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(2)リディアside
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…………。
ヴァロンは、一言で言うと”天才”だった。
勉強も運動も、教えた事をすぐに熟して想像以上に成長していく。
最初は拒食症のように何かあるとすぐに吐いて食べられなかった食事も、次第に落ち着いて。
いつの間にか反動で大食いに。
心配だった小さくて貧弱な身体も、年齢を重ねていくにつれて立派になっていった。
……でも。
なかなか消えないトラウマもあった。
左利きなのに、余程酷い否定をされたのか……。
左手を使う事を拒むように震える手。
煙草を吸う人を見ると警戒して、ある種類の煙草の臭いを嗅ぐとパニック起こして過呼吸を起こした事もあった。
……。
そして、私はヴァロンの笑顔を見た事がなかった。
あの子が笑うのは、意地悪そうだったり何処か寂しそうな笑み。
嬉しくて、楽しい。
そういう感じが溢れた笑顔を、全く見せない。
ヴァロンはまだ、自分自身の幸せを見付けていなかった。
口が悪くて態度も悪いクセに、面倒臭そうにしながら……。結局自分よりも他人が喜ぶ方を選んでた。
人に幸せを与える。
私達夢の配達人にとっては大切な事。
……けど、それじゃあいつかダメになる。
”自分自身も夢を持て”……。
マスターの言葉の重大さを実感する。
人は自分が幸せじゃなきゃ、他人に本当に優しくする事なんて出来ない。
いつか、壊れる。
偽りの優しさは、壊れてしまう。
私はそれを、ヴァロンよりも先に自分が実感する事になる。
私が26歳、ヴァロンが14歳。
私には忘れられない事件が起こる。
……
…………。
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