274 / 289
番外編④三月side
④-2-2
しおりを挟む「あれから中庭に来ないから心配してた」
「……え?」
「体調でも悪いのか?」
身体があんま丈夫じゃない、って聞いてたし、さっき窓ガラス越しに見た浮かない表情。元気がないように見えたから、オレはそう尋ねただけだった。……けど。
「!っ、へ?……へっ?!ど、どうしたんだよっ??!」
サクラの瞳があっという間に潤んできて、ポロポロと大粒の涙が溢れ落ちて、オレはドキッと言うか正直ギクッとした。
オレが、泣かせたーー……?
以前会った時はあんなに微笑ってくれてたサクラの突然の涙に、オレの胸は痛いくらいに締め付けられる。不意を突かれて、どうしよう、って気持ちでいっぱいになって……。この場から逃げ出したくなったオレは震える脚を一歩後ろに退げようした。
でもそんなオレに、まるで幼い子供が泣きじゃくるようにサクラが言った。
「っ、ごめん……な、さい。う、嬉しく……てっ」
っ、嬉し……い?
信じられない言葉に、オレの脚は心と共に止まる。
「だって、今までっ……。そんな風に、私を想ってくれた人……いなくてッ」
っーー……やべ。何だ?この気持ち……。
痛かった胸が、今度はキュッと包み込まれたような優しい疼きに変わる。
目の前でサクラは泣いているのに、思わずオレは思っちまったんだ。
ああ、綺麗だなーー……。
今まで少女にしか見えなかったのに、サクラが一気に女性に思えた気もした。
だが、それを認めたら普通に接する事が出来ない、って思ったからか、オレは咄嗟に紫季や紫夕を思い浮かべて、同じようにサクラに接していた。
「な、泣くな。泣くな!」
そう言いながら頭をポンポンッてして、兄のような、父親のような面して微笑った。そしたら、顔上げたサクラも、涙を拭いながら微笑み返してくれて……オレはホッとしていた。
……
…………それから。
本部に戻って来た時はほぼ毎回と言っていいくらいに、オレはサクラに会いに行った。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
蝶々の繭
華周夏
BL
同性愛者というだけで、家族から厄介者扱いされた洋之は、山奥で画家をしている父親の従兄弟の覚に預けられる。もう恋はしないと思っていた。あのひとを失って、心の中には何もなくなった。穴があいてしまったように。
洋之は覚に心惹かれていくが、昔、父の従兄弟の覚と運命的な恋をした相手は他でもない洋之の父親だった………。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
にーちゃんとおれ
なずとず
BL
おれが6歳の時に出来たにーちゃんは、他に居ないぐらい素敵なにーちゃんだった。そんなにーちゃんをおれは、いつのまにか、そういう目で見てしまっていたんだ。
血の繋がっていない兄弟のお話。
ちょっとゆるい弟の高梨アキト(弟)×真面目系ないいお兄ちゃんのリク(兄)です
アキト一人称視点で軽めのお話になります
6歳差、24歳と18歳時点です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる