スノウ

番外編③杏華side

③-1-4

デートの最中の事、ホテルに入ってついさっきまでの自分の行動を振り返っても、私に全く落ち度はなくて……。
しかも、ここ暫くは一緒に食事をしていただけで、今日は久々のホテルだったのに……。

ーー……まさか、私よりも好きな女が出来た？

私と紫夕しゆうさんは別に「好き」とか言い合ったりもしないし、付き合っていない。身体の関係を持つようになってからも特別な言葉を互いに発する事はなくて、すでに暗黙の了解のように互いが別の異性と過ごす日や一緒に居る事があっても指摘し合う事はなかった。

けど。
私は例え紫夕しゆうさんにたくさんの女が居ても、これまでその中で1番だと言う絶対の自信があった。それなのにーー……。

女の勘は鋭い、とは良く言ったものね。
私はさっき「シャワー浴びたら帰る」と言った彼の表情を思い出して、自分よりも大切に想っている人物の元へ行こうとしているのだと気付いた。

恋人ではなく、割り切った付き合い。
理想の結婚相手を見付けるまでの暇潰し。

そう思っていた筈だったのに、私の中にはこの時どうしようもないショックと怒りが込み上げていた。
その気持ちを当時は、私を差し置いて別の女にうつつを抜かす紫夕しゆうさんへの怒りと、プライドを傷付けられたからだと思ってたけど……。私がそれをただの嫉妬だったと気付くのは、もう暫く後の事だ。

面倒くさい女だと思われたくないし、なりたくもない。
第一、こっちから引き止めたりするなんで、まるで私の方が彼を好きみたいで認めたくなかった。

……良いわよ。
別に、代わりの男なんているもの。

そう思いながらも数日後。
たまたまマリィさんに会う機会があった際に、紫夕しゆうさんが数ヶ月前に任務先で助けた子供をそのまま引き取ったと言う話を聞いた。その時から夜はどんなに遅くても必ず帰宅するようにして、任務中にその子供を預けていたマリィさんの元から引き取り、一緒に過ごすようにしている、と。

女ではなく子供で、しかも男の子ーー？

そう聞いて、一瞬ホッとして……。でも、暫く考えたら、自分は紫夕しゆうさんにとってその子供より下だったのだと思うとまたムッとした。