スノウ

☆リサーナ☆

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第7章(4)紫夕side

7-4-1

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「っ、ゆき
これ、中身……見てもいいか?」

「……。うん」

俺はゆきの許可を取ると椅子に座り、机の上に設置してあったパソコンを起動させて、袋からSDカードを取り出すと差し込んだ。
しかし、そのファイルを開こうとすると「パスワードを入力して下さい」の文字が表示される。

パスワード。
とりあえず、お袋さんの名前か……。

俺はローマ字で「sakura」と打ち込んでみた。でも、それでは開けない。

「なぁ、ゆき。お袋さんの誕生日分かるか?」

「……ごめん、分からない」

俺の隣に来たゆきは首を横に振る。

「じゃあ、フルネームとか?」

「……っ、分からない。ごめん」

申し訳なさそうに答えるゆき
けど、これはお袋さんがゆきに託した物。そのパスワードをわざわざゆきが全く心当たりがないものにする、と言う事は有り得ないと思った俺は必死に悪い頭を回転させた。
そして、一つピンッときた事をゆきに尋ねる。

「……なぁ、お前の、名前は?」

「!……え?」

ゆきの、本当の名前……教えてくれるか?」

その質問に、ゆきは少し目を見開いた。
ゆきがその昔、絶対に口にしなかった自分の本名。辛い過去だからか、まるでそれを棄てたいかのように頑なに言わなかった名前。

心の傷を抉ってしまうかも知れないーー。

そう思ったが、今のゆきなら大丈夫だと思って、俺は聞いた。
目をしっかり見ながら返答を待っていると、少しして俺の手を取ったゆきが手の平に指で文字を書く。

「咲」という字に、「夜」とーー……。

サク……?」

「……うん。
本当はカタカナなんだけど、漢字で書くとそう言う意味だって言ってた」

書かれた文字を口にした俺に、ゆきはそう教えてくれた。

サクヤーー。

もう一度その名前を心の中で呼ぶと、ゆきの本名を知れた嬉しさと同時に……。いや、何だかそれ以上に複雑な気持ちが胸に広がった。真っ白な紙に、一滴の墨汁が垂らされてジワジワと広がるように……。
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