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第2章 夜会がある様です。
第17話 庭での出会い
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「ただいまー」
「アウッ!」
「お疲れ様でございます…」
カーシュが図書館から部屋に戻ると、そこには乱雑した部屋の物。疲れ切ったラル。そして元気に此方を見て目をキラキラさせているマアトが居た。
「そちらこそ…ありがとうね、ラル」
「いえ…それにしても今日のマアト様はいつにも増してお元気なご様子です」
「うん、見れば分かる」
午前中からマアトがこんなに元気な事は今までなかった。低血圧なのか、元気になったとしても午後から。
「アウッッッ!!」
今は午後。しかし、それを含めてもこの元気は異常であった。
「マアト、あまり大きな声出すと部屋の外に聞こえちゃうから!」
そう制止するが、マアトの元気は留まる事を知らない。
部屋の物を段々と散らかし、床や壁に爪痕が残っていく。
それと同時にラルの表情が暗くなっていっているのが見て取れる。
「ま、マアト! 外に行こう!」
「! アウッ!!」
このまま部屋を散らかし続けられればラルの精神がおかしくなりかねない。そう考えたカーシュはマアトを持ち上げると、咄嗟に部屋から出て、城の裏へと向かうのだった。
* * *
「母上は…今日は居ないみたいだね」
「アウアウッ!」
先日フアラと出会った城の裏の庭へと行くと、豊かな緑が溢れる庭園があるだけだった。
もしかしたら今日は身体の調子があまり良くないのかもしれない。
「アウッ! アウッ!」
「マアト…今日は何であんなに元気なんだろう?」
そんな中、マアトが元気にそこを走り回る。
フアラが居ようが居まいがお構いしないだ。
気を付けて見てないと何をしでかすか分からない。
そう思ったカーシュは、マアトから目を離すまいとマアトを追い掛けるが、それが遊びだと思ったのか、マアトのスピードが1段階速くなる。
「なっ!?」
まだマアトが産まれて1週間ちょっと。
そのスピードは5歳の子供の身体では追いつけないスピードであった。
あっという間にマアトの姿は、カーシュの視界に入らない茂みの陰へと行ってしまう。
「ま、マズイ…今マアトの毛色が変化したら…!!」
自分はどう思われようがどうでも良い。しかし、マアト自身が他人の目を怯えて暮らして行く事になるのは良くない。
「マアトーッ! 何処に行ったのー!!」
カーシュは汗だくになりながらも、手を口の横に添えて叫ぶ。
しかし、マアトの返事が返ってくる事はない。
「本当…何処に行ったんだろう?」
そう思っていると、カーシュの耳に微かにマアトの鳴き声が聞こえた。
「…こっちだ」
「アウッ!」
「だから何処から来たのか聞いているのです! な、舐めるのを止めなさい!!」
茂みの少し奥。
そこには、金髪でドレスを着たカーシュと同じぐらいの年頃のとてもふくやかな体型をした女の子が、しゃがみ込んでマアトと話をしていた。
「あ、あの…」
「もう! 飼い主の顔を見てみたいです!!」
「すまない、それは私なんだ」
「え!?」
カーシュは背を向けてる彼女に、軽く頭を下げて申し訳なさげに薄く微笑んだ。
彼女はそれに気付くと、ボッと顔を赤らめると1つ咳払いをする。
「え、あ、そ、そうでしたか」
「アウッ!」
「マアト? あまり走り回ったらダメだよ?」
カーシュはマアトを抱き抱えると、彼女を改めて見直す。
見た事のない人、子供である。ファテル王家とは関係のない者なのか、カーシュの記憶にも存在しない。
(何処かの貴族かな…?)
兎も角、マアトを止めてくれたのは感謝すべき事だ。
「私の名前はカーシュ。この子を止めてくれてありがとう。困っていたんだ」
カーシュはマアトを地面へ下ろすと、此方を見上げながら呆けている彼女に手を伸ばす。
彼女はゴシゴシと手を服で拭いた後、カーシュの手を取って立ち上がる。
「カーシュって…ファテル王国第1王子の? カーシュ・アルザ・ファテル?」
「あぁ」
シンシアは頷くカーシュを見て、少し憐れみの視線を送った後に、ぎこちなくスカートの裾を摘み上げた。
「…私はシンシア・サルサ・ノルクと言うわ。手を拭いて損した…」
「アウッ!」
「お疲れ様でございます…」
カーシュが図書館から部屋に戻ると、そこには乱雑した部屋の物。疲れ切ったラル。そして元気に此方を見て目をキラキラさせているマアトが居た。
「そちらこそ…ありがとうね、ラル」
「いえ…それにしても今日のマアト様はいつにも増してお元気なご様子です」
「うん、見れば分かる」
午前中からマアトがこんなに元気な事は今までなかった。低血圧なのか、元気になったとしても午後から。
「アウッッッ!!」
今は午後。しかし、それを含めてもこの元気は異常であった。
「マアト、あまり大きな声出すと部屋の外に聞こえちゃうから!」
そう制止するが、マアトの元気は留まる事を知らない。
部屋の物を段々と散らかし、床や壁に爪痕が残っていく。
それと同時にラルの表情が暗くなっていっているのが見て取れる。
「ま、マアト! 外に行こう!」
「! アウッ!!」
このまま部屋を散らかし続けられればラルの精神がおかしくなりかねない。そう考えたカーシュはマアトを持ち上げると、咄嗟に部屋から出て、城の裏へと向かうのだった。
* * *
「母上は…今日は居ないみたいだね」
「アウアウッ!」
先日フアラと出会った城の裏の庭へと行くと、豊かな緑が溢れる庭園があるだけだった。
もしかしたら今日は身体の調子があまり良くないのかもしれない。
「アウッ! アウッ!」
「マアト…今日は何であんなに元気なんだろう?」
そんな中、マアトが元気にそこを走り回る。
フアラが居ようが居まいがお構いしないだ。
気を付けて見てないと何をしでかすか分からない。
そう思ったカーシュは、マアトから目を離すまいとマアトを追い掛けるが、それが遊びだと思ったのか、マアトのスピードが1段階速くなる。
「なっ!?」
まだマアトが産まれて1週間ちょっと。
そのスピードは5歳の子供の身体では追いつけないスピードであった。
あっという間にマアトの姿は、カーシュの視界に入らない茂みの陰へと行ってしまう。
「ま、マズイ…今マアトの毛色が変化したら…!!」
自分はどう思われようがどうでも良い。しかし、マアト自身が他人の目を怯えて暮らして行く事になるのは良くない。
「マアトーッ! 何処に行ったのー!!」
カーシュは汗だくになりながらも、手を口の横に添えて叫ぶ。
しかし、マアトの返事が返ってくる事はない。
「本当…何処に行ったんだろう?」
そう思っていると、カーシュの耳に微かにマアトの鳴き声が聞こえた。
「…こっちだ」
「アウッ!」
「だから何処から来たのか聞いているのです! な、舐めるのを止めなさい!!」
茂みの少し奥。
そこには、金髪でドレスを着たカーシュと同じぐらいの年頃のとてもふくやかな体型をした女の子が、しゃがみ込んでマアトと話をしていた。
「あ、あの…」
「もう! 飼い主の顔を見てみたいです!!」
「すまない、それは私なんだ」
「え!?」
カーシュは背を向けてる彼女に、軽く頭を下げて申し訳なさげに薄く微笑んだ。
彼女はそれに気付くと、ボッと顔を赤らめると1つ咳払いをする。
「え、あ、そ、そうでしたか」
「アウッ!」
「マアト? あまり走り回ったらダメだよ?」
カーシュはマアトを抱き抱えると、彼女を改めて見直す。
見た事のない人、子供である。ファテル王家とは関係のない者なのか、カーシュの記憶にも存在しない。
(何処かの貴族かな…?)
兎も角、マアトを止めてくれたのは感謝すべき事だ。
「私の名前はカーシュ。この子を止めてくれてありがとう。困っていたんだ」
カーシュはマアトを地面へ下ろすと、此方を見上げながら呆けている彼女に手を伸ばす。
彼女はゴシゴシと手を服で拭いた後、カーシュの手を取って立ち上がる。
「カーシュって…ファテル王国第1王子の? カーシュ・アルザ・ファテル?」
「あぁ」
シンシアは頷くカーシュを見て、少し憐れみの視線を送った後に、ぎこちなくスカートの裾を摘み上げた。
「…私はシンシア・サルサ・ノルクと言うわ。手を拭いて損した…」
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