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第1章 この国、最悪

第5話 魔法教師

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 そして翌日の早朝、カーシュはビクターに呼ばれて応接室の前に来ていた。

 カーシュの専属メイドであるラルは、まだ帰ってきておらず、父上のメイドに起こされるという失態を犯してしまっていた。

(んー…ラルはまだ帰ってきて居ないのか…どこまで捕まえに行ってるのやら。それにしても随分と早い呼び出し…それだけ父上も私の初のお願いに力を入れてくれてるって事かな?)

 カーシュはじんわりと心に温かみを感じながら、機嫌良く応接室の扉をノックする。

「入れ」

 昨日とは違う厳格な声が中から発せられる。

「失礼します」

 応接室に入ると、そこには奥の机の所にビクターが座り、そこの横にこちらを鋭い眼光で見つめる金髪の強面の男が居た。身長は190センチぐらい…今まで会った中で1番デカく、迫力がある。

「おはようございます」
「うむ、おはよう。早速だがカーシュよ、お前の望みの魔法の教師を連れて来たぞ。おい」
「はっ」

 ビクターに言われ強面の男は前に出て、カーシュの前で膝跨いた。

「私の名前は"アルド"、この国の魔法師団副団長をやらせて貰っております。以後お見知り置きを」

 アルドは見た目に関わらず、綺麗な礼をする。

 それに対してカーシュはーー

「あう…あ、よ、よろしくお願いします…」

 小さな声で深くお辞儀をする。

 カーシュ改め、華珠は美少女、ぼっち、腐女子という三拍子が揃った女の子。女子校で育ち、男との会話も必要最低限に生きてきた女の子。
 ナンパされた時は愛想笑いしているだけで話はしなかった。

 つまり、男の耐性がなく、コミニュケーションに自信がない。

「? どうした? 昨日はあんなに普通に接してたではないか? やはり前と変わらんのか…」

 ビクターは心配そうに…いや、呆れたかの様な視線をカーシュへと向けた。

 そうは言われてもカーシュの体は動かない。男というのは華珠にとっては傍観するもの、カーシュにとっては自分とは程遠い存在だと思っていたのだ。

 どちらの立場であっても苦手だと思う存在だった。

「へ…あ、あの…わ、私は…」

 これはどうにもならない、妄想する余裕もない。もうダメだ。

 カーシュがそう思った時だった。

「申し訳ありません」
「え…」

 アルドが顔を上げず、謝罪の言葉を口にする。
 どういう事か分からずにいると、アルドは続けて口に出す。

「師団の者にもよく言われます。お前の顔は怖いと…」

 アルドは強面の顔を曇らせながら申し訳なさそうに話す。
 その時、カーシュの頭に雷が落ちた。

(が、ガテン系受け来たーーーっ!!!)

「あ、アルドさん!!」
「は、はっ!」
「これからよろしくお願いします! ね?」
「よ、よろしくお願い致します。それと、私の事はアルドと呼び捨てで
「アルドさん! 早く!! 私に魔法の事教えてよ!!」
「…はい」

 アルドはカーシュに手を引かれ、応接室から出て行った。
 それを見ていたビクターは、それに目を丸くした。

「…アルドならカーシュも諦めがつくと思ったんだが…予想外だな…!」

 アルドは民衆にも人気がある魔法師団副団長。しかし、唯一の欠点とも言える強面の顔は、子供から確実と言える程の不評を受けてきた。

 だからこそ、カーシュの魔法の教師として当てて、直ぐにでも魔法使いの道を諦めて貰おうと思った。

 アルドに業務以外の給料を出すのもキツキツ、だからこそ自分から辞めると言い出すように仕向けたのだが…。

 あのカーシュが、あの引きこもりだった息子が、アルドの手を引いて部屋から出て行った時、ビクターは不覚にも泣きそうになっていた。

(子は親の知らぬ所で成長を遂げているという事か…)

「めでたいな…今日は50年物を空けるか?」

 ビクターは鼻を啜りながら窓から見える空を見上げるのだった。
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