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第6章(5)アカリside
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しおりを挟むでも、それとは別に、私はヴァロンを知りたかった。
彼が抱えている傷や苦しみを、代わってあげられる事は出来ないけど、せめて寄り添いたいと思った。
ヴァロンは話してくれた、私と離れている間に知った自分の出生の事や、家の事。
彼の一族に纏わる、"天使の血"と呼ばれるものの事。
彼の一族には、希血と呼ばれる特殊な血液型で産まれてくる者が稀に居て、その者には未知数で不思議な能力が宿っているとか。
それがいわゆる、天使の血を持つ者。
そしてヴァロンも、天使の血を受け継いでいた。
彼は触れ合うと、その相手がその時に思っている事を感じ取る事が出来たり、また植物や動物に触れると気持ちを通わせる事が出来る、と言っていた。
でも、その能力は本当に一部で、一族で他に天使の血を持つある人物は強制的に人を操ったり、また命を奪う能力がないとは否定出来ないとも……。
きっと私は、ヴァロン以外の人がそんな御伽話のような事を言ったら、信じなかったと思う。でも、彼が嘘を吐く人ではないと知っている。
それに……。
『俺、怖いんだ。自分が、怖い……。
だから、子供を作る事も……怖い』
最初はその言葉が、自分から化け物のような子供が産まれてくる事を恐れているのかと思った。
けど、違った。
『だって、可哀想じゃん……。
その子はいつか"自分は何で普通じゃないんだろう?"って悩む日が、必ず来る。
俺は自分の子供に、そんな想い……させたくねぇ』
そう言って、ヴァロンは泣いていた。
やっぱり彼は私が大好きな、誰よりも美しい心を持っていた。
そうだ。
この人は例え自分の子供が悪魔のようでも、絶対に見捨てたりしない。
子供を責めて嫌うのではなく、自分を責めて、その気持ちを分かってやろうとする人なのだ。
だから、私は言ったの。
『大丈夫だよ、絶対。
だって、私達の子供なんだよ?
ヴァロン言ったでしょ?次の子供の名前は
「自分で自由に羽ばたけるように、ツバサ」
きっとその由来の通り、ツバサは自由に羽ばたける。
それに、もしも上手く羽ばたけない時は、私達が家族の力で、精一杯背中を押してあげようよ』
能天気。そう思われただけかも知れないけど、私のその言葉に、ヴァロンは驚いた表情をした後に吹っ切れたように微笑って、『そっか。やっぱり、アカリはすごいな』って。『そうだな。俺達なら、大丈夫だ』って、抱き締めてくれた。
……
…………その後。
ゆっくり月日をかけて、少しずつヴァロンの心の傷に寄り添いながら過ごして……そして、ツバサが産まれた。
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