片翼を君にあげる①

☆リサーナ☆

文字の大きさ
上 下
53 / 172
第3章(4)レベッカside

4-6

しおりを挟む

その言葉と態度に傷付き涙を流すレノアーノ様を見ても、一つも表情を変えず……。そんなツバサ様に、私の中にはふつふつと怒りの感情が込み上げてくる。

レノアーノ様のあの幸せそうなお姿は?
日々の努力や我慢は?
想いを募らせ、こうして自ら会いに来たお気持ちは……。全て、全て一方通行だったというのか?!

執事からただの一人のレノアーノ様の幸せを願う人間として、私が感情を爆発させようとした瞬間だった。
その場に耐え切れなくなったレノアーノ様が泣きながら駆け出す姿に、私はハッとして我に返ると跡を追わなければと様子を伺っていた物陰から踏み出す。
その時……。

「あいつの事を、よろしくお願いしますっ……」

「!!ッーー……」

その声に思わず視線を向けると、離れた場所から私に頭を下げるツバサ様の姿が……瞳に映った。
冷静になってその姿を見るとまだ彼が16歳の、幼い少年なのだという事に気付く。
微かに震えている身体が、下げたままの顔を上げられない理由を物語っている。

胸がズキンッと、痛んだ。
必死に必死に、ツバサ様は我慢していたのだ。
レノアーノ様が、自分に未練を残さないように……。
彼は私が居る事にとっくに気付いていて、ならば大丈夫だろう、とワザと冷たい言葉と態度でレノアーノ様に接した。全ては、レノアーノ様の為に……。

「お任せ下さい」

ツバサ様の想いに触れて、私は執事としての使命を思い出すとレノアーノ様を追った。

好き。愛してる。
そんな言葉がなくても、想いが伝わってくる事もあるのだと知った。
ツバサ様がレノアーノ様を想う気持ちは、言葉にされなくても確かにあの時存在したのだから……。


やしきに帰り、元の生活に戻ったレノアーノ様はそれからツバサ様の事は一切口にしなくなり、アッシュトゥーナ家のお嬢様として更に磨きをかけて行った。
中でも孤児院や災害の起きた被災地を自ら訪れてのボランティア活動は大きく評価され、レノアーノ様は世界中から"女神様"とも呼ばれるようになった。

……
…………。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

処理中です...