振り向けば君がいた

和之

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第十四話

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 翌朝の朝食は一階の畳敷き大広間で取った。白いテーブルクロスの掛かった座敷用卓には各部屋ごとに食事が用意されている。夏休みで小人数のグループが多い中で我々の十一人のテーブルは目立った。仲居さんは幾つかのテーブルを掛け持ちしていたが我がテーブルには一人専属だった。
 野村が席に着いた頃には橋場さんの義兄弟以外はそれぞれペアで座ってた。後は尚子さんと陽子ちゃんの間だの席しか空いていない。
 そこに座ると早速仲居さんがご飯をよそおってくれた。希美ちゃんはこちらを見るなり歯を磨く仕草をした。首を振ると彼女は顔を顰めた。
「磨かなあかんよ」と隣の陽子ちゃんが代弁している。
「野村くんあんたそんなんでは彼女出来たらキスしてもらへんよ」と尚子さんも説教する。向こうで希美子は笑っていた。
 陽子ちゃんがビールを勧めてくれる。野村は車を運転する尚子さんに同情すると「夕べ十分飲んだからええよ」と陽子ちゃんにビールを勧めていた。
「尚子さん、マージャンはどうでした?」
 彼女が言うには、睦夫さんがもう少しましかと思ってたのに、からっきしあかんから代理の長丁場で疲れたとの事。希美ちゃんはと見ると深山さんと愉しそうに喋ってるではないか。昨夜の屋外での同情はなんだったのかと勘ぐりたくなる。その深山さんは一晩中マージャン部屋に居た。
「まさか車運転するのに昨日は徹夜ってことはないでしょうね?」
 思わず隣の食事中の尚子さんに訊いてしまった。
「みんなちゃんと寝たわよ」 
 彼女はつまらぬ質問にも真面目に答えてくれた。
「内とこの車は尚ちゃんだけなのだから車運転出来るのは」
「橋場さんの義弟さんが運転出来るから代わってげてもいいよって言ってけどお断りしたわ、内の車は女の子ばかりやからね」
「野村くんは上手く深山さんの車に収まったわね」陽子が皮肉っぽく言った。
「もともとは深山さんが希美ちゃんとドライブするのが目的なんやから野村くんはちょっとは遠慮せんとあかんのちゃう」
 尚子さんの言い分はもっともだけど希美ちゃんが是非にと同乗をせがまれた経緯を説明した。
「ああ、そうなの」
 アッサリと尚子さんが感心した意味が分からなかった。
 この日の朝食はみんな少しお疲れ気味だった、がそこはたまのお盆休みなので直ぐに張り切りだした。さすが信州だけあって爽やかな朝だった。次々に荷物を車に積み込むと出発した。

  この日は上高地へ向かった。窓から入る信州の乾いた風は爽やかで京都とは比べものにならない。
  移動中はハンドルはずっと深山が握ってるから希美子はシートに肩肘掛けて振り向いて野村と話すことが多かった。時々深山のギヤ操作の邪魔になりかけるとゴメンゴメンと軽く流していた。それでいて食事時も観光も深山《みやま》と希美子は常に一緒だった。
 トヨちゃんと睦夫さんは照れくさいのか別々に歩く方が多かった。此の二組を比較すると熟年カップルと未成塾カップルに見えた。第一睦夫さんは照れ屋だ。白井ことのりちゃんはズケズケと物を言うから此の二人は漫才コンビみたいに座を笑わしてくれる。麻雀要員の義弟さんもスッカリ此の旅行に慣れてしまった。二日目の宿はやはり取れなくて、この日は上高地から平湯峠のキャンプ場に戻った。
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