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第5章(1)ツバサside
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しおりを挟む俺の、負けーー……。
それは、悔しいものの筈だった。
嫌な事に違いない筈だった。
レノアやラン達の為にも、あってはならない事の筈だった。
でも……。
「ーー……っ、良かったッ」
心の底から溢れた言葉。
力が抜けた俺は椅子に尻餅を着くようにして座ると、そう、ホッとして微笑っていた。
ミヅクさんが、生きてるーー。
勝ちたかった。
負けたくなかった。
けど、自らが勝利しても、それと同時に誰かの命が失われるなんて……俺は嫌だ、と思った。
そんな勝利で掴んだ白金バッジなんて、いらない、って思ってしまったんだ。
「「良かった」……か。
キミらしいね、ツバたん」
俺の言葉に一瞬目をぱちくりさせていたミヅクさんだったけど、そう呟いて「フッ」と笑った。
ミヅクさんはもしかしたら、自分が負ける事なんて有り得ないと思っていたのかも知れない。
この結果になる事を、初めから想定していたのかも知れない。
けど、そうだとしても……。俺には、もう、無理だと思ってしまった。
だから、姿勢を正して、気持ちを整えて、口を開く。
「ミヅクさん、今回の下剋上は俺の負けです。
それで、改めて再戦をお願いしたいのですが……。どうかその際は、今回とは違う対戦方法を考えて頂けませんか?」
負けたクセに。
自らよりも下級のクセに。と、思われるかも知れない。
でもやはり、自らの命を懸ける、なんて勝負方法は違う、と思ったんだ。
少なくとも、俺には耐えられない。
自分との勝負で誰かが命を落とすなんて、絶対に嫌だ、って思ったんだ。
……しかし。
ミヅクさんの口から返ってきた言葉は、俺の意見など微塵も受け付けない、予想もしていなかった言葉だった。
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