋が渡された。
春樹が「え?」と声を上げると、優美は少し照れ笑いをしてから応えた。
「あ、あとこれ…お友達に焼いたクッキー余っちゃったからあげるっ…」
「えっ、いいの!?」
「うんっ!バニラ味とチョコ味があるから…良かったら家族と食べて!…嫌かな?」
「え、い、嫌なんてことないよ!むしろ、ありがとう!」
「あはは、良かったぁー!じゃあ、帰るね!!!突然きてごめんっ」
優美はそう言うと、足早に玄関から出ていった。
その後バタンとドアが閉められると、春樹は返された本とそのお菓子の入れ物を見つめて、何故かニヤけそうになってしまった。
女の子がわざわざ家まで返しに来てくれるなんて言うのは初めてだし、こんなふうに感想を言い合うだなんて言うことが単純になんだか嬉しかったというのもあるがそれよりも…
(女の子からクッキーを貰う日が来るなんてっ…)
それが何よりも嬉しいことだった。
それに今の春樹と言えばあの変なやつに取り憑かれて恋愛運がだだ下がりになってきているのだ。
だからこそこれはとんでもない展開だーーーーー
と春樹が思っていると、横からズケズケとあいつは現れる。
「ほぉ、そのぐらいでそんな顔をするとは。お前もまだまだお子様だな。それはなんだ?渡せ。」
「なっっ何目線ですか!!こ、これはダメです!てか、嬉しかったんだから別にいいじゃないですか…」
春樹がそう反抗しつつも悪くない表情を浮かべると、突然横からガシッと顔を摘まれ、お菓子も取られてしまった。
「な、なんですかお狐様っ…そのお菓子はお狐様の嫌いな甘いものですよ!!ていうかまさかこれぐらいのことでも嫉妬を…」
「この私がいるというのに随分と愉快そうな顔を他人に対して浮かべるのだなぁと思ってなぁ?」
「うっ…そ、そんな訳ありませんケド…」
「なぜ目をそらす?」
(あ、やべぇこの人嫉妬させるとめんどくさいんだ…くそ)
「そ、そんなわけないですから!」
「ほう。まあ、お前は既にわかっているだろうが、私にまた同じような思いをさせないようにだけ気をつけるのだな。どんなにその学校生活とやらが楽しくなろうが、このお菓子とやらを女子から貰っていい気になろうが。」
「そ、それはっ…!ていうか別に僕は恋愛とかそういうのしたくて学校通ってるわけじゃないしっ!そうやってすぐ勘違いするお狐様の方がどうかと思いますけど!?」
春樹が強気で言うとお狐様はさも当たり前かのように頷く。
こういうとこ、本当にムカッとするけど言い返せない。
「そうだろうな。恋愛などという上辺のお遊びのようなことをするより、私のように芯からお前を愛し尽くしている相手でなければ、お前の相手など到底出来ないだろうからな。」
(はあ、まぁたこの変態狐はぁ…!愛し尽くしてるとか意味わからないことをベラベラと…!)
「ーーーーーさあ、春樹。さっきの続きでもしようか。もっと私を楽しませる約束だろう?」
「んにゃっ!?そんな約束してませんよっ!?てか突然持ち上げるな!」
(ああていうか、宿題!僕は宿題しないとなんですけど!?このままじゃ、また同じ展開になってしまうーーーーー!……あ!そうだ!)
「あ、ああ!そういえばお狐様!!」
春樹はお狐様に持ち上げられ、布団に押し倒されるのと同時に声をあげた。
「なんだ?」
「な、夏祭りっていうの、ご存知です?この付近で五日後にあるんですよ!」
「ああ……知っているが。」
「ええ!そうなんですか?!」
(お狐様でも知ってるんだ!)
「当たり前だ。神の聖域を前にしてどんちゃん騒ぎなどされては困るからな。毎年見張りのようなことをしている。」
「そうなんですね。じゃあお狐様はお祭りで遊んだことは無いんですか?」
「遊び?あれでどう遊べと言う。ただ宴をするのでは無いのか。」
お狐様はこの話に乗ったのか、体制を元に戻した。
どうやら作戦が上手くいったようだ。
(よし、これで起きあがれるっ)
春樹は何気なく起き上がって体制を立て直すと、「遊びって言うのはー」と屋台の説明を一個一個し始めた。
「ほう。それには何か褒美があるのか?」
「その瞬間を楽しむためのゲームみたいなものだから褒美っていうか、んー…あれかな?そのゲームで得点を稼げたら景品が貰える、みたいな。」
「ほう。………悪くない。」
「う、うん!楽しそうですよね!?」
「ああ、…楽しそうかはわからないが、お前の気持ちはよくわかった。」
「え?」
「春樹、私とその夏祭りに行きたいのだろう?」
「は、はい…?え?」
「そうならば行きたいと素直にいえばいいものの、先程から何を遠回しに言っている。」
「なっっ!!ぼ、僕はただ夏祭り知ってるのかなーって話を振っただけで!ていうかお狐様見張りなら回ってられないでしょう?!」
「そんなことは無い。勿論、お前となら夏祭りとやらに人間のふりをして回るのも良いと思っていた。見張り役などヒメゴに任せればいい事だしな。まあ既に言ったが。」
「言ったんです!?」
(そ、それをするとあとからヒメゴに文句言われるの僕なんですが…!!…でも…)
それじゃあお狐様は僕と行くというのを密かに考えてたけどあえて僕が話すまで言わなかったってことなのかな?
(ーーーーーなんだお狐様、可愛いとこあるじゃん)
「よし、それなら五日後準備をしておけ。他の用事を入れることは許さない。私もその仕事を完全に空けてやるとしよう。」
「え、本当に決行なんです!?」
「当たり前だ。それとも今更そんなことは出来ないとでも言うつもりか?」
「い、言いません…」
「ふむ、それでいい。それでは私にも色々話さなければならないことがあるからな、今から話に行ってくる。」
「え?」
お狐様はそう言うと、いつも以上にやる気に充ちたお顔で素早く霧の中に紛れ戻っていってしまった。
(あ、本当に変なことされずに済んだ…けど…)
その代わりお狐様と夏祭りに行くことになってしまった…のか!?
(お狐様まじで夏祭り楽しみにしてるみたいだけど大丈夫かな?あとから考えたらあんな人混みをお狐様と歩くって色々やばそうだよな。上手く化けてくれてるならいいけど……)
五日後の夏祭りは長い歴史を誇る大規模な夏祭りで、八雲目神社から大通りの方まで屋台が続いていくような形になり、ここの近辺の人殆どがやってくる。
そして途中にある橋の下から河川敷に繋がっており天気が良ければ花火も上がる程の規模なのだ。
今まで夏祭りなんてあまり出向かなかったし、おばあちゃんも家のベランダで見る花火の方が疲れなくていいーーーーーなんて言っていたからあえて行かなかったけれど、春樹もこれを機に行きたいなんて、思えてきてしまった。
(相談したらいいよって言ってくれるかな。)
春樹は祖母が帰ってきたらすぐに相談しようーーーーーそう決めたのだった。
0
お気に入りに追加
79
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる