上 下
120 / 151
第17章 (3)シュウside

3-3

しおりを挟む
〈回想〉
【アラン邸/アランの部屋】

「……では。これで失礼致します。
レナ、レイ、帰りましょう」

依頼完了書を作成し、全てが終わってレナ達とその場を後にしようとした時の事。


「随分と、愛されてるんだね。ヴァロンは」

私達の背後に向かって、アラン様は鼻で笑った様に声をかけてくる。
気にせずに部屋を出ようとドアノブに手を伸ばすと……。


「ねぇ、君達の大好きなヴァロンの過去。……知りたくない?」

更に続いたアラン様の言葉が、思わず私の手を止めた。

”ヴァロンの過去”。
そのネタで強請ってきた人間は、今までにも数え切れない程いた。
普段ならハッタリや嫌がらせだと、たいして気に止めない事だが……。相手がこのアラン様だからか、なんだか意味深に聞こえる。

立ち止まったまま、動けずにいる私。


「娼婦だった母親に捨てられた。
君達が知ってるヴァロンの過去って、せいぜいその辺りまで……。でしょ?」

とっさに”いつの事を言っている?”と私の脳裏に浮かんだ気持ちを詠むように、アラン様が言う。


「私が言ってるのは、ヴァロンのそれ以前……。夢の配達人の隠れ家に引き取られるまで、何処でどう過ごしてたか……知りたくない?」

「!……」

それは、私やマスターでさえ知らない事。
ヴァロンが母親に闇市場で売られる以前の事は、どれだけ調査員が調べても分からなかった事だった。

ヴァロン自身の記憶も欠けており、昔は治療の為に通院を勧めていたのだが効果は得られず……。その内に彼の精神状態の安定を第一に考えて、無理に過去を呼び起こすのは止めようと判断した。


それを……。
そのヴァロンの過去を、この男は本当に知っている?

今までの強請りとは違う核心を突いた言葉が気になり、私が振り返り視線を合わせると……。アラン様はニッと笑い、椅子から立ち上がってゆっくり歩み寄ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

どうやら旦那には愛人がいたようです

松茸
恋愛
離婚してくれ。 十年連れ添った旦那は冷たい声で言った。 どうやら旦那には愛人がいたようです。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...