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第8章(3)紫夕side
8-3-6
しおりを挟む【三月さんではない。
でも、何処か似ているその少年を見て、私にはすぐに誰なのか分かった。
三月さんの、息子さん?
そう、声を掛けたかった。
けど、出来なかった。
彼は私の存在を知らないかも知れない。
それに彼からしたら私は、自分の母親からその居場所と父親を奪おうとしている酷い女かも知れない。
だから、何も言う事が出来なかった。
そうしている内に、脱走を知った橘さんが私を迎えに来て……。私は、連れ戻されてしまい、より厳重に部屋に閉じ込められる事になった。
危険だと思われる物は全部回収されちゃって、私はまたここで生きる事しか出来なくなった。
私の手元に残ったのは、三月さんがくれた三日月のイヤリング。
それを見ていたら、あの幸せで溢れていた時間を思い出して、また涙が出て来た。
でも、私が後を追って命を捨てたら……きっと三月さんは怒ると思った。
さっき中庭で聞こえ声は、きっと空耳なんかじゃない。
私に、「死ぬな」って。
「生きろ」って、きっと言いたかったんだ。
もう少しだけ、頑張ってみよう……。】
「……すごいな、雪。
もしかしたら俺と雪は、親父と雪のお袋さんが出会わせてくれたのかも知れないな」
親父と雪のお袋さんが恋をして。
俺も、雪のお袋さんに恋をした。
その恋はどちらも実る事はなかったけど、だからこそ今の俺と雪が在る。
きっと偶然じゃなくて必然に、俺達は互いの両親の強い想いから出会う事が出来たのかも知れないと感じた。
「あ!でも、俺はお前がお袋さんに似てるから好きになった訳じゃねぇからな?」
昔は確かに、彼女が1番の綺麗だった。
でも今、俺の心の中で1番綺麗に輝いているのは、紛れもなく雪なんだーー。
そう思ったら触れたくなって……。
俺は一旦パソコンを置くと立ち上がり、雪の額にそっと口付けた。
……
…………。
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