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第7章(3)紫夕side
7-3-5
しおりを挟む「……平気だよ、オレ」
「雪?」
「もう、過去に負けたりなんてしない。縛られたりしない。
紫夕との今と、これからがあるから……。だから、平気だよ」
「っ、雪……」
「だから、遠慮しないで過去の事も、聞いて?……って、言っても、所々、覚えてないけど」
腕の中でそう言う雪を、俺は強く抱き締め返した。本当は思い出したくもないだろうに、それでも懸命に向き合って俺に話してくれようとする姿に、更に愛おしさが込み上げた。
ーーそうだ、俺が怖がっててどうすんだ。
雪がもうこれ以上傷付かないように、もう悲しい思いをしなくていいように、俺がずっと傍に居て支えてやろうーー。
そう心に誓って、俺は雪の頭を撫でながら優しく口付けた。
……が、その直後。俺は"ある事"を思い出し、思わず大声を出して慌てる。
「!っ、あ~~~~~ッ!!!」
「!っ、え……?」
驚いて首を傾げる雪を残し、俺はベッドから降りてとりあえず下着だけ履くと、病院から持ち帰っていた自分の荷物が入った鞄を開けた。そして、ベヒモス討伐の際に着ていた、血がべっとりとこびり付いた自分の服を見てサァーッと青ざめる。
左肩から左胸や左腕に血が染み込んだボロボロの上着。その左ポケットを漁ると……。
「?……紫夕?」
「……。
ゆ、雪……。ご、ごめん……なさいっ」
背後から名前を呼ぶ雪の方をゆっくり振り向き、謝りながら俺は胸ポケットから取り出した"ある物"を手に乗せて見せた。
それは、ベヒモス討伐の前に雪が俺に渡してくれた御守り。お袋さんに貰ったと言っていた大事な大事な形見の品物だった。
けど、それは、何と無残な姿。綺麗なピンク色だったのに、俺の血のせいで真っ赤に染まっている上に……ベヒモスの牙が掠ったのか、所々ほつれてボロボロになっていたのだ。
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