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第23章(1)マオside

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数日後ーー。


「……では。次ですが、皆さんにこちらを試飲して頂きたいと思います」

ハンク様の会社の会議室。
この日はホテルでお客様に提供する様々な新商品についての話し合いだった。
進行者がそう言うと、長机に座って会議に参加している全員にグラスに入った飲料が配られる。
綺麗な赤紫色の中身からは、僕の苦手な香り。これは、間違いなく……。

「交渉した結果、こちらのワインをついに我がホテルでも提供出来るようになりました!皆様、どうぞお試し下さい」

"やっぱり"と憂鬱になる僕の気持ちとは反対に、ハンク様は席を立つと嬉しそうかつ自慢げにみんなに告げた。
世界中で有名なそのワインに、周りの反応も上々。みんな香りを楽しんだり、口に含んだりしながら感想を言い合っている。
でも、僕はグラスに手を伸ばす事も出来ずに、ただじっとテーブルに置かれている赤紫色の液体を見つめて葛藤していた。

これを周りに合わせて美味しそうに飲むなんて出来そうにない。香りがこれ以上近くで匂うだけで酔って頭がクラクラしそうだった。
けど、……。


「どうしたんだね、マオ君。早く飲みなさい。
みんな、君の感想も楽しみにしているんだよ?」

「っ……、はい。頂きます」

ハンク様に促されて、僕は覚悟を決めた。
僕はミネアさんの代わりに、義理の息子として役に立たなくてはいけない。
僕がもっともっと役に立てる存在になれば、きっとハンク様はまたミネアさんに優しくしてくれる。産まれてくる子供の事も、可愛いと感じてくれるかも知れない。

考えた末、それが今の僕に出来る事だった。
だっていくら"何故?"と疑問に感じても、僕には答えが出ないんだ。
この人が嫌い、とか。この人が憎い、とか……。
そう感じられたら楽なのかも知れないのに、やっぱり"愛してほしい"って、僕は願ってしまうんだ。

自分がそう思うのをやめたら、諦めた瞬間に全部全部砕け散ってしまう気がして……。みんなが仲良く出来る為のキッカケの欠片カケラを自分が集めて、奇跡という形に出来たらな、って思ってた。

みんなが微笑える、明るい未来の為に……。
ただ、それだけの為に。そう信じて、いた。
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