48 / 163
第4章(2)アカリside
2-1
しおりを挟む
【港街/広場】
ヴァロンだと思った。
でも。目の前の男性はなかなか言葉が出てこない私に首を傾げていて、ふと自分の眼鏡が足元に落ちている事に気が付くと、拾って状態を確認していた。
そのそっけない仕草や表情を見ていると、自分の直感がだんだんと間違いだったのかと心が揺れる。
「ま~ま……」
「!……あ、ヒカル。っ……。
お、お兄さんに”ごめんなさい”……して?」
半信半疑で動揺していた。
が、”もし人違いならばとりあえず謝らなければ”という気持ちが働いた私は、申し訳なさそうに歩み寄ってきたヒカルに謝るよう促す。
「にーちゃ、ごめちゃい……」
「っ……本当に、ごめんなさい。
眼鏡、弁償しますからっ……」
ヒカルと一緒に頭を下げて壊れた眼鏡を受け取ろうと手を伸ばすと、男性は眼鏡を持つ手を引っ込めて首を横に振った。
揺れる少し長い前髪の隙間から覗く瞳が、優しい光を放っていて……。また、私の胸をドキンッと弾ませる。
「いえ、大丈夫です。
僕もボーッとしていたので、お互い様ですよ。
……ちゃんと謝れて、偉いね?」
男性はヒカルの目線に合わせて屈むと、大きな手で頭をポンポンと優しく撫でた。
その様子に、私は分からなくなる。
私達に、気付いていないの?
そう心の中で問いかける。
何か事情があって、他人のフリをしている?
ヴァロンが夢の配達人だった頃なら充分にあり得たが、今の状況や境遇でまでそんな事を貫くほど薄情な心の持ち主ではない事くらい分かっている。
ならば、一体なぜ?
この男性の傍にいて高鳴る私の鼓動は、間違いなのだろうか?
そう思えば、ヴァロンと目の前の男性はとても似ているが違うところもあった。
その場にいるだけで変装していても存在感が溢れ出るようだった以前の彼に比べて、目の前の男性はどこか頼りなさ気というかおっとりしているというか……。悪く言えば、ボーッとしている人に等しい。
ヴァロンだと思った。
でも。目の前の男性はなかなか言葉が出てこない私に首を傾げていて、ふと自分の眼鏡が足元に落ちている事に気が付くと、拾って状態を確認していた。
そのそっけない仕草や表情を見ていると、自分の直感がだんだんと間違いだったのかと心が揺れる。
「ま~ま……」
「!……あ、ヒカル。っ……。
お、お兄さんに”ごめんなさい”……して?」
半信半疑で動揺していた。
が、”もし人違いならばとりあえず謝らなければ”という気持ちが働いた私は、申し訳なさそうに歩み寄ってきたヒカルに謝るよう促す。
「にーちゃ、ごめちゃい……」
「っ……本当に、ごめんなさい。
眼鏡、弁償しますからっ……」
ヒカルと一緒に頭を下げて壊れた眼鏡を受け取ろうと手を伸ばすと、男性は眼鏡を持つ手を引っ込めて首を横に振った。
揺れる少し長い前髪の隙間から覗く瞳が、優しい光を放っていて……。また、私の胸をドキンッと弾ませる。
「いえ、大丈夫です。
僕もボーッとしていたので、お互い様ですよ。
……ちゃんと謝れて、偉いね?」
男性はヒカルの目線に合わせて屈むと、大きな手で頭をポンポンと優しく撫でた。
その様子に、私は分からなくなる。
私達に、気付いていないの?
そう心の中で問いかける。
何か事情があって、他人のフリをしている?
ヴァロンが夢の配達人だった頃なら充分にあり得たが、今の状況や境遇でまでそんな事を貫くほど薄情な心の持ち主ではない事くらい分かっている。
ならば、一体なぜ?
この男性の傍にいて高鳴る私の鼓動は、間違いなのだろうか?
そう思えば、ヴァロンと目の前の男性はとても似ているが違うところもあった。
その場にいるだけで変装していても存在感が溢れ出るようだった以前の彼に比べて、目の前の男性はどこか頼りなさ気というかおっとりしているというか……。悪く言えば、ボーッとしている人に等しい。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ハナノカオリ
桜庭かなめ
恋愛
女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。
そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。
しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。
絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。
女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。
※全話公開しました(2020.12.21)
※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。
※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。
※お気に入り登録や感想お待ちしています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる