振り向けば君がいた

和之

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第三十六話-

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 またお姉さんに逢えて嬉しいと佳乃《よしの》が母に頼まれて駅まで迎えに来る。都会の冬はまだ足踏みをしているのに、丹後の冬はすでにモノトーンの世界だ。しかし冬はこれからだと佳乃は言った。確かに天気は良いが冷たい風が頬を刺す。そしてさっきまで雪か雨か降っていたように路面は濡れている。佳乃が云うにはこれが寒波の来る前触れらしい。
「今日は此の人をお母さんに胸を張って紹介出来るの」
 と希美子は誇らしげに佳乃に言う。
「これで晴れて二人は誰からも祝福されるのね」
 と佳乃は浮かぬ顔の野村に言った。
「この人いつもこう云う顔してるから気にすることはないのよ」
 佳乃は前回で野村の性格を充分に承知していたから別に気に留めなかった。それが余計に野村を憂鬱にさせる。
  車はタクシーの空車が並ぶ駅前のロータリーを抜けて国道へ走り出た。
「お客さん来ないのね」
「手前の橋立までは来るんだけどね、後はそのまま隣の城崎まで行ってしまうの」
 と佳乃は寂しい笑いを浮かべて話す。
「そんな所を母が選ぶなんて」と希美子は車窓を見回してから「家《うち》の母は長いって言ってたけどいつから住んでるのかしら」と言った。
「そうねあたしの生まれる少し前だから」
「じゃああたしを身ごもってすぐに来たのね」
 二人は運転席と助手席に座っている。
 後部座席では野村が窓の外を眺めながら、陽子には付き合ってる人がいると希美子は言うが、本当なのかとふと考えている。生死を共にする仲だと、冗談半分に言った希美子さえ知らない陽子の相手とは、ビリヤード店で見る限り中本は有り得ない。
 そもそも希美子は陽子は取り乱す事の無い子だと言っていたが、どうしてそう言い切れるのか解らない。二人とも寮で同じ屋根の下で生活していたから、異性の野村よりもざっくばらんに込み入った会話が、交わされているかも知れない。それで野村の知らない世界が、そこで展開していたとしても不思議ではない。
  だが恋敵となると話は別ものだと思える。陽子も信州へ行くまではそんな素振りがあった。だけど陽子は野村が見詰めると直ぐに恥ずかしそうに背けた。あの頃の陽子と今の溌溂とした様子は、やは付き合っている人が居ても不思議でないのかもしれなかった。
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