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第2章(4)紫夕side
2-4-5
しおりを挟む俺は普段から女を抱く時も、見える場所には絶対に付けたりはしない。昨夜は夢中で我を忘れていた面もあったが、普段から気を付けていた事は自然と守れていたようで、今朝雪の首筋に唇の痕はなかった。
と、言う事は……。
俺の頭に浮かんだのは、この世で1番大っ嫌いな橘ーー!!!!!
「っ……あの、ッ野郎……ッ!」
はらわたが煮えくり返る、と言うのはまさにこの事だろう、と実感した。
やっぱり許せなくて、怒りが込み上げてきて、今すぐ橘を消してやりたい気持ちでいっぱいになった。
……でも。
そんな俺を鎮めるのは、この世で1番大切な存在。
「っ……ごめ、……な、さい」
「!……っ、雪?」
何故か謝る雪。
俺がハッとしてもう一度目を合わせると、雪の瞳から涙が溢れて、頬を伝って……静かに落ちた。
「オレ……汚れ、っ……。汚れた……ッ」
汚れたーー。
それは呟かれるようで、普通の人からしたら大した感情が溢れているように聞こえる口調じゃない。
けど、俺にはしっかりと、聞こえる。
「汚れ……たん、だ……。
紫夕が……名前、くれ……たのに……っ。オ、レ……またっ……」
その言葉には確かに、悲しみが溢れていた。
それは逆に、泣き喚かれるよりも、嗚咽を上げられるよりも……。俺の瞳には痛々しく映る。
そして、同時に。
なんて綺麗なんだ、って……思っちまった。
ーー……ああ。
俺は、もう何も迷わねぇ。
俺は雪を抱き寄せて、橘が付けた唇の痕の上に自分の唇を重ねた。
そして、優しく、でも強く吸って、その痕を自分のものに変えていく。
俺が忘れさせてやるーー。
何て、カッコ良い言葉はいらない。
俺が伝えるべき言葉はーー……。
「ーー好きだ」
唇を首筋から離してそう言うと、俺は間近で雪を見つめた。
雪が、まばたきもせず、俺を見つめてる。俺はもう一度、伝える。
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