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第2章.幻想

44.90年前

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「昔からですか?」
 確かに…あの黒いモヤはソーマが生きている頃から存在した。

 でもなんで此処に襲って来たんだ?


「詳しく知りたいならうちの資料室を見たらいい。」
 ラスカ陛下はそう言うと、ついて来いでも言う様に謁見の間を出る。
 私達はそれについて行った。





「此処がソシャールの資料室だ。存分に使ってくれ。」
 扉が開かれる。そこは何処にでもありそうな、学校にある様な図書館だった。本棚は大体20個位だろうか。多いと言われたら多い位だった。


「す、凄いですね…。」
 あまり凄くないけど、顔に出さないようにしないと…。


「…無理しなくても良い。」
 ラスカ陛下は大きな溜息を吐いた。


 バ、バレバレか。
「す、すみません。で、でも! 綺麗に整えられてますね!!」


「……黒霧の資料はこっちだ。」
 ラスカ陛下は奥へと歩いていく。


 む、無視ですかー。
 私は、お腹を痛そうに抑えてるサキさんと一緒にラスカ陛下の後をついて行った。


 …柚月ちゃんに後で胃薬買ってあげよ。


「これだ。最初に黒霧にこの国が襲われたのは今から300年前だ。」
 ラスカ陛下は一冊の本を開いた。


 おー、凄い昔。
 国からしたら最近なのかもしれないけど。
 私はラスカ陛下の話を聞き続ける。


「その時は30匹位の魔物が襲って来たらしい。今と比べれば小さな騒動で、被害も軽微だったらしい。」
 ページを捲る。


「その次は…90年前。」

「90年前!? 飛びすぎじゃないですか?」
 300年前から90年前になるって、流石に書き忘れてたでしょ!


「いや、恐らく合っておる。90年前と言えば氷神によって世界が凍り始めた時期だ。その頃から活動が活性化しても可笑しくはなかろう?」
 ラスカ陛下は平然とした顔で言うと、また本に目を落とす。


 世界が凍り始めたのは90年前だったのか。

 これは……。私はサキさんを見る。

 サキさんは目を見開いて、口もポカンと空いている。サキさんも知らなかったみたいだ。てことは恐らく新情報。


「それで…90年前はどのよう被害があったんですか?」
 私は本を見ているラスカ陛下に尋ねる。


「その時は…此処ソシャールを囲う様に沢山の魔物が襲撃に来た様だ。そしてこの国の城壁の1部が破壊されている。」


「え!!」
 あの城壁を破ったのか…。私の【影魔術】が今でやっと傷をつけている程度。90年前だったらもっと堅牢な筈。


「その時の魔物達は、死物狂いの戦いぶりで兵士を殺して行ったらしい。その理由は分からん。」
 ラスカ陛下はそう言って本を閉じた。


 90年前、世界が凍り始めた時期に黒霧はソシャールを襲った。
 理由はわからないままか…。


「すまぬ。お主の表情を見る限り、役に立てなかったようだな。」

「あ、いえ! わざわざ教えて頂き、ありがとうございます!!」
「ああ、あありがちょうございますっ!!」
 私とサキさんはラスカ陛下にお礼を言って、王城から出た。





 ほんと…これからどうしよう。

「90年前っていうのは分かったけど…。」
 私は道端で頭を抱える。


「まぁ、ここまで分かったんだからいいじゃない。1歩ずつ進歩してるわ。」
 サキさんが言う。
 うーん、確かにそうだけど。私が悩んでいると頭上の方から、


(90年前は僕が死んだ時ぐらいですね。)
 ソーマが言う。


 え?
 …待てよ。90年前にソーマが死んじゃったならあの過去の事もあったんだよな…。

 じゃあ、あの事も…。



〈「黒霧の逆襲」フェイズ2をクリアしました〉
〈フェイズ3へ移行します〉
〈黒霧を討伐してください〉
〈これはフェイズ2をクリアした者、パートナーにしか知らされていません〉



 え…。今ので合ってたのか。
 私はソーマを見る。


(クリアしたんですか?)
 ソーマが聞いてくる。

(クリアした!)
 ベリアルも喜んでいる。


「…そうみたいだね。」
 私はソーマにそれだけを言った。


「何かあった? ベリアルが嬉しそうに踊ってるけど。」
 サキさんが聞いてくる。


「…いえ、何もないですよ。」



 さっきのが合ってたとしたら…


「フォッグの街へ行きましょう。」

「良いけど、何か根拠があるの?」

「はい。少しだけ。」
 私はサキさんに、フェイズ3に移行した事を言わずに、フォッグの街の場所が分かるというサキさんの後をついて行った。





「ここがフォッグの街なの…?」
 サキさんが言う。


 そこには最初この街に来た様に、木がすべて黒くなっていた。
 私の中で1番驚いている事は霧だ。
 この前まで薄暗い霧があったが、今は真っ黒い霧に街が包まれていた。


(スプリング…)
(スプリングさん…)

「うん…行こうか。」
 私達は黒い霧を掻き分け様とした。
 すると、


「痛っ!」
 サキさんが霧にぶつかる様にして転ぶ。


「何これ? 霧が壁みたいになってるんだけど。」
 サキさんは霧をコン、コンと叩く。


 …フェイズ2をクリアしてないと入れないのか。


「サキさんは待っててください! 私が調べて来ます!」

「まぁ、しょうがないね。気をつけて行って来てね。」

 サキさんは私が黒霧がソシャールを襲った理由を探しに行くと思っているのだろう。だけど、私達の目的は、


「助けに行こうか。」


 私達は、粘り強く身体に纏わりついてくる感覚を味わいながらフォッグの街へ入って行った。










 ……。



 パラッ
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