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第5章(5)ローザside
5-4
しおりを挟む結局。
私は不覚にも楽しんでしまい、夕方まで付き合ってしまった。
こんな筈じゃなかったのに……。
心の中で溜め息を吐く私。
でも、本当に楽しかった。
無理矢理ではなく、偽りでもなく、私はいつの間にかアルバート様の前で微笑っていた。
すると、夕陽が射し込む広間で歩みを止めて、アルバート様が言った。
「この別荘はね。
妻が生前語っていた、夢の形なんだ」
「……」
優しい瞳に見つめられて、言葉が出なかった。
私達を包む雰囲気が変わり、一瞬で悟る。
あ、私は今フラれたのだと……。
この人は今でも、亡くなった奥様を愛しているのだと……。
それを言う為に、お見合いを断る為に、私をここへ誘ったのだと分かった。
勿論、私も断るつもりだったお見合い。
と言うか、めちゃくちゃにする予定だったお見合い。
だから、相手からフッてくれて良かったのだと思う。
醜態を晒し、自分の人生を棒に振り、両親の顔に泥を塗る事も、周りに迷惑をかける事もなく、私は冷静になる事が出来た。
馬鹿な人生に踏み外す事も、なくなった。
けれど……。
「何故私を、ここへ連れて来たんですか?
断るつもりなら、お見合い話が出た時に断れば良かったでしょう?」
気付いたら、私はそう尋ねていた。
多分私は、ショックだったんだ。
恋と呼べる感情ではないけれど、今日アルバート様が私に与えてくれた”優しさ”が亡き奥様への想いだと言う事が……。
そして、自分の親や親戚やアルバート様。
周りの大人達に転がされて、思惑通りにされてしまう自分にも、嫌気がさした。
結局大人達に振り回されて、私の想いなんて消されてしまうんだ。
哀しくて悔しくて。
絶望しかかった私に、アルバート様が答える。
「娘が産まれたら、”ローザ”と名付けたい。
それが妻の、もう一つの夢だった」
「!……え?」
「初めは、見合いなど断るつもりだった。
……だが。君の名前を聞いて、会いたいと思った。
他人事には思えず、勝手に運命を感じてしまったんだ」
そう言って、アルバート様は微笑った。
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