225 / 231
第10章(3)ジャナフside
3-3
しおりを挟む「ボクの本名はね、ジャナーフ・ジ・ドルゴア」
その一言に、ツバサが足を止めた。その気配にボクも足を止めて、振り返って言葉を続ける。
「ドルゴア王国の第四王子。君が今、レノアーノ様を護る為に勝負しているサリウス王子の弟なんだ」
「……」
「黙ってて、ごめんね」
「……」
苦笑いのような、中途半端な笑顔しか作れないボクを、ただただツバサは見つめていた。大好きな白金色に見つめられる事が、こんなに怖い日が来るとは思っていなかったよ。
でも、しっかりと見つめ返して伝える。
「初めは、何も知らなかった。
でも途中で、"まさか"って思って……確信に変わって……、……何度も、何度も、言おうと思った。……っ、でも…………」
けど、それでも言えなかった。
その理由はーー……。
「っ、ツバサに……嫌われるのが、怖かったんだッ」
そう、それが1番の理由だった。
兄の味方だからじゃない。
間者だと、疑われる事が嫌だったからじゃない。ただーー……。
「ツバサと一緒に居られなくなる事が、っ……嫌だったんだっ」
考えただけで、想像しただけで胸が痛くなった。
母さん以外の誰かに、自分がこんな感情になれる日が来るなんて思わなかった。
苦しい、想いを乗せた言葉と一緒に、堪えていた涙が溢れ落ちる。
世界はこんなに広いのに、母さんを失った瞬間から自分には何もなくなった。煌びやかな生活の中なのに、ボクの心に光を灯してくれるものなんて何もなかった。
優雅な生活も、広い部屋も、立派な服もいらない。ただ、語り掛けてくれて、微笑み掛けてくれて、寄り添ってくれる人が居ればそれだけでよかった。
ツバサの存在こそが、ボクの新たな光だったーー。
眩しいのに、自分を遠ざけるんじゃなくて、引き寄せて暖かく包んでくれるような優しい光。
居心地が良くて、もう少し、もう少し、って、欲が止まらなくなる程に、ボクは君を好きになった。嫌われたくないと思ってしまった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる