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第1章(3)レイside
3-2
しおりを挟むボクの位置からだと、まず男性の顔はハッキリと見えた。
調査員の制服を着ているがあまり見た事ない顔だったので、おそらくはまだ新人の部類。
そんなまだ新人が恋にうつつをぬかし、似合わない壁ドンをして、神聖な職場で女性を口説いてる。
その光景を見て思わずハァ~ッと溜め息をつこうとした瞬間。
「いい加減にしてッ……!!」
と言う女性の怒鳴り声と同時に、パシンッ!!という音が廊下に響き渡った。
驚いて、もう一度目を向けると……。
ボクの存在には一切気付かず、絶えず女性を口説き続けていた男の手を引っ叩いて、俯いていた小柄な女性がキッと相手を睨み付けていた。
その様子にハッと息を呑む。
壁ドンをしていた男の手を叩き、睨み付けている女性の眼光。
横顔なのに、美しく強い。
そして、相手を奮い上がらせる威圧感。
その瞳は、ボクの憧れの人物。
ヴァロン様の眼差しによく似ていた。
ボクにはすぐにその女性が誰だか分かった。
ヴァロン様に似た女性は、間違いなくユイさん。
久々に見る彼女は、以前は左右二つに分けておさげにしていた長い黒髪を、バッサリ短く切ってショートカットにしていた。
そんな彼女の容姿に驚かされたのはもちろんだが、今はそれよりも……。
「迷惑だって言ってるのが分からないのッ!?
そんなに女を口説きたいなら、調査員辞めてホストにでもなればっ?
……ま、あんたみたいな男。どうせどこに行っても中途半端でしょうけどね!」
ユイさんはそう言い放つと、彼女の勢いに圧倒された男をフッと鼻で笑うようにして、奥のロッカールームに消えて行った。
ユイさんはすっかり変わっていた。
おっとりとして、ほんわかして、礼儀正しくて控え目な……。
そう、花のようだった彼女はもういない。
これが、ボクが耳にしていた悪い噂。
でも、噂ではなく事実なんだと実感した。
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