スノウ

第２章（２）雪side

2-2-4

……
…………そうだ。諦め、よう。

オレの頭に、過ぎる考え。
心と身体がバラバラだから、苦しくなる、辛くなる。
けど、"無駄だ"と諦めたら、楽になる。

昔、おじさんに抱かれ続けた末に、そうしたようにーー……。


オレは思考を止めて、橘たちばなさんにされるがままにしようと思った。

でも、その時。

「……いい子だ。
たっぷり可愛がってあげるよ、"雪ゆき"」

！！ッーー……。

心臓が、大きくドクッて鳴った。
「雪ゆき」って橘たちばなさんに名前を呼ばれた瞬間。自分が、戻ってきた。

……、っ……い、やだ。
……ッ、……嫌だっ。……その声で、呼ばないでッ…………。

そう思いながら、オレの頭の中に浮かぶ光景。
それは、紫夕しゆうが、オレに名前をくれた日の記憶ーー……。

「雪ゆき。真白ましろ 雪ゆき。
今日から、オレはお前をそう呼ぶ。よろしくな、雪ゆき！」

本部ここに着いたその時、紫夕しゆうが初めてオレに微笑ってそう言ってくれた。
あの日は粉雪が舞ってて、夕陽なんて見えなかったのに……。その笑顔が、夕陽みたいに暖かく輝いてた。

「っ……や、めて…………」

「雪ゆき」って、呼ばないで……っ。
オレが紫夕しゆうから貰った名前宝物……。それを、汚さないでよっ……！！

あの名前宝物を紫夕しゆうがくれたから、過去の汚い自分がほんの少しだけ……変われた気がしてた。

「ッや……やだっ、……嫌、だ……ッ」

心の底から湧き上がってくる感情。
嫌だ。気持ち悪い。やめて……。かつて、自分が無いものにしようとした感情。
どんどん溢れてきて、止まらない。

ーー……でも。

それは上手く声にならない。
心の中ではこんなに強く思っている事なのに、オレの口から出る声は、あまりに小さくて叫びにならない。

そしたら次第に、呼吸が、苦しくなってきた。