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第2章.幻想

51.実家とレストラン

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「あぁ。ねぇーちゃん、楽しんでるかなぁ」
 四月一日 夏樹は学校から帰ってきて、部屋で1人思う。

 ねぇーちゃんは学生時代は結構モテてた。
 なんなら学校でも1、2位を争うぐらいに容姿が整っていて、ねぇーちゃんが家の前で告白されてたのだって見たことがある。

 それなのに、今となっては…。
 俺は大きな溜息を吐いて、階段を降りてリビングへと向かう。

「夏樹、早くお皿準備してちょうだい」
 母さんが言ってくる。

「はいよー。てか父さんは?」
 いつもならこの時間には家にいる筈だけど…。

「なんか今日は会社で大事な食事会らしいわ。帰ってくるのは遅くなるらしいの。だから、お父さんの分は要らないわよ。」
 母さんはそう言うと、料理を続ける。

 珍しいな。会社でそういうのあるなんて。

『何がなんでも定時で帰るのが俺のポリシーだ!! 帰りに飲み!? 俺はあの可愛い母さんの手料理が食べたいんだよ!!』
 と言い張るぐらいのラブラブっぷりを見せつけるぐらいに母さんが好きな父さんが…。

 まぁ、そういう時もあるか。
 俺はいつも通り、席に着くと母さんと一緒にご飯を食べた。



 ギシッ

「はぁ。腹一杯」
 俺はベッドに寝転がると、スマホをいじる。

 今日のハンバーグ、なんかイマイチだったな。やっぱり父さんに食べてもらわないと、本気になれないのかな? 母さんも。

 母さんって父さんの愛情表現嫌がりつつも、本当は裏でニヤニヤしてる所あるしなー。

 本当に、ラブラブだよなー。
 俺はとりあえず彼女を作らないとなっと。
 俺はポインを開く。

「ん? なんだ? 珍しいな、佐藤からポインが来てるなんて」

 佐藤 檸檬(さとう れもん)、学校1の優等生でいつも眼鏡をかけている。休み時間の間も自分の席で何かしている、暗い奴だ。

 俺は佐藤とのトーク履歴を開く。そこには、

『今度の日曜日、会ってちょっと話さない?』


 は!?
 俺はベッドから起き上がる。

「こ、これはもしや…!!」
 デートってやつか!? 俺はあまりの予想外な内容にベッドの上で腕立て伏せを始める。

「ふん! ふん! ふん!」

 どうしようどうしようどうしよう!!
 デートって! 何すんの!?
 俺は上の服を脱ぎ、腕立て伏せをしながら頭の中を整理させようとする。しかし上手くいかない。


「夏樹ー、ちょっとさっきから何を…」
 母さんがいきなりドアを開ける。
 そこには上半身裸でベッドの上で変な声を挙げながら、うつ伏せの状態になっている俺が…

「あ、えっと…」
「…本当に何してる…あ、いや、ごめんなさい。母さん、今度からちゃんとノックする様にするから。安心して」
 そういうと、母さんは俺の部屋のドアを閉めて、階段を降りて行く。

 俺は何も悪い事をしている訳ではなかったが、何故か窓から飛び降りたい気持ちを抑えながら、眠りについた。

 ~~~~~~

「四月一日さーん。今日、アレあるの覚えてますか~?」
「はぁ。ちゃんと覚えてるよ。行けばいいんだろ、行けば…」
 今日も愛する妻のご飯が家で待ってた筈なのに…!! 俺は1人皆んなから見えない場所に行って、涙を流す。

「すみません、遅れてしまって…」
 俺は高級レストランである男に言う。

「いえ! 私達も今来た所ですので!!」
 正面に座っている男が立ち上がり、深く礼をしてくる。

「そこまでかしこまらなくて良いですよ。もっと楽にいきましょう。」
「そう言って頂けるとありがたいです」
 男はそう言って汗をハンカチで拭きながら、席に着く。

「よし、じゃあまずは飯を食いますか!」
「はい!」
 俺たちは親睦を深めながら、高級レストランの料理を堪能する。

「で、どうですか最近? 上手く言ってますか?」
「ははっ、まぁボチボチって所ですかね」
 男は苦笑いを浮かべて、最高級のワインを口に運ぶ。

「ボチボチですか、よく言いますよ!」
 俺は高笑いをしながらワインを口に運ぶ。

「聞きましたよ! 最近日本中から注目を浴びてるとか!」
「いえいえ、まだまだですよ。四月一日さんの方は如何なんですか?」
「あー、私達の方もボチボチですかね?」
「四月一日さんはいつも通り、冗談がお上手の様だ。」
 男は皿に乗っている肉をナイフで切り分け、口に運んだ。

「四月一日さんの方はもう、世界でも通用する物を、作られているじゃないですか。私達の物と比べたら天と地の差がありますよ」
「そんな事ありませんよ、私達もまだまだですよ。」
 そう言うと2人は笑いながら料理を楽しんだ。

「おっと…そろそろ帰らないとウチの家内が心配しそうなので、これぐらいでいいですかね?」
「あ、ご結婚されてるんでしたね。すみません、気が利かず」
 男は深く、頭を下げる。

「じゃあ、またご一緒にご飯を食べましょう。」
「はい。今日はとても楽しい時間を過ごす事が出来ました。ありがとうございました」
 俺は男と握手を交わすと、手を挙げタクシーを止める。

「あぁ! そうだ! 忘れてた!!」
 俺はタクシーをそのままにレストランへ入っていく。

「?」
「ふぅ。これでよしと」
「何をしに行ったんですか?」
「ん? あぁ! これですよ! 家内にお土産で持ってこうと思って!! ふふっ、家内の嬉しいけど隠せてない顔が目に浮かびますよ!」
 俺はお土産に買った物を大事に抱えて、タクシーに乗る。

「ふふふっ! やはり貴方と一緒に居ると何時間でも話し続けられそうですよ!」
 男は腹を抱えて笑っている。

 そこまで面白かったか?
 まぁ、楽しんで貰えたならいいか!

「ではまた今度会った時はよろしくお願いします! 結城さん!!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。四月一日さん」
 2人の会社の代表食事会は、無事に終わりを迎えた。



「母さん! これお土産で買って来たぞ!」
「な、何よこれ…」
「前に上手い魚が食べたいって言ってたろ? だから買ってきたんだけど…」
「要らないわよ、なんでこんな物を…」
 母さんはそれをしまう為、背中を向ける。しかし、母さんの耳は真っ赤になっていて嬉しさを隠しきれていない。

「ふふっ!」
「何を笑ってんのよ…」
 母さんがまたこちらを振り返ってる時には元通りになっている。

「いや~俺、母さんが大好きだなぁって思ってさ!」
 俺がそう言うと、母さんは俺の胸に寄りかかった。

「…バカ」
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