勘違い(仮タイトル)

mare

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 電車に揺られ、小一時間ほど前の事を思い出す。
訳の分からない事を言う笹山を有無を言わさず荷物を持たせそのまま追い出し実家へと向かう準備をした。その間彼はドアの前にいたようだがその内に諦めたのか姿はなかった。
 
 ほんと、質が悪い冗談だ。

 それに、これから向かう実家には冗談では済まされない面倒なことがまっているはず。
 
 開かなければ良いのにと思う気持ちを無視して無情に電車の扉は開く。
 仕方なく重い足取りでホームへと降りた。
 どうせ言われる事は分かっている。
 それでも向かうのは親との約束を守るため。一人暮らしをするには、月に最低1回は実家に顔を出すというのが条件だから。

 約束を破れば、実家に連れ戻され見合いをさせそのまま結婚……。
 そんなのは、嫌だ。

 母は、とりあえず結婚しろ、別れたかったら別れたらいいというめちゃくちゃな考えだ。
 父は、厳しかったけど私を可愛がってくれた。けれど、女は早く結婚して子供を育てるのが幸せだと信じている。
 まぁ、それはそれで幸せの1つだとは思うけれど。懲り懲りそう思ってた。
 それなのに、昨日は笹山に不覚にも揺れてしまったのも事実。肩意地張ってやってきたからちょっと優しくされると揺れてしまうのは仕方ない。

 そう思うのは、自分に甘い?

 改札を出ると同時にクラクションが軽く鳴らされ、その音のした方を見ると見慣れた車が停まっていた。
 早歩きで向かい車の中と乗り込む。

「姉ちゃん、遅い」

 弟の瑛太だ。今年、社会人として働き出した。生意気だけど、姉想いの良い弟だと思う。

「出るの遅くなるって連絡したし。迎えもいいって言ったじゃない」

「そんなの、父さんが許すわけないじゃん」

「もう、いい歳なのに……。いつまでも過保護ねぇ」

「しょうがないよ。一人暮らし始めたから余計に心配みたいだし」

「それでもねぇ……」


 苦笑いしか出てこない。

 父にも母にも感謝はしてる。だけど、過保護過ぎて息が詰まる……。今時、遅くても8時とかはないと思う。友達と食事にすらまともに行けたことが無い。

 就職が決まった時に何がなんでも一人暮らしをして羽根を伸ばしたかった。
 そんなワガママのせいなのか初めて出来た彼氏には浮気され散々な思いをした。それからは、彼氏を作る気になれなかった。でも、5年あれば色々あるもので、人肌寂しい夜もある。そんな時は癒してもらうだけの人を作ったりした。お互い利害関係が一致していたから楽だった。最近は、お互いに忙しかったりもあり会うことはなくなっていたけど……。

 自分でもこんなことができる性格とは思わなかった。社会に出て裏側も見たお陰か弄れたいい性格になったかもしれない。

 まぁ、両親が知れば、家から一歩も出してはもらえないだろうけど。

「ほら、父さん待ってるよ」

 見慣れた景色をボーッと眺めていると、玄関で立つ父がいた。車に気づくとスっと家の中に入っていく。
心配をかけていることと後ろめたさで胸がチクリとする。

「ほら……。姉ちゃん愛されてるねぇ」

 ちらっと見るとイタズラが成功した子供みたいに微笑む。
 照れ隠しと居心地の悪さに顔を逸らしてしまった。

「いいからっ!ウチはいるよ!」

 瑛太を残しさっさとと家に入る。居間へと向うと父がソファーで新聞を読み何事もなかったようにお茶を啜っていた。

「……ただいま。これたい焼き、こし餡のやつ。食べる?」

「あぁ、食べるよ。母さんはもう少ししたら帰ってくる」

「買い物? お茶入れとくね」

 視線は、会わないまま少しぎこちない感じで会話が始まりそのまま終わる。そのタイミングで瑛太も居間に入ってきた。

「瑛太もたい焼き食べる?」

「食う食う!あっ、俺はコーヒーね」

そう言うと、ドカッと父の向かいのソファーに腰掛けた。
父はチラッとそんな瑛太に視線をやりすぐに新聞へと戻した。

「最近どうだ?」

たい焼きも食べ終わりお茶を飲み一息ついていると父から切り出した。

きた…。

「何が?」

 素知らぬ顔で返事をするが、内心は焦っていた。
 
 切り出すの早くない?
 そう思いつつも平静を装い次の言葉を待つ。

「相手はできたのか?」

「相手って言われても…」

ダメだ。うまく切り返せない。このままだと逃げきれなくなってしまう。

「いないのか……。仕事もいいが、結婚はどうするんだ。もう27にもなって付き合う相手もいないとはな?」

 言い返せないし、思いつく言葉がない。自分の引き出しのなさに落ち込む。
 付き合ってはないけど、体の関係だけはありますとも冗談で付き合おうとか言う奴もいますとも……言えない。言えるわけがない。


「ただいまぁー」

 そんな微妙な空気になっているとは思わない母の第一声が間に入ってきた。

「あら、夏希お帰り」

 たい焼きを見つけるとそのままパクリと食わえながら鼻歌交じりに買い物袋を持ちキッチンへと消えていった。
母に出鼻を挫かれたのか父は、新聞をまた読み出した。
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