223 / 289
第9章(3)紫夕side
9-3-4
しおりを挟む押し寄せる罪悪感と、決して取り戻す事の出来ない後悔。
俺が、殺した。
俺が、雪のお袋さんを……。
斬月を掴んでいた手が震え出す。この手で、この斬月で、俺はサクラさんを斬っていた。
「っ、……ゆ、き。……俺、が……ッ。……っ、俺が……サクラ……さん、を……っ」
謝ろうと思った。
けど、言葉よりも先に涙が溢れて来て、胸がつかえて声が出ない。
すると、そんな俺に雪が言った。
「紫夕、ありがとう」
そう言って、微笑った。
驚きで見開いた瞳に映るその表情は、「全部分かってる」。そう言っているように感じる、優しい表情だった。
そしたら、また涙が溢れて来て……。やはり俺は何も言えない。
雪が言葉を続ける。
「紫夕だったから、母さんは穏やかな気持ちで最期を迎えられたんだ。
三月さんの斬月だったから、母さんはちっとも苦しくなんてなかったんだって……。幸せだった、って言ってる。
だから……本当に、ありがとう!」
雪の言葉と共に、雪桜が優しく光り輝いていて……。俺の瞳には確かに、雪と共に微笑んでいるサクラさんが見えた。
視野が滲んでボヤけるその光景に、俺はただただ頷いて笑顔を返す事しか出来なかった。それを見て雪も頷くと、再びその視線を親父に移す。
「だから、今度はオレが救うんだ。三月さんがこれ以上苦しまなくていいように……。オレが、必ず……!」
そう言って雪が親父に向かって駆け出した。その背中に向かって、俺は声を振り絞って叫ぶ。
「っーー……頼むッ、雪!!
親父を……っ、親父を苦しみから解放してやってくれッ……!!!!!」
そしたら、雪桜が今までよりも更に眩い光を放って……。雪を包み込んだ。
……
…………。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
蝶々の繭
華周夏
BL
同性愛者というだけで、家族から厄介者扱いされた洋之は、山奥で画家をしている父親の従兄弟の覚に預けられる。もう恋はしないと思っていた。あのひとを失って、心の中には何もなくなった。穴があいてしまったように。
洋之は覚に心惹かれていくが、昔、父の従兄弟の覚と運命的な恋をした相手は他でもない洋之の父親だった………。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
にーちゃんとおれ
なずとず
BL
おれが6歳の時に出来たにーちゃんは、他に居ないぐらい素敵なにーちゃんだった。そんなにーちゃんをおれは、いつのまにか、そういう目で見てしまっていたんだ。
血の繋がっていない兄弟のお話。
ちょっとゆるい弟の高梨アキト(弟)×真面目系ないいお兄ちゃんのリク(兄)です
アキト一人称視点で軽めのお話になります
6歳差、24歳と18歳時点です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる