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第5章 なんでもない!
第45話 心残り
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「無事、終わったかぁ」
世理は神輿から少し離れた場所で、ヘアゴムを取った。
神輿は無事に商店街を練り歩き、葵達のクラスの神輿は他のクラスとは一線を画し、一層盛り上がった。
一応、何か壊れる事がないかと心配していたが、何もなく終わって良かった。
写真もいっぱい撮ったし、青春をこんな間近で感じる事も出来た。
俺にとっても…勿論、葵にとっても良い神輿になっただろう。
だがーー
結局、俺は葵達の文化祭に手を出し過ぎてしまった。
俺はもう高校生活が終わった人間だ。俺のクラスがあったからこその青春。俺が今のこのクラスに入っている訳でもないのに、此処まで手を出しても良かったのだろうか。
今になって、椿先生の言葉が気に掛かる。
あぁ…。なんかこう、苦しくなるな。
ピーッ!!
俺が空を眺め黄昏ていると、商店街中から甲高い笛の音が鳴り響いた。
「ありがとうございまーす!! これにて風嶺《ふうりょう》高校文化祭!! 神輿引きを終わります!! 引き続き商店街ではセールが行われていますので、お楽しみ下さい!!」
先生と思わしき男の人が拡声器を使って話す。
「また!! 風嶺高校では学生達が売店を出していますので、良かったらお越し下さい!!」
あぁ、そうだった。売店もあったんだったな。
だけど、もうこれ以上関わるのはーー
「来ないんですか?」
「…葵」
俺が踵を返そうとした瞬間、葵の声に足を止め振り返る。
そこには汗だくな姿で、少し髪が乱れている葵の姿があった。
あぁ、よく頑張ったんだな。
「そのつもりだ」
温かい気持ちになると同時にそう言うと、葵は分かりやすく眉を顰めた。
「何で…?」
「何でって……言ったら、別に。俺が行く決まりもないだろ」
「そうですが…」
俺が少し冷たく言うと、葵は困った様に俯く。
「なら、それまでだ。後は葵達で楽しんでこい」
「ま、待って下さい!!」
俺が離れようとすると、葵が大きな声を出す。そして、近くに居た生徒達が此方に注目しているのが分かった。
「なんだ?」
俺は振り向かずに聞いた。
「~ッ………今日後夜祭で夜遅くに帰らないと行けません。だから、午後7時に迎えに来てくれませんか?」
消え入りそうな声で葵が話す。
そう言えばそんなのもあった。俺はあの時、そんな事をしてるよりも絵を描こうと、なるべく親父を助けようと、速攻で家に帰っていた。だから気付かなかったんだ。
那由さんにはしつこく誘われていたが。
懐かしいな…だが、それだけだ。
「あぁ、分かった。校門前でいいか?」
「…はい」
俺はそのまま、足を進めるのだった。
***
「葵」
「…」
「葵さーん」
「……何? 環」
「一応だけど、葵はこのクラスのエースなんだから、しっかり爽やかな愛らしい笑顔を浮かべるべきだと思うんだけど?」
私は今店の受付兼会計を行っている。
私のクラスであるメイド喫茶は『デレデレメイド喫茶』という物になった。女子がデレながら接客をするという、特徴的なメイド喫茶だ。
「私はこんなメイド喫茶反対だったし……しかも私は裏方の予定だった。此処にいるだけありがたいと思ってよね」
こんなメイド喫茶にしようと名乗りを上げたのは、私の前でニヤニヤしているこの人だ。私は皆んなの意見で多数決で決めようと思ってたのに…
『"デレデレメイド喫茶"とかどうかな? 葵のデレデレしてる所とか見てみたいし』
何故かこの一言で、さっきまで得票数を集めていた"アニマルメイド喫茶"を追い抜き、デレデレメイド喫茶という意味不明なのになってしまったのだ。
「あはは…まさか皆んなあそこまでノリノリになるとは思わなくて……ごめん」
「はぁ。別に良いけど……」
なんだかんだで皆んな楽しそうにしてるし……店も凄い盛況だし。
悪い事は何も無い…けど……
「あー…やっぱりお兄さんの事気になってるんだ?」
「……どうして今あの人の事が出てくるの?」
「どうしてって、顔にそう書いてるよ。愛しのお兄様に冷たくされちゃった~! どうしよ~! って」
「ちょっと!!」
ふざけて声を上げる環に、私は思わず掻き消すかの様な大声でそれを止めに入った。すると、クラスが凍りついたのが自分でも分かった。
あ、え? 今の私?
あまりの大声に自分で戸惑いながら冷静さを取り戻すと、私は頭を下げた。
「……ごめん」
「あー…いや、私の方こそごめん。ちょっとふざけ過ぎちゃった」
環は笑いながら謝った。気にしていない様子には見える。
だけど、私が叫んだ瞬間の環の顔が、頭から離れない。意外そうな、戸惑った表情。
「ごめん……ちゃんと笑って接客するから」
そう言うと環は、一瞬泣きそうに眉間に皺を寄せた。そしてすぐ様、表情を元に戻す。
「あ、うん! じゃ、よろしく!」
手を上げて、私から環は離れて行った。
あー…なんかもう、全部ダメに感じる。
「いらっしゃいませー」
笑顔で接客している、その筈だ。
だけど何故か、とてつもなく自分の顔が引き攣っているのではないかと不安になる。
今考えれば、環は私が落ち込んでいるのを見て、元気づけようと話かけてきたのではないだろうか。
考えれば考える程、そう思えてくる。
多分…環にとって、義兄の話題で私が叫ぶぐらい怒るとは予想していなかったんだろう。それを言ったら、私もだ。私もあの人の話題で此処まで怒るなんて思わなかった。
神輿でもそうだ。私が前日の内に点検していたら、あの人の手を借りずに終わっていた筈だ。このメイド喫茶にも足を運んでいてくれたかもしれない。
あぁ。私はなんてーー
キーン コーン カーン コーン
初めての高校の文化祭は、私に楽しさと同時に、後悔を感じさせながら幕を閉じた。
世理は神輿から少し離れた場所で、ヘアゴムを取った。
神輿は無事に商店街を練り歩き、葵達のクラスの神輿は他のクラスとは一線を画し、一層盛り上がった。
一応、何か壊れる事がないかと心配していたが、何もなく終わって良かった。
写真もいっぱい撮ったし、青春をこんな間近で感じる事も出来た。
俺にとっても…勿論、葵にとっても良い神輿になっただろう。
だがーー
結局、俺は葵達の文化祭に手を出し過ぎてしまった。
俺はもう高校生活が終わった人間だ。俺のクラスがあったからこその青春。俺が今のこのクラスに入っている訳でもないのに、此処まで手を出しても良かったのだろうか。
今になって、椿先生の言葉が気に掛かる。
あぁ…。なんかこう、苦しくなるな。
ピーッ!!
俺が空を眺め黄昏ていると、商店街中から甲高い笛の音が鳴り響いた。
「ありがとうございまーす!! これにて風嶺《ふうりょう》高校文化祭!! 神輿引きを終わります!! 引き続き商店街ではセールが行われていますので、お楽しみ下さい!!」
先生と思わしき男の人が拡声器を使って話す。
「また!! 風嶺高校では学生達が売店を出していますので、良かったらお越し下さい!!」
あぁ、そうだった。売店もあったんだったな。
だけど、もうこれ以上関わるのはーー
「来ないんですか?」
「…葵」
俺が踵を返そうとした瞬間、葵の声に足を止め振り返る。
そこには汗だくな姿で、少し髪が乱れている葵の姿があった。
あぁ、よく頑張ったんだな。
「そのつもりだ」
温かい気持ちになると同時にそう言うと、葵は分かりやすく眉を顰めた。
「何で…?」
「何でって……言ったら、別に。俺が行く決まりもないだろ」
「そうですが…」
俺が少し冷たく言うと、葵は困った様に俯く。
「なら、それまでだ。後は葵達で楽しんでこい」
「ま、待って下さい!!」
俺が離れようとすると、葵が大きな声を出す。そして、近くに居た生徒達が此方に注目しているのが分かった。
「なんだ?」
俺は振り向かずに聞いた。
「~ッ………今日後夜祭で夜遅くに帰らないと行けません。だから、午後7時に迎えに来てくれませんか?」
消え入りそうな声で葵が話す。
そう言えばそんなのもあった。俺はあの時、そんな事をしてるよりも絵を描こうと、なるべく親父を助けようと、速攻で家に帰っていた。だから気付かなかったんだ。
那由さんにはしつこく誘われていたが。
懐かしいな…だが、それだけだ。
「あぁ、分かった。校門前でいいか?」
「…はい」
俺はそのまま、足を進めるのだった。
***
「葵」
「…」
「葵さーん」
「……何? 環」
「一応だけど、葵はこのクラスのエースなんだから、しっかり爽やかな愛らしい笑顔を浮かべるべきだと思うんだけど?」
私は今店の受付兼会計を行っている。
私のクラスであるメイド喫茶は『デレデレメイド喫茶』という物になった。女子がデレながら接客をするという、特徴的なメイド喫茶だ。
「私はこんなメイド喫茶反対だったし……しかも私は裏方の予定だった。此処にいるだけありがたいと思ってよね」
こんなメイド喫茶にしようと名乗りを上げたのは、私の前でニヤニヤしているこの人だ。私は皆んなの意見で多数決で決めようと思ってたのに…
『"デレデレメイド喫茶"とかどうかな? 葵のデレデレしてる所とか見てみたいし』
何故かこの一言で、さっきまで得票数を集めていた"アニマルメイド喫茶"を追い抜き、デレデレメイド喫茶という意味不明なのになってしまったのだ。
「あはは…まさか皆んなあそこまでノリノリになるとは思わなくて……ごめん」
「はぁ。別に良いけど……」
なんだかんだで皆んな楽しそうにしてるし……店も凄い盛況だし。
悪い事は何も無い…けど……
「あー…やっぱりお兄さんの事気になってるんだ?」
「……どうして今あの人の事が出てくるの?」
「どうしてって、顔にそう書いてるよ。愛しのお兄様に冷たくされちゃった~! どうしよ~! って」
「ちょっと!!」
ふざけて声を上げる環に、私は思わず掻き消すかの様な大声でそれを止めに入った。すると、クラスが凍りついたのが自分でも分かった。
あ、え? 今の私?
あまりの大声に自分で戸惑いながら冷静さを取り戻すと、私は頭を下げた。
「……ごめん」
「あー…いや、私の方こそごめん。ちょっとふざけ過ぎちゃった」
環は笑いながら謝った。気にしていない様子には見える。
だけど、私が叫んだ瞬間の環の顔が、頭から離れない。意外そうな、戸惑った表情。
「ごめん……ちゃんと笑って接客するから」
そう言うと環は、一瞬泣きそうに眉間に皺を寄せた。そしてすぐ様、表情を元に戻す。
「あ、うん! じゃ、よろしく!」
手を上げて、私から環は離れて行った。
あー…なんかもう、全部ダメに感じる。
「いらっしゃいませー」
笑顔で接客している、その筈だ。
だけど何故か、とてつもなく自分の顔が引き攣っているのではないかと不安になる。
今考えれば、環は私が落ち込んでいるのを見て、元気づけようと話かけてきたのではないだろうか。
考えれば考える程、そう思えてくる。
多分…環にとって、義兄の話題で私が叫ぶぐらい怒るとは予想していなかったんだろう。それを言ったら、私もだ。私もあの人の話題で此処まで怒るなんて思わなかった。
神輿でもそうだ。私が前日の内に点検していたら、あの人の手を借りずに終わっていた筈だ。このメイド喫茶にも足を運んでいてくれたかもしれない。
あぁ。私はなんてーー
キーン コーン カーン コーン
初めての高校の文化祭は、私に楽しさと同時に、後悔を感じさせながら幕を閉じた。
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