78 / 163
第5章(2)アカリside
2-2
しおりを挟む
【港街】
雨は、なかなか止みそうにない。
パン屋さんに駆け込んできた彼は、雨に濡れていた。
傘を持って、いなかったのだろうか?
さっきよりも強くなっている雨。
あんな小さなハンカチでは、もう拭いきれないはずだ。
風邪をひいたり、しないだろうか?
……。
何も考えたくない。
もう、気にしたくなんてないのに……考えてしまう。
ゆっくりと帰路を進む私の頭の中には、ヴァロンの事ばかりが浮かぶ。
きっとまだ、この街の何処かに居るであろう彼。
「っ……あの人は、もうヴァロンじゃないの」
小さく呟いて、言葉にして自分に言いきかせた。
ヴァロンはあんなにオドオドした人じゃない。
飲み物はほとんどお水しか飲まなくて、ホットミルクなんてお店で注文する人じゃなかった。
それから……。
それからっ……。
必死に”マオ”の存在を否定しようと、以前の彼とは違うところを思い浮かべた。
……でも。
嫌いになれるはずなんて、ない。
幼い頃に出逢った彼。
召し使いとして、再会した彼。
夢の配達人としての彼。
恋人、夫としての彼に幾度となく惹かれたように……。
私は、また彼に恋をしてしまうの。
……。
曲がり角に差し掛かった私の瞳に映るのは、少し離れた軒下の片隅で屈んでいる男性。
男性は背を向けているのに、私には分かってしまうの。
どうして、見付けてしまうんだろう?
そう思うと同時に、”見付けた”と胸が暖かい鼓動をトクンッと鳴らした。
これ以上、距離も心も近付いてはいけないと思うのに……。
私の足は、自然と彼の方に向かって歩み出していた。
傘の持ち手を握る手に、力が入る。
彼の背から瞳を逸らす事が出来ず、一歩一歩その距離を縮めて行くと彼の声が聞こえた。
雨は、なかなか止みそうにない。
パン屋さんに駆け込んできた彼は、雨に濡れていた。
傘を持って、いなかったのだろうか?
さっきよりも強くなっている雨。
あんな小さなハンカチでは、もう拭いきれないはずだ。
風邪をひいたり、しないだろうか?
……。
何も考えたくない。
もう、気にしたくなんてないのに……考えてしまう。
ゆっくりと帰路を進む私の頭の中には、ヴァロンの事ばかりが浮かぶ。
きっとまだ、この街の何処かに居るであろう彼。
「っ……あの人は、もうヴァロンじゃないの」
小さく呟いて、言葉にして自分に言いきかせた。
ヴァロンはあんなにオドオドした人じゃない。
飲み物はほとんどお水しか飲まなくて、ホットミルクなんてお店で注文する人じゃなかった。
それから……。
それからっ……。
必死に”マオ”の存在を否定しようと、以前の彼とは違うところを思い浮かべた。
……でも。
嫌いになれるはずなんて、ない。
幼い頃に出逢った彼。
召し使いとして、再会した彼。
夢の配達人としての彼。
恋人、夫としての彼に幾度となく惹かれたように……。
私は、また彼に恋をしてしまうの。
……。
曲がり角に差し掛かった私の瞳に映るのは、少し離れた軒下の片隅で屈んでいる男性。
男性は背を向けているのに、私には分かってしまうの。
どうして、見付けてしまうんだろう?
そう思うと同時に、”見付けた”と胸が暖かい鼓動をトクンッと鳴らした。
これ以上、距離も心も近付いてはいけないと思うのに……。
私の足は、自然と彼の方に向かって歩み出していた。
傘の持ち手を握る手に、力が入る。
彼の背から瞳を逸らす事が出来ず、一歩一歩その距離を縮めて行くと彼の声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる