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第5章
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それは数日前。
今回の作戦の為に、私が砦へ発つ日の朝の事だ。
暫く会えないから少し二人きりでゆっくりしようと誘ってくれたクウォンと一緒に、近くの丘を散歩した時の事。
「これを、受け取ってほしい」
そう言ってクウォンが私に差し出してきたのは、紅い宝石の……。私の名前と同じ石、ガーネットのペンダントだった。
「きっと、お前を護ってくれる。俺だと思って着けていてほしい」
「ありがとう、クウォン」
私はペンダントを首に掛けてくれる彼を見上げながら、嬉しさのあまりに溢れた笑みを堪える事が出来ない。
”クウォン”ーー。
一年前は恥ずかしくて上手く呼べなかった名前も、最近ようやくすんなりと呼べるようになってきた。
私も少しずつ大人になって、クウォンの妻らしくなってきたかな?
そんな事を思っていると、彼の手が私の頬を優しく撫でる。
心地良い大きな手。その手に頬を擦り寄せるようにして見つめると、クウォンは何処か曇った表情を見せた。
「……。
本当は、お前を行かせたくない」
「……クウォン?」
珍しい。初めて見る、彼の表情。
寂しそうな、不安そうな、子供みたいな顔。
私の頬に触れている手が、微かに震えている気がした。
いつもは自信に満ち溢れたクウォンが、何かを恐れているように感じる。
「……大丈夫よ、クウォン」
私は安心させるように微笑み、彼の広い腕の中に飛び込んで目を閉じた。
「水の国と分かり合う事が出来たら……。この戦を無事に終わらせる事が出来たら、私はクウォンの正室になれるんだよ?」
……そう。
今回のこの戦は、炎の国と水の国。二つの国の事だけの問題じゃない。
私にとっても、大切な戦。
ううん、私とクウォンにとっても大切な事。
それは数日前。
今回の作戦の為に、私が砦へ発つ日の朝の事だ。
暫く会えないから少し二人きりでゆっくりしようと誘ってくれたクウォンと一緒に、近くの丘を散歩した時の事。
「これを、受け取ってほしい」
そう言ってクウォンが私に差し出してきたのは、紅い宝石の……。私の名前と同じ石、ガーネットのペンダントだった。
「きっと、お前を護ってくれる。俺だと思って着けていてほしい」
「ありがとう、クウォン」
私はペンダントを首に掛けてくれる彼を見上げながら、嬉しさのあまりに溢れた笑みを堪える事が出来ない。
”クウォン”ーー。
一年前は恥ずかしくて上手く呼べなかった名前も、最近ようやくすんなりと呼べるようになってきた。
私も少しずつ大人になって、クウォンの妻らしくなってきたかな?
そんな事を思っていると、彼の手が私の頬を優しく撫でる。
心地良い大きな手。その手に頬を擦り寄せるようにして見つめると、クウォンは何処か曇った表情を見せた。
「……。
本当は、お前を行かせたくない」
「……クウォン?」
珍しい。初めて見る、彼の表情。
寂しそうな、不安そうな、子供みたいな顔。
私の頬に触れている手が、微かに震えている気がした。
いつもは自信に満ち溢れたクウォンが、何かを恐れているように感じる。
「……大丈夫よ、クウォン」
私は安心させるように微笑み、彼の広い腕の中に飛び込んで目を閉じた。
「水の国と分かり合う事が出来たら……。この戦を無事に終わらせる事が出来たら、私はクウォンの正室になれるんだよ?」
……そう。
今回のこの戦は、炎の国と水の国。二つの国の事だけの問題じゃない。
私にとっても、大切な戦。
ううん、私とクウォンにとっても大切な事。
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