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第2章

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アルトさんもメル同様、子供の時からクー兄様に仕えて一緒に育ってきた幼馴染みであり、腹心の部下であり、親友。
私にも優しくしてくれる、優しいお兄さん。でも、…………。

風の国が、動き……だした?

アルトさんの伝令を聞いてクー兄様から笑顔が消える。私も伝令と二人の表情から、また戦が始まるのだと悟った。

「……分かった」

短く答えて座っていた地面からゆっくり立ち上がるクー兄様。私はそんなクー兄様の服を必死で掴んで見上げた。

「っ……また、行っちゃうの?」

不安な気持ちが込み上げてくる。
戦は、嫌い。怖くて、悲しくて、寂しくて、辛いものだから……。
私のお父さんとお母さんを奪ったもの、だから……。

思わず服を握り締める手にぎゅっと力が込もると、クー兄様は私の目線に合わせるように屈んで優しく微笑んでくれた。
そして、私の顔面に自分の大きな掌を見せる。

「……。
この手がどんなに汚れても……。俺を変わらず、愛してくれる?」

掌を見せられて首を傾げていた私に、真面目な表情のクー兄様が言った。

クー兄様の掌は剣や、槍や、弓……。たくさんの武器を扱っているから傷だらけで、擦れて皮膚が硬くなって剣ダコが出来てゴツゴツした、お世辞にも綺麗とは言えない掌。

そして、戦でたくさんの命を奪って……血に、濡れていくんだ。
戦が続く限り、ずっと……。

ーーでも、私は知ってる。

「……当たり前、だよ」

私は顔面の掌を両手で包んで引き寄せると、自分の頬をそっと擦り寄せた。

クー兄様が戦を嫌いなのは知ってる。
それでも戦うのは、その先に平和な国創りがあると信じているから……。
いつか争いがなくなって、みんなが笑い合える世界を創る為なんだ。

みんなが幸せになれるようにーー。

以前戦が嫌いと騒いだ私に、クー兄様はそう話してくれたんだ。
そんなクー兄様を、私は誇りに思う。

「ご武運をお祈りしています。クー兄様」

そう言って微笑むと、クー兄様も微笑んで……。「これ、帰ってくるまで預かってて?」と、私の頭にさっきあげた花冠を載せると、アルトさんと去って行った。
遠ざかっていく背中を、私はただただ見えなくなるまで見ている事しか出来なかった。
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